見出し画像

儀式1:古く大和の国にいた類のもの


なんとなく、ここはガーナだ・・・と思ったが、ガーナには海がなかったような気がする。
タンザニアか・・・もしかしたら大陸ではなく、島なのかもしれない。
拡がる海の青が深い。白い波がたくさん見えるのは風が強いのか。
わたしはそこで暮らしていた。そして、帰国の日が迫っていた。


薄暗いカフェ。小さな窓からは外の海が見える。恰幅の良いママさんがお金を数えていた。
いつも不機嫌なケリィがやってくる。わたしは彼女の笑っているところを一度も見たことがない。
ケリィはエプロンを投げ、帰ってしまった。ママさんは「あんたにやるお金はないよ!」と怒鳴っていた。

いつもおどおどしている風に見えるが、とても気の良いマリアがやってきた。
マリアはもうすぐ結婚することになっている。人々は彼女のことが大好きだ。
彼女の心は澄み切っていて、一緒にいると気持ちが安らぐ。
決して何か言うわけでもないのに、彼女を前に話していると、自分の行くべき道が見えるような感じ。


「マリア、どうしてもそれをすると言うのかい?」
ママさんが心配そうにマリアに聞いた。マリアは「そうね。」と言って微笑んだ。
「彼のやりたいように、って思うの。わたしは彼のことを信じているし。なんにも心配ないわ。」
わたしが「何をするって言うの?」と聞こうとしたとき、迎えがやってきた。


「決めたことがあるんだ!」
彼はわたしの恋人らしい。まだ若い。心からわたしのことを好いているのだろう。まっすぐな目をしている。

彼に連れられ、広い丘のようなところへと行った。
背の高い葉たちが風に揺られ、波のように押し寄せてくる。緑の波の向こうには、やはり青い海が見える。
丘には大勢の人々が集り、思いおもいの姿勢で空を見上げていた。
陽はようやく傾きかけたところ。海風が強い。陽射しはそれほどでもなく、暑さは感じない。


どこからか聞き慣れない金属音が聞こえ始めた。手をかざし空を見上げると小さな飛行機が飛んでいる。
飛行機?
ちがう。飛行機のような形ではない。つまり、羽らしきものがない。円盤?のような感じ。
人々は皆、それを眺めている。喜んで手をたたいている人もいる。
わたしは何がなんだかわからない。恋人は紅潮した頬でそれを見ている。
それは、生きもののようにも思えた。

と、その円盤はとんでもない飛行をして(目では追えないような)空に文字らしきものを書き始めた。
―ように見えた。が、わたしにはそれが読めない。
この国の言葉でもないのだろう。隣にいた恋人にもわかっていないようだった。
円盤はしばらくその無茶苦茶な飛行をした後に、突然消え去った。
いきなり、ぱっ と、消滅したのだ。

わたしは酷く怖ろしいものを見たような気持ちになり、顔を覆った。
あれはきっと宇宙人で、何か悪い啓示のように思え、体が震えてしかたがなかった。
すると、ひとりの老人が穏やかな口調でわたしに言った。
「心配ないよ。あれは、古く大和の国にもいたと言われる類だから。」


恋人はそんなわたしを気にする風でもなく興奮気味に言った。
「やっぱり決めたよ。僕らも儀式に参加しよう!」 




・・・つづく 04/21/2003

いいなと思ったら応援しよう!