小説投稿20年、現在57敗中…(⑤改稿作品はボツにされるのか)
加筆・改稿を繰り返して、8つの文学賞に
2009年からは、旅行ガイド本の仕事がメインで、そのほか単発のライター仕事がぽつぽつ入ってきたので、小説の方はあまり進んでいませんでした。それでも、ライター業の合間に、これまでの作品をリライトして投稿を続けていました。
特に、ブラジルの「勝ち組」「負け組」(太平洋戦争直後、情報が遮断されていたため、日本が勝ったと信じる「勝ち組」と、負けたと認識していた「負け組」とに分かれ、反目しあっていた)の話を基にした作品を、なんとしても世に出したいと思っていたため、何度も加筆、改稿を繰り返して様々な賞に応募していました。二重投稿を避けるため結果を確認してから投稿していたので、1年に一回ぐらいのペースでしたが。
タイトルも、「偽宮」「伯剌西爾の偽宮」「蒼茫の渦」「勝ち組」「勝ち組の偽宮」「彼我の勝ち組」「イッペーの花」と変更していました。最初に書いた「偽宮」を「新潮エンターテインメント賞」に出したのを皮切りに、「小学館文庫小説賞」、「小説すばる新人賞」など足掛け8年に渡って、8つの文学賞に応募しました。原稿用紙94枚だった作品が、最終的には425枚まで増えていました。
冒頭を変えただけで、2次突破
始めは予選落ちが続いたものの、なんとか予選突破できるようになりました。そうしたなか、一番のポイントだと痛感した点は、書き出しです。その証拠に、内容はほとんど同じで冒頭を変更しただけで、「すばる文学賞」(2010年)で初めて2次予選を通過、「小説現代長編新人賞」(2013年)でも2次予選を突破できたのです。
書き出しの重要性は、どのハウツー本でもしつこく書かれており、
「出だしの10枚で、読者を引き付けないと」
「退屈な出だしなど、誰も読んでくれない」
「出し惜しみせず、全精力を冒頭にぶつける」
「読者を絶対に離さない、といった気概が必要」
「下読みさんは、最初の10枚しか真面目に読まない」
などなど、掲載されていた本は失念しましたが、枚挙にいとまがありません。特に新人や応募の場合はなおさらだと。
私も、とある高校生エッセイ賞の下読みをしたことがあるのですが、ダンボールで渡された原稿用紙の山を見て、まずため息をつきました。一応、全部目を通したものの、冒頭の印象が悪いと、どうしても後半は斜め読みになったものです。
だからこそ、冒頭が重要であると分かってはいるのですが、頭で理解するのと、実際に落選を繰り返すのではまた違っていました。8つの文学賞に応募して、ちょっと時間がかかり過ぎたものの、苦渋を舐めたからこそ深く心に刺さったのだと思います。
ただ、逆に言えば、同じ内容の作品でも、
出だしを変えるだけ
で、2次予選を突破できたのです。
興味のある方は、2次突破の冒頭10枚と、予選落ちの冒頭10枚とを一読してみてください。(作品の内容は、ほぼ同じで冒頭とタイトルを変えただけでした)
しかし、それ以上は突破できませんでした。
改稿作品は、ボツにされるのか?
3次通過ができないのは、作品内容や自分の実力を棚に上げて、同じ作品を何度もいろいろな賞に応募しているからかもと、首を傾げていました。
よく、文学賞選考委員の談話や、下読みさんの裏話などで、「改稿作品よりも、新しい作品を送った方が良いでしょう」などと書かれているし、違う文学賞でも同じ下読みさんが担当して、「こいつまた同じネタかよ」と除外されてしまうのでは、と。
ただ、どこの応募要項にも一応「個人情報の保護を遵守します」と謳っているので、下読みさんがかぶったとしても、2次選考、3次選考を担当する編集者の方は、他の文学賞のボツ作品を目にする機会はないのでは、と考えたりもします。
それに、私自身、新しいネタでポンポンと書けるほど、取材量も実力もありません。ネタに対する想いや、執着も強いため、何度も改稿を繰り返していました。
では、「改稿作品は、ボツにされるのか?」
例えば、小説現代長編新人賞の特記事項に、
「すでに何らかの新人賞に応募した作品、およびその改稿した作品については、選考対象外といたします」
と以前にはこうした記載がなかったのに、2023年から明記されました。
一方、小説野生時代新人賞の応募要項には、
「過去に本コンテスト又は他のコンテストに応募し落選した作品については、改稿したうえで本コンテストへ応募することは可能です。この場合、過去に応募したコンテストの名称及び投稿時期を『文学賞応募歴』の欄に必ず明記してください」
とあり、どの賞で落ちたかを明記すれば、OKであると記載してあります。
この件に関して、私が直接訊いた編集者は、「新しい作品の方がもちろん良いが、改稿作品でも問題ないでしょう」と語っていたし、下読みさんも「同じ賞に、何度も同じような作品を出してくる応募者もいて、それは『またかよ』と思ってしまうけど、違う賞なら平気じゃないの」と小鼻を掻きながら話してくれました。
ですから、「出版社や、編集者によりけり」なのではと、
いまのところ、私は結論付けています。
ただ、出版社サイドから考えると、筆力がある作家を求めているわけで、あまり一つの作品に拘泥している作者よりも、次々と売れる作品を量産してくれる作家の方が良いに決まっています。それに、よその文学賞で落ちた作品を、自分のところで受賞させるのは、ちょっと格好がつかないみたいな理由もあるのかもしれません。
少なくとも、どの文学賞でも応募歴や経歴を必要としているところをみると、作品以外の部分も判断材料にされていることは確かなのでしょう。
(つづく)
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