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忘れられない子どもの話

現在保育士を初めて6年目、今までのどのクラスにもたくさんの子ども達との思い出があります。でも6年たった今でも、強烈に印象に残っていて私の保育士としての方向性を決めてくれた子がいます。今回はその子とのお話です。

その子との出会いは私が新任で5歳児クラスの担任を持った時でした。右も左も分からない状態で、緊張しながら保育室に入りました。子ども達は「男の先生」というだけで珍しかったらしく、直ぐに「あそぼうあそぼう!」と言い寄って来てくれました。その子もそのひとりでした。仮にA君とします。

その時は私と子ども達何人かでボードゲームを始めました。名前と顔が一致していない私は名前などを聞きつつゲームを楽しみました。するとゲームの状況がA君に不利な状況になってきました。するとA君はそれをなかったことにし、自分が有利な状況でゲームを進めようとしました。

おや?と思い周りを見回すと面白くなさそうな表情の他の子ども達(でも指摘できないような空気)。初日から分かりました。このA君はいわゆる「ガキ大将」ポジションの子でした。

前担任からの引継ぎでA君のことは聞いていました。自分の思い通りにならないと誰であれ手や足が出る。玩具や物を投げ飛ばすこともある。友だちにでも保育士にでも。でも新任の僕は心のどこかで「でも子どものやることでしょ?」と楽観的に考えていた。

一か月もしないうちにその考えは甘かったことに気付きました。一度A君の中で面白くなかったり、他の子と喧嘩がおこると、友だちの上に馬乗りになって叩いたり、積み木を人に向かって投げたりと、大人の静止等気にもしないので力づくで止めたことは数えきれません。A君の機嫌次第でその日のクラスの活動が止まってしまうのです。

正直な話、はじめのうちはなるべくA君と関わりたくありませんでした。他の子との喧嘩を止める事はもちろん、私も叩かれることはしょっちゅうであり、自分のあざや傷を見てうんざりする時もありました。

そもそも5歳児30人クラスで私を含め担任が3人(一般的には2人か1人)。私以外は4,5年目の保育士。担任が多い気がしていましたがそういうことか、と納得しました。

ある日、A君とよく遊んでいる二人の男の子が登園してきました。その日はA君が休みでした。その二人の会話が「ねえ、今日A君休みだって!」「よっしゃあ!」

この話を聞いてこの二人のことも、A君の事も、可愛そうに思えました。そしてこのままではA君がどんどん一人になってしまうと思い、私は考え方を変えました。

今までは担任としてクラス全体を見ようと頑張ってきました。しかし、それは他の二人の先輩の先生がやってくれる。私はどうせ新任だしそこは期待されていないはず。ならば私はA君の対応に一番の力を入れようと思いました。

保育室や園庭、公園等どこでもなるべく私はA君と(他の子も誘いつつ)遊ぶようにしました。もともと体を動かすことが好きなA君は、男の保育士の私に直ぐ懐いてくれました。ドラゴンボールやスターウォーズが好きだったA君。私もどちらも好きだったので散歩のとき良く話をして、どんどん仲良くなっていきました。

しかし立場上、行けない事をしたら怒らなくてはなりません。何を怒ったかは覚えていないのですが、私がA君の事を激しく起こったことがありました。普段からしょっちゅう怒っていた私ですが、その時はA君にとっても衝撃だったのかもしれません。いつもは泣いて暴れたり、感じの悪い態度をとるA君がその時だけ「先生僕のこと嫌いになったんだね」と泣きながらさびしい表情で言われました。

私はそれを聞いてハッとしました。こんな言葉を子どもに言わせてしまった自分に反省をしたと同時に、A君の中で私が「嫌われたくない人」にまで位が上がっていたことに気付きました。

「子どもには怒った後のフォローが大事です。」そう研修や勉強会で、よく講師の先生に言われていたのを思い出しました。この日ほど子どもを怒った後にフォローしたことはありません。「ごめんね。先生はA君のこと大好きだよ」なぜか私も泣きそうになりながら話しました。この日を境に、彼に対しての私の中の親愛の情が日に日に強くなっていきました。

1年通してみれば微々たる変化であったかもしれませんが、徐々に徐々にA君は素直になっていきました。そして運動会、劇、合奏と様々な行事があり、そのたびにA君は荒れることが多かったですが、担任間で連携を取り、練習を進められるようになっていました。そして3月、卒園式。卒園式の練習も、散々行ったので、私としては感動と言うよりは達成感が強かったのですが、式後の謝恩会で、今まで担任をした先生たちに子ども達から花束のプレゼントの時間がありました。

私を含め、歴代の担任や園長、副園長など10名程の職員が一人づつ呼ばれ3名の子ども達から花束を受け取る時間。なにこれ。聞いてない。私は誰からもらえるのだろう。もし渡してくれる子ども達の中にA君がいたらやばい。絶対泣く。そうこうしているうちに私の番に。

いた。真ん中で笑いながら花を持っている。少し照れた笑顔で。私は抑えきれず泣きながら受け取り、涙声で「ありがとう」と言いました。どのような基準でどの子がどの先生に渡すように決められたかは分かりません。が、彼が私を選んでくれたのではないかと勝手に想像しました。それだけでこの一年保育士をやってきた甲斐があったと。頑張ってきて良かったと思いました。

現在、A君は小学生。今でも年に一回の小学校の運動会に彼を見に行っています。会うたびに大きくなり、徐々にどう接していいかわからないような、照れているような顔を見せてくれるA君。私はそのA君を見て、毎年理由のわからない涙をぐっとこらえています。今年はコロナの影響で見る事は出来ませんでしたが…。

「大好きな先生がいれば、子どもは言う事を聞いてくれる。」この言葉も研修で学んだ言葉です。聞いている時は「そんなに単純な話か?」と、冷めた心で聞いていました。でも一年目に出会ったA君のおかげで、子どもから大好きと思われる事はとても大切であることに気が付きました。そしてそう思われるにはやはり、沢山遊ぶ事なのだと。

現在、クラスリーダーという立場になり、あの時ほど子ども達と遊べているかと聞かれれば、答えはノーです。なので今でも新任の頃の気持ちを思い出しながら保育をしています。

子ども達とたくさん遊び、そして大好きになってもらう。そんな単純な事が難しく、だけど真実であると思っています。「僕(私)が先生に花渡したい!」そう思ってもらえるようにこれからも頑張って行きたいです。

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