元彼女(モトカノ)・ゲームと想い出/小説⑨-1/ストレスジャンププール
もう疲れた…
寝るために、お酒を買っていたが、とうとう所持金が、底をついた…
もう無理だ…
楽になりたい…
駅のホームの椅子で、何度も何度も、同じ考えを巡らせている
繰り返し流される注意放送も、電車の突風も、人の視線も、ざわめきも、不快で仕方ない
もう、終わりにしよう
そう決めて、立ち上がろうとした時、あたしの全財産が入ったキャリーバックが倒れた
…もういいか
これからは、必要のないものだ
ホームの先端に足を運ぶと、後ろで水音がする
けだるげに振り向くと、キャリーバックの周りが水面に変っていた!
なにこれ?
キャリーバックが水に沈んでいく中で、最後の執着が出てきた
駆け寄り、掬い上げようとしたら…
お酒しか入っていない身体では、引っ張り上げる力もなく、キャリーバックと一緒に、あたしも水面に沈んでいった
ざぶ〜ん、という水音と共に、意識がなくなった
~~~~~~~
どこからか、ゲームの音楽が微かに聞こえてくる
それで、目が覚めると、あたしは、不思議なフカフカした布団の上で寝ていた
ここは、どこ?
視界に、頭にヘッドホンを付けた、ゆるキャラぽい河童が、旧世代機のゲームをしていた
「ねえ…」
「 あのう…」
と声を掛けても、疲れた果て弱々しい声では、届かないようだ…
よろよろと、河童に近づき、肩に触れると…
河童が驚いたように、あたしを見た!
再び画面に、目を戻した河童が、、、
"GAME OVER"
と表示された画面を見て、がっくりと、うなだれてしまった
「あ、あのう、ごめんね…」
ヘッドホンを外して、河童が話し出す…
「うんうん。大丈夫だよ。
それより、目が覚めてよかったね。
今、お茶とお煎餅を出すから、ちょっと待っててね。」
と言い、台所に向かった
ここは、一体?
河童がいて、人間の言葉を話している…
夢?なのだろうか?
河童が戻ってきて、お茶とお煎餅を頂いた
ひさしぶりに、まともな食事が出来てホッとした
何よりも、静かなのが有り難い
お腹が満たされると、ふと気になったのは、河童が遊んでいたゲームだ
前に付き合っていた彼と、よく遊んだ思い出がある
「ねえ、このゲーム機どうしたの?」
と河童に聞くと、、
「人間に貰ったんだよ。難しくて、なかなか、この先に行けなくてね💦」
確か、ここは罠があって避ける方法が、あったはずだったと思い出す
「ちょっと貸して」
と言い、コントローラを持った
すると、、、
あの水面が、また足元に現れた!
一体なんなの?
驚き、戸惑っていると…
「大丈夫だよ。怖かったら目閉じていてね。」
と河童に言われ、目を閉じた
ざぶ〜ん、という水音と共に、意識がなくなった
~~~~~~~
再び意識が戻り、目を開けると、駅のホームの椅子に座っていて、あたしのキャリーバックが倒れていた
一体なんだったのだろうか?
注意放送が、ホーム上で始まると、思わず耳を塞いだ
もう!
いつも、いつも、いつも、うるさいな!
注意ばかりして!
それよりも、、、
だれか、あたしのこと助けてよ…
誰か…
ねえ…
この場に居たくなくなり、改札を出た
人のいる場所や、人のいる建物は嫌だ
注意放送は喧しいし、人の視線も怖い…
人気の少なそうな公園を見つけて、休むことにした
すると、携帯ゲーム機で遊んでいる男の子がいた
"自粛しなさい"
"不要不急の外出は控えなさい"
と、注意ばかりされる中で、外で遊んでいる子どもを見かけるのも、珍しくなったな
何のゲームで遊んでいるのか気になり、遠目に伺うと、河童が遊んでいたゲームと同じだった
あのゲーム、最新のゲーム機に、移植されていたのかな?
どうやら、河童と同じ所で進まない様で、声を出して悔しがっている
なんだか、元彼に似ているなあと笑える
親近感を感じて、思わず声を掛けてしまった
「そこは、真っ直ぐ行かないで、壁沿いを進むと先に行けるよ。」
ゲーム機から顔を上げた男の子は、驚いた表情で、あたしを見た
突然、話しかけられたこと?
それとも、あたしの風貌だろうか?
両方かな?
男の子は、ゲーム画面に目を戻し、再挑戦し始めた
無事に進めた様で、楽しげな音楽が聞こえてくる
満面の笑みを浮かべ、喜んでいる男の子を見て、ひさしぶりに人と楽しく関われて、よかったなあと思う
「お、お、お姉さん、ありがとう。
やっと先に進めたよ!
1時間以上やっても、先に進めなくて…」
「そう、よかったね。
以前、遊んだことがあったの。
旧世代機の時にね。
でも、今なら、スマホで検索すれば、攻略法がすぐに、分かるんじゃないの?」
「おれは、ズルしたくないの!
けど、、、
どうしてもの時は、見ちゃったりするんだけど…」
ふ〜ん、そうなんだ
男の子らしい、こだわりかな
そういう所も、似ているなと思う
「それじゃあね。」
と声を掛け、立ち去ろうとすると…
「ちょっと待って、お礼がしたい。
"ボクモン"のカード、上げようか?
レアだけど、1枚だけならいいよ。」
「う〜ん、大丈夫かな。
気持ちだけ、貰っておくね。
ありがとう。」
そう言うと、男の子は、頭を抱え考え込んだ
「じゃあ、これでジュース買いなよ。」
と言い、110円を差し出してくる
「いいよ…悪いよ…」
と言いつつ、目の前のお金が、喉から手が出る位、欲しかった
子どもから、お金を貰う訳にはいかないでしょ…
けど、背に腹は変えられない
「…うん…じゃあ…貰うね
ありがとう」
あたしが受け取ると、笑顔になり、手を振って、再びゲームを遊び出した
お金を手に握りしめ、あたしは、何に使おうかと、考えを巡らせる
ジュースよりも、眠るには、お酒だろう
だけど、せっかくの厚意を、ジリ貧に使ってもな…
あの夢?を見てからは、少しだけ、頭が回る様になっていた
ゲームに夢中なっている男の子に、目を向ける…
元彼と別れてから、数年が経つ
今は、どうしているのか分からない…
電話番号も、当時のまま、だろうか?
まあ、いいか…
ダメ元で、電話してみようと、公衆電話に向かった
~~~~~~~
オレのスマホが、鳴った
画面には、、、
"公衆電話"
と表示されて驚く!
"非通知設定"
だと、十中八九、個人情報流出による売買で入手された、悪徳商法まがいの、勧誘電話だからだ
携帯所持者が多い中で、あえて公衆電話から電話するのは、何か理由があるから?
少し警戒心を持ちつつ、"通話を押す"
相手の分からない電話に、自ら名前を名乗って、個人情報を教えてやる必要はない
「…もしもし?…」
と警戒と探りを込めて、声を出した
電話の先では、息を呑むような気配がする
「…ねえ、あたしのこと、覚えてる?」
と聞かれた
ひどく疲れて、弱々しい声…
話し方や言い方に、懐かさしを感じた
「…元彼女か?…」
「…うん…」
と言われ、とても驚いた
当時、いい別れ方が出来なかったし…
元彼女の、その後をオレは知らない…
それにしても、なんで公衆電話から、電話してきてるんだ?
聞きたいことや、気になるとことばかりだ…
落ち着け、冷静になれと、心にいい聞かせ、息を吐いた
ふう〜
「…元彼女、ひさしぶりだね…
そ、そ、その、どうしたの?
携帯は?」
「…使えなくなった…」
どういうことだ!?
付き合っていた時も、そうだった…
何が言いたいのか、よく分からなくて、ぶっきらぼうに、言う事があるんだよな…
通話料金が引き落とされる音が、聞こえてくる…
あと、話せるのは何分だ?
詳しい話を、今は聞けない
「…そ、そうなのか…
なあ、今、どこにいるの?」
「…公園…」
「なんていう公園?」
「…わかんない…」
オイ!と内の中で、叫んだ
そういえば、こういう事でも、ケンカになったんだよな…
公衆電話のことを、思い浮かべると
確か電話機に、固有番号や住所が書いて、あったはずだ…
「電話機の、どこかに住所が分かるものが、ないかな?」
と聞くと、告げられた場所は、1時間もあれば、行けるだろう
元彼女の、正確な状況は分からない
今は、同棲して付き合っている今彼女がいる
不穏な電話のやりとりに、心配げな視線を向けている…
元彼女の様子が、なにか普通じゃない感じがして、気にもなる…
目を閉じて考える…
「…1時間後に、そこで、ひさしぶりに会わないか?」
そう言うと…
「…うん…」
という返事の後に、、
"ブー"
という音と共に、通話が強制終了した
料金切れだ…
ふう〜と溜息を付いた
今彼女の元に行き、電話の内容と、心配だから様子を見に行こうと思うと、伝えた
今彼女の反応に、不安もあったが、、、
「よく分からない事が多いけど…
会いに、行ってあげたら?」
と言ってくれて、ホッとする
嫉妬深くない、人となりで
事情や理由を話すと、いつも理解しようと、してくれるんだよな
「わるい、ちょっと行ってくる。」
そう言って、その公園へ向かった
~~~~~~~
待ち合わせの公園に着くと、元彼女の姿を探す
最初に、視界に入った人物が目についたが、まさかなと思った
が、オレの方に向かって歩いてくる…
おい、嘘だろうと驚く
以前の、面影も残っているが…
薄汚れた服に、髪や肌も荒れて傷んでいる
痩せこけた身体や顔で、精気や元気を感じない
よくケンカはしたが、こんな元彼女の姿を、見たことはない…
まるで無宿者の様にも見える…
別れてから数年
一体、元彼女に何があったんだ?
続きます
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お読み頂いて、ありがとうございます。
仕事中に、ふと思い浮んだ話しです
もう少し続きも書けそうですが、長くなったので区切りを付けます
気温が下がり、朝晩は冷え込みを感じますが、お身体ご自愛下さいませ
今日も、いい1日でありますように