空港生活/5/統合失調症のイタリア人の女の子
私は食べるのが好きだが、ここ最近はあまり多くのものを食べていない。
海外旅行中は、道路の端っこから三ツ星ホテルまでありとあらゆる場所で寝ていた。
寝るのに必要なのは安全だけで、自分が安全と感じられる場所ならどこででも寝られる
それと同じで、食事の目的は活動に足る栄養を摂取することであり、つまりは極論ポテトチップス一袋と水飲み場さえあれば十分なのだ
胃袋が縮んでいるのを感じる
それと同時に空腹の先にある快適さを感じる
食事の旅に感じていた満腹感と行動が鈍る感覚がいかに自分の生活の邪魔をしていたのかを実感する
統合失調症を患っていたイタリア人の女の子は、これからアメリカ人のボーイフレンドに会ってアメリカに一緒に行くと言っていた
どこで会うの?
わかんない
どうやって連絡を取ってたの?
頭に語りかけてくるの
あぁ…、あるよね
少し離れたところに住んでいるという彼女だが、帰るための金がないと言っていた
あるのは数日分の食費だけ
コインがあるそうなので公衆電話からご両親に連絡を取るようにと勧めたが、そうしたら怖いお医者さんに見てもらうことになるからと言って賛成しない
私は彼女に夕食を奢ってあげた
そして代わりに家に電話をするようにと言った
ご両親との関係を聞いたところ、空港警察からご両親に電話が行くよりは自分からしたほうが心象も良くなるだろうという考えがあってのことだったが、彼女はいざその時になると断った
仕方がないので、私は彼女を祈祷室まで送り、そこでアメリカ人の彼氏さんとゆっくり話をするようにと勧めた
彼女は大人しく従った
翌日も彼女を見かけた
まだ電話はしていないようだった
食事は取っているらしい
気がつくとあの子を見なくなっていたが、おそらくは家に帰ったのだろうと思う
空港には色々な人がいるから退屈しない
そんなことを思いながら、私はタバコを吸いながら彼女との思い出をここに書き綴っていた