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中国人チームの空気を劇的に変える方法【中国駐在】

これまで私は中国で何度か「チームの雰囲気が一変する」事態を目撃してきました。経験上、中国の組織の空気を変えるのは日本の組織より容易かもしれません。今回はその方法について考えます。

このnoteは、毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
記事の末尾に動画リンクがあります。


改革は短期決戦!

今、中国全体の事業環境は、閉塞感・停滞感が漂っています。イケイケドンドンの時代とは異なり、作れば作るだけ売れる、売れば売るだけ儲かるということはありません。

内部管理も、取引先の開拓や営業方法も、今までと同じことをやっていては現場の業績は下がる一方です。大きく変化していかないと、成長どころか維持も難しい。

こうした事業環境下では、改革はゆっくりやっていてはダメです。やるなら一気に。これは中国に限らず日本でもそうです。

改革というのは、一定以上の時間をかけると、徐々に「改革疲れ」あるいは「改革慣れ」が出てきます。できるだけ短期間であるべき姿に切り替えて、そこから定着するまでは粘り強くやり切ることが必須です。

中国拠点の場合、改革の陣頭指揮をとる駐在員には任期があります。やるなら自分の任期中に一気にやり終えることです。

私は実際にそれを成し遂げた会社をいくつも見てきました。まずは中国で改革に成功した事例から、どうやって短期間で劇的にチームの空気を変えたのか、検証していきます。

チームの空気が一変した6つの事例

目撃事例① 「日本人の犬」事件

この件は私自身の原点としてあちこちで話しています。

私の着任から半年ほど経ったころ、会社で最も若い社員が同僚や先輩に向かって「最近みんな妙に頑張っちゃって、日本人の犬みたい。アハハ」と言い放った事件がありました。

これを聞いた先輩たちの悔しそうな表情を見て、この社員は置いておけないと判断しました。私も来たばかりでどう解雇すればいいのか悩みに悩みましたが、結局、きっちり辞めてもらいました。私が自分から辞めてくれと言った第1号社員です。

たった一人いなくなっただけなのに、チームの空気は劇的に変わりました。会社と同じ方を向けない人、足を引っ張る人、冷笑する人が一人でもいるとダメなんだということを痛切に感じた出来事です。

目撃事例② 女帝の解雇

国外拠点の場合、特に中小企業だと、事務所の経理・金庫番を女性の役職者にまかせていることが多いです。頼りになる右腕として、通帳から印鑑まで全部預けている。そうすると会社の代表(の代理)として、かなりいろいろなものを動かせてしまいます。

この会社でもすべてを握っていた女性のトップがいました。日本人経営者は創業期から長く彼女と二人三脚でやってきたので、不正や企業統治上の深刻な問題が出てくるようになっても、まだ迷いがあったようです。しかし最後は覚悟して解雇に踏み切りました。

追放直後は会社の経理データを全部消去されるなどいろいろあったものの、以降、大きな問題はパッタリなくなりました。あれから20年、ずっと落ち着いて仕事ができる組織を維持しています。

目撃事例③ 裏ボス一派の一掃

工場現場や品質管理などの管理職に多い「裏ボス」タイプ。時間をかけて自分の取り巻きを要職につけて周りを固め、場合によっては顧問弁護士も取り込んで派閥を形成します。

裏ボスが握っているのは人事権。また、生産の維持・安全を人質に取れる立場でもあります。この会社の経営者は争うと厄介なことになるのはわかりつつ、腹をくくって断行しました。

ポイントは裏ボスだけでなく取り巻きも取引先もまとめてバッサリ切ったこと。瞬間的には代償も払いましたが、派閥を一掃したことで会社の空気は一変しました。

目撃事例④ ストの真ん中で単身信念を貫く

この事件は過去のnote「私が出会った 現地を動かした駐在員たち」のCase3「吊し上げに屈せず」に書きました。

事件後、日本人トップの逃げない姿を見て、それまでは「コストカットだけが目的なのでは」と疑いの目で見ていた社員たちが一変しました。

その変化は本当に劇的でした。ストライキの現場に日本人が一人で出て行くなんて、なかなかできないですよね。私がその場にいた普通の社員だったとしても、きっと敬意を抱いたでしょう。

目撃事例⑤ この人が言うなら仕方ない

強烈な個性で周囲をねじ伏せ、改革のスピードを早め、新しいチャレンジを劇的に進めた駐在員もいました。

この人は「責任者は自分、結果責任は取る、だからオレが決める」タイプ。方法A、B、Cのどれも長短あるというような状況でも、「自分はAだ!こういう観点からAだ!決めた!」と決断が早い。周りが「いや、Aはこんなデメリットもあり、もう少し検討を…」などと渋っても「こうだからAだ!」と曲げません。

この姿勢は普段から一貫していました。部長や課長が相談に来る時も、「こういう理由でこう決めた。責任はオレが取る」または「これはオレが決めることじゃない。自分たちで考えて結論を出しなさい」という判断がものすごく明確でした。

半年ほどすると、周囲も半ば諦めます。この人がやると言ったら絶対にやる。何を言っても変わらないからやるしかない、となる。

仕事に邁進したい中国人社員にとっては、スピーディにキッパリ決めてくれるトップほどありがたい存在はありません。改革は進み、赴任後わずか1年の間に社内の空気は大きく変わりました。

目撃事例⑥ 自分たち目線のリーダー

これは現地トップではなくて部長クラスの駐在員の話です。

この人は、本社方針には従いますし、目標もきちんと理解して現地拠点に展開していましたが、実際にどうやるかまで本社が口を出す必要はないと考えていました。

「現地には現地の都合があり、現地のお客様がいる。現地の法律もある。プロセスまで本社の言う通りにすることはない。駐在員のミッションは現地社員が結果を出しやすいようにすること。そもそも自分は中国語もできないし、実務を動かすわけでもない。部下たちが伸び伸び働いてくれてはじめて業績につながる」。

駐在経験者ならご存知の通り、日本本社の言ってくることと現地の実情は食い違いがちです。対立することもあります。それでも現地法人のためになることは最終的には本社のためにもなり、利害は一致するはずだという信念に基づき、この駐在員は時には本社に正面から反論し、時には本社のゴリ押しを握りつぶし、徹底して部下たちを守り抜きました。

そうすると、やはり現地社員も意気に感じます。本社側の代官みたいに管理・監督するのではなく、常に現地の目線に立っている。こういうリーダーは愛されます。彼に恥をかかせまいと現地の結束は高まり、業績も上がりました。

この人はすでに帰任してから10数年経ちますが、いまだに当時の部下から「今度日本に行くから食事しましょう」と声がかかるそうです。

チームの空気はこれで一変する

相手が誰でも一罰百戒 

6つの事例から学ぶ、チームの空気を劇的に変える方法をまとめます。

最も重要なのは一罰百戒です。一罰というのは、日本の企業文化に照らすと厳しすぎるといわれるような厳罰のこと。解雇が代表的な一罰です。

積極的に会社全体の足を引っ張る、破壊行為をする、私的利得を得ようと図る、そういうごく一部の、でも看過できない人に厳罰を与えることで、他の社員たちの空気を変えます。百戒だけではダメで、一罰がないと機能しません。

また、一罰の相手もポイントです。一般の社員には押し切れても、拠点のナンバー2や部長、工場長が相手ならどうでしょうか。表も裏も全部預けてきた自分の右腕、拠点を仕切っている現地ボスなど、誰が相手でも断行できるかどうか、覚悟が問われます。

相手が誰でも疑人不用 

中国には「用人不疑、疑人不用」という言葉があります。人を用いるなら疑うな、疑うなら用いるなという意味です。疑いのある相手を組織に置いておかない。中国のような国情の組織では必須です。

やり方はともかく、この人を信用できない、全部を預けることができないとなったら、毅然と対応しなければなりません。

これも一担当者レベルなら悩まないんですが、影響力の大きい相手になると厳しい戦いになります。

社員たちはしっかり見ています。ここで聖域を作ったり、「あの人には手が出せないんだな」といった暗黙の了解ができてしまうと、改革は頓挫します。

極端状態でも信念を曲げない 

普段の会議の席なら誰でもカッコいいことを言えます。問題は、お客様に厳しく叱責された、政府からプレッシャーをかけられた、社員たちがストライキに突入しようとしている、そんな状況でも信念を貫けるかです。

極限状態でもブレずにいられたら、心ある社員には響きます(もちろん最低限の身の安全は確保してください。無謀はいけません)。一部の問題社員は変わらないかもしれませんが、会社の中の多数派が入れ替わり、駐在員の支持者が増えます。組織内のバランスが変わった結果、改革しやすい方向に動いていきます。

客先に言われたからやむを得ない、本社の役員がご立腹だから妥協しよう…などとやっていては、その場はしのげても空気は1ミリも変わりません。

本気で社員を優先する/守る

これも難しい状況下でどう行動するかが問われます。本社や客先から責められ、駐在員自身の評価も下がりそうな時、盾になって部下を守れるでしょうか。

この人は苦しい状況でも日和らない、本気で自分たちのことを考えているんだ、と思われるような出来事があると、現地社員の見る目はガラッと変わります。

今日のひと言

心が動けばチームは一変する

ここまで見てきてわかるのは、社員たちの心が動けばチームの空気は一変するということです。「この人は本気だ」「言ってもどうしようもない」「自分はあんなひどい罰は受けたくない」。どのベクトルであれ、心が大きく動くと、チーム全体が激変します。

改革には先導する側の一貫した思い、ブレない強さが問われていると認識し、一気に取り組んでもらえたらと思います。

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