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バイヨンの微笑

作られたのだ。

自分の顔を見上げた人々は仏様と言うのだ。
王国の王様の顔だとも言うのだ。

自分の顔を見上げて

心が寛ぐ者もいるのだ。

恐怖を感じる者もいるのだ。       

自分は知っているのだ。
そう。

自分の顔は君の「良心」なのだ。

罪ある者は恐怖を感じる。

ところが、

王国の未来、幼い子供たち…

そして、貧しい百姓たちは

くたびれた現実の中で

自分の顔を見上げるだけで

心が落ち着いて穏やかになるようだ。

良いのだ。

自分は、それで十分だのだ。

日が出る。

雨が降る

風邪が吹く。

お花が咲く。

そして、日が沈む。

それで、千年…

王国の人々は自分を「バイヨンの微笑」と呼ぶのだ。
王国の外、いろんな国の人々が訪れて
崩れている自分の顔の前で

皆、笑顔で写真を撮るのだ。

何も感じないのだ。
ただ、それだけだ。

ああ、

痛い。

時間の流れに沿って

崩れる顔より

それより心が痛い。

自分の顔を見上げて

恐怖や平安を感じる者は

もういないなのか。

もう「心」なんて無くなったのか。

昨日は幸せだったのだ。

重い病気の顔色の女の子とその母親が

久しぶりに自分の顔を見上げて

微笑んでいたからだ。

自分がいつまで

この世界に存在するか

分かりかねるが…

もう十分だ。

それで良いのだ。        <終>

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