
『きかんしゃトーマス』、シリーズ刷新ごとに対象年齢下がってる説
『きかんしゃトーマス』がAmazonプライム特典から消えて困っている。
いつもアマプラで観たいビデオが見つからない時、とりあえずトーマスを流しっ放しにしていたからだ。
子どもの頃からトーマス好きであり、親になってからも、子がドハマりしてエンドレスで観まくっていた思い出があるから、何かこう、長年の友を失ったような気持ちである。
プライム特典から消えた理由ははっきりしないけれど、おそらく2Dアニメによる新シリーズ『All Engines Go』の開始に伴うものと思われる。
プライム内のチャンネル「Anime Times」に登録すれば観られるらしいが、今まで無料で観ていたものに課金するのは、ちょっと癪だ。
『トーマス』といえば、模型による人形劇をイメージする方が多いだろう。
人形劇時代の作品は、後年のCGシリーズと区別し「クラシックシリーズ」と呼称されている。
クラシックシリーズは、1990~2007年までフジテレビ『ポンキッキ』内、2008年からは声優陣を総入れ替えし、テレビ東京『のりスタ』内で放送された。
2010年のシーズンではフルCGアニメ化され、2012年以降はEテレでの放送に移動。さらに2022年からは、それまでの3DCGから、2Dアニメによるシリーズに。
放送局や形態を何度も変えながら、『トーマス』の映像作品は今日まで続いている。
クラシックシリーズ(第1~7シーズン)
『きかんしゃトーマス』は、ウィルバート・オードリー牧師による絵本『汽車のえほん』が原作となっている。
ウィルバートは、鉄道の描写に関して、徹底したリアリストであったという。物語の中で起きる事件や事故は、実際の出来事から採られたものが多い。
その「子供騙しではない」ところが受け、『汽車のえほん』は人気作となった。
そんな作者の意思が最大限に汲まれたのが、最初の映像作品である模型シリーズであった。
『サンダーバード』にも携わったデヴィッド・ミットンが監督を務め、原作者のウィルバートとその息子・クリストファーも製作に協力し、作品は高い評価を得た。
当初は原作に沿った物語を放送していたが、放送が第3シーズンを数える頃には枯渇し、ブリット・オールクロフトらによるオリジナルストーリーが製作されるようになる。
それらの物語では、原作ほど鉄道のリアリズムが徹底されておらず、ウィルバートは激怒したという。
昨今取り沙汰されている「映像化に際する原作者とのトラブル」は、この時代にもあったようだ。
1997年にウィルバートが亡くなって以降の第5シリーズからは、改めて原作者の意向を尊重し、鉄道考証のアドバイザーを入れ、実際の事故をモデルとしたリアリティのある物語が製作された。
新クラシックシリーズ(第8~12シーズン)
ブリット・オールクロフトによる初の長編映画『きかんしゃトーマス 魔法の線路』が大コケしたのをきっかけに、制作会社がヒット・エンターテイメント社に完全に移ると、それまでのリアルな鉄道事情が盛り込まれたシニカルさもある物語から、より「子ども向け番組」としての意味合いを強めていく。
また、女性機関車キャラがレギュラー入りしたり、この時代のイギリスにはありえない黒人の市長、メガネをかけた機関車の登場など、さまざまな「配慮」が行われるようになる。
この時期に「トーマス」は、完全に「教育的キャラクター」としての存在へと変わっていったように思う。
3DCGシリーズ(第13~24シーズン)
長編4作目の『伝説の英雄(ヒロ)』およびテレビ第13シーズンから、カナダのナイトロジェン・スタジオによるフルCG製作に変更。
映画に登場した「ヒロ」は、D-51をモデルとした、日本出身のキャラクターだ。ヒロ以外にも、CG化以降、外国出身キャラが急激に増えている。
『キング・オブ・ザ・レイルウェイ トーマスと失われた王冠』および第17シーズンからは、同じくカナダのアーク・プロダクションに製作が移行。
このシーズンから、クラシックシリーズにも参加していたアンドリュー・ブレナーが筆頭ライターを務め、鉄道考証のアドバイザーを入れるなど、ふたたび原作を尊重する体制に。
海外展開を意識した国際化や、「教育的」な番組作りと平行して、原作の持つリアリティという原点に立ち返った時期とも言える。
映画も毎年公開され、「CG版トーマス」は安定期に入ったかに見えた。
しかし、第22シーズンでさらに番組が「教育的」に傾く出来事が起きる。
国連との共同企画により、SDGsを意識したエピソードが製作されたのだ。
具体的には、アフリカ出身の女の子機関車・ニアがレギュラー入りしたり、トーマスがソドー島を飛び出して世界の様々な国で仕事をしたり、環境問題が取り上げられたり・・・・といった具合。
国連HPによれば、シリーズ26話中9話にSDGsが取り入れられているそう。
また、レギュラー機関車(ティドマス機関庫のメンバー)内での女性キャラの比率を増やすために、エドワードやヘンリーが準レギュラーに降格させられるなど、クラシックシリーズからのファンには寂しい変更も行われている。
2Dアニメシリーズ(第25シーズン~)
3Dアニメシリーズが終了し、2022年放送分から、カナダのネルバナ社による2Dアニメへとリニューアルされた。
キャラクターの等身も顔つきもかなり変更され、それまでの「幼児向け」から更に幼い「0~2歳向け」に対象年齢が下がったような印象。
CG時代が『おかあさんといっしょ』なら、今シリーズは『いないいないばあっ!』という感じだ。
ようやく馴染んだ声優陣は一新されているし、完全にリアリティを排除されカートゥーン化した作風、トーマスを「子ども」、ゴードンを「大人」と設定している点にも、違和感が拭えない。
この変わり様は、ディズニーのキャラクター消費の切なさにも似ている。次々にCG化され、さらに等身が縮んでドタバタギャグ短編として消費されるクラシック作品を見るようだ。
(ひとつ例に挙げるなら、『ミッキーマウス クラブハウス』やディズニーキッズの『ミッキーマウス!』のように。)
私は少し懐古主義的かもしれない。それでもやはり、原作者の意向を汲んだ映像作品作りというのが、もっともファンを納得させるものだと思っている。それでこそ、キャラクターも活き活きしてくるというものだ。
ウィルバート・オードリー牧師は、子どもをとても尊重する人だったと、ドキュメンタリー番組で見た記憶がある。「子どもは時に、大人より賢い」と考えていたそうだ。
おそらく読者である子どもたちのことも、一人の鉄道愛好家として扱っていたのだと思う。
果たして今の『トーマス』に、その精神は受け継がれているだろうか?
そう問い続けながら、今後の変遷を見守って行きたい。
この記事を書くに当たり、「汽車のえほん・きかんしゃトーマスWiki」を参考にさせていただきました。ありがとうございました。
とても充実したデータベースなので、つい時間を忘れて読んでしまいます。
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