明晰夢(プールとリンダ)
今日は工事業者が来るから犬たちを階下に連れて行かないように、と夫が言う。
わかった、と答えながら、何の工事だ?と思ったが、なんとなく聞きそびれた。後になって、時間的にどれくらいかかるのか聞けば良かった、と思う。まぁいい、とにかく犬たちが階下に行かないようにしなくては。
ー終わったので、ちょっと来てください。
業者さんの代表なのだろう、無精髭を生やした痩せ型の男性が言った。あ、そうだった、工事をしていたんだった、と思い出す。すっかり忘れていた。そこへ夫が(リーシュを付けた)犬たちとやって来た。
「君の職場の10%OFFクーポンが使えるらしい、それを出してくれないか。」
「え、そうなの。ちょっと待って。」
10%OFFクーポンなんて貰ったっけか?なんだかちぐはぐな感じがしたが、とりあえず書類などをしまっているいつもの引き出しを開く。
が、そんなものはない。
というか、あれって確か事前申請しないといけないんじゃなかったっけ?
Home Improvement Costsうんちゃらのなんちゃら?
いえ、請求は後になるのでクーポンはその時までに用意しといてくれたらそれで良いですよ、と、業者の人が夫に話しているのが聞こえた。とりあえず良かった。事後処理でも申請通るのかな?と、気にはなったが、今それをどうこう言っても始まらないので、ありがとうございます、と答えておいた。
業者さんに促され、夫と一緒に階下へ行く。
バックヤードに出るドアを開けると、
ー目の前にプールがあった。
プール???
風に揺れる水面がキラキラと光っている。
8mx15mくらいだろうか?昔、学校にあった25mプールよりは小さい。でも、目の前に広がるプールはかなり大きく見えた。なんで我が家のバックヤードなんかにプールがあるんだ、、、
ただただ驚いて何も言えずにいたのだが、ふと足元を見ると、ドアからプールへと続くコンクリートの端の部分が少し崩れていることに気付いた。
あの、この部分は、、、
言いかけたところに、業者さんが畳み掛けるように言った。
予算内で仕上げたので、その部分を整えるには追加料金となります。
へ?そんなモンなの?なんだかすごく雑な感じがして複雑な気持ちになったのだが、夫は、いやこれで充分、No problem. なんてことを言っている。えええ、そうなの?いいのか?これじゃ素人作業じゃないの?
微妙な心持ちのまま、わたしは夫から犬たちを預かり、プール周りを少し歩くことにした。
プールの周りには小洒落た感じの真っ直ぐな草(ornamental grasses)が等間隔で植えられていた。でも、酷く人工的な感じがして、落ち着かない。
夫はドアのところで業者さんと何やら話し込んでいた。
歩きながら、この前、散歩のときに見かけたプールを設置し始めた近所の家のことを思い出す。プールなんてメンテナンスが大変そうなのにね、と、夫と言い合った。お金の使い方にも色々だね。そんな話をしたのに。うちにもプールがあったなんて。
いや、あぁそうだった、うちにもあったんだ、だけどずっと使ってなかったんだった、と、急に思い出した。なんで今まで忘れていたんだろう、と不思議に思う。まぁせっかく使えるようになったんだから活用しなくちゃかな、とも思う。
そのうち、小川に出た。
うちの庭のすぐ近くを通る川幅3mほどの小さな川だ。緩やかな流れの清水で、川底の石ころや岩が透き通って見える。ところどころ、結構深いところもある。
よし、泳ぐか!
犬たちに言うと、はふはふ、嬉しそうにしている。そうだ、ブルースは川が大好きだったね。ね、ぷーちゃんも一緒に入ろう!
リーシュは要らないか。ちょっと遊んでいこうね。
犬たちのリーシュを外し、わたしは一緒に川に入った。水はそれほど冷たくはない。目の前をちろちろと小さな花びらや葉っぱが流れていく。なんて長閑、なんて平和。
そうだよ、川があるんだから、プールなんか要らないんだった、と、思い出す。
だからずっと使ってなかったんだ、と、思う。こんな小川があるんだから。
夫はなんで急にプールを使おうと思ったんだろう?
振り向くと、我が家のプール周囲で何やらパーティーらしきものが行われていた。夫が呼んだのか?いや、夫はそのようなことを好む性質ではない。なんなんだろ?いつの間に義理ママが呼んだのか?義理ママ来てるのか?
「ご招待ありがとう。素敵なプールと庭よね。」
背後から、ワイングラスを片手にCongratulation! とリンダが笑った。
リンダ???????
リンダは数年前に退職した同僚だ。定年をとっくに過ぎてからの退職で、当時72か73歳だと言っていた。「やっと退職できるの。」と自虐的に言っていた。
なんでリンダがここに???懐かしい彼女の顔に驚きと戸惑いを隠せなかったが、元気だったんだ・・・と、なぜかホッとする。面倒だったのでパンツの裾をたくしあげることなく水中に入ったわたしは、濡れたまま川から上がるのに苦労する。リンダに、Thank you…と言い、慌てて犬たちを呼び戻す。
でもーーーー
リンダ?
プール?
小川?
いやいやいや、夢でしょう!あぁそうだ、夢だ、、、
でも、ブルースとぷーちゃんがいる。
夢でもいい。だから、もうちょっと長くここにいよう。
まだ夢の中にいよう。まだ・・・
夢の中で、わたしは真剣に、目覚めないように、と、祈っている。
10/19/2024