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岡口裁判官の訴追までの経緯

岡口裁判官が訴追されるまでの経緯は、どのようなものであったのだろうか。
ネット上には、「岡口裁判官は、複数回にわたり誹謗中傷を行った」、「被害者遺族は多数回にわたり誹謗中傷を受け、洗脳発言を受けて、ようやく弾劾請求を行った」、といった誤解が散見される。弁護士でさえも、そのような誤りを平然と口にしている人がいる。
実際は、どのような経緯であり、双方にどのような言動があったのか?時系列順に書き記していきたい。

岡口裁判官は、2017年12月15日、自分のアカウントにおいて、刑事裁判の判決を閲覧することができる裁判所ウェブサイトのURLと共に、「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男 そんな男に、無残にも殺されてしまった17歳の女性」というツイートを投稿した。
これに対し、遺族(被害者の母)は、同年同月16日、「被害者の母親です。なぜ私たちに断りもなく判決文をこのような形であげているのですか?法律に触れない行為かもしれませんが、非常に不愉快です」とのツイートを行った。これに対し、岡口裁判官は、当該ツイートを削除した。普通は消して終わる話であろうが、これがすべての始まりであった。

上記ツイートは、判決文紹介を目的としたものにすぎず、このような文面となったのは、事件内容を踏まえて、判決文を紹介したからに過ぎない。特段侮辱的・嘲笑的な表現は含んでおらず、むしろ被害者を悼んでいるようにも見える。
この判決文を紹介したに過ぎないツイートに対して、2017年12月26日、被害者遺族らは、東京高等裁判所に対して、上記ツイートに関し岡口裁判官の厳重な処分を求める要望書を提出した。
2018年1月16日、遺族の代理人は、東京高等裁判所から、事実関係を調査する中で、判決が裁判所のサイトに掲載する選別基準に反して裁判所HPに掲載されてしまったことが判明したとして、謝罪を受けた。同年2月1日、東京高等裁判所職員が面談し、東京高等裁判所として、裁判所HPへの上記誤掲載に対する経緯の説明と謝罪がなされた。
2018年2月16日、遺族の代理人は、「配慮が足りず申し訳ないことをした」「謝罪させていただきたい」「本件判決及びこれに関する諸々一切について、投稿や書き込みをしないことをお約束いたします」と岡口裁判官が述べている旨の報告を受けた。
なお、岡口裁判官側は、東京高等裁判所長官に対してご遺族にお詫びしたい旨述べたことはあるが、「本件判決及びこれに関する諸々一切について、投稿や書き込みをしないことをお約束いたします」と述べたことはない、と主張している。
2018年2月26日、遺族側は、謝罪を拒否する旨の書面を提出した。
2018年3月15日、岡口裁判官に、書面による厳重注意がおこなわれた。
しかし、これでも岡口裁判官への猛攻は終わらなかった。

2018年3月29日に、岡口裁判官は処分について、「『内規に反して判決文を掲載』したのは、俺ではなく、東京高裁」という、投稿を行った。遺族は、この侮辱したり、事件を茶化したりしたわけでもない、単なる説明的な投稿に対し、4月3日、東京高裁に抗議を行った。
同年4月22日、岡口裁判官は、全裸に見える内容の投稿を行った。これなど、事件とは全く関係のない投稿である。遺族に向けられたものでもない。しかし、何故か遺族は、自分たちと全く関係のないはずの投稿についても、4月26日に抗議を行った。
同年6月23日、岡口裁判官は、「あの時は~、厳重注意まで、されたけど~、見慣れてしまえば、たいした話ではない、俺のモッコリ~」との投稿をした。遺族は、自分たちに向けられたわけではない、この他愛のない愚痴についても、7月2日に抗議を行った。
このように、岡口裁判官のツイートを逐一監視しているとしか思えない行動をしている。そして、事件と関係ないツイート、単なる事態の説明や愚痴に対してさえ、怒りを募らせ、抗議を行っている。

岡口裁判官は分限裁判にかけられ、分限裁判後に記者会見を行った。2018年9月20日、遺族らは、分限裁判後に実施された記者会見において、客観的事実に反する発言があったとして、東京高等裁判所へ事実確認の書面を提出している。

岡口裁判官は自分の分限裁判についてのネット上の意見を収集し掲載していたが、その一環として、2018年10月5日、自己のブログに、「遺族には申し訳ないが、これでは単に因縁をつけているだけですよ。」という某弁護士の意見を転載した。遺族は、これを、岡口裁判官が投稿したものとして、民事訴訟を起こしている。前提事実が間違っているとしか言えない。

2018年10月17日、岡口裁判官は、分限裁判で最高裁において戒告の決定を受けた。犬の返還請求に関するツイートについての分限裁判であったが、補足意見で、この殺人事件についてのツイートにも触れられた。

岡口裁判官は、2018年10月29日付の現代ビジネスのインタビューにおいて、以下のような発言を行った。
「しかし被害者の女性の遺族は、もともと判決文を裁判所が公開したことに抗議していた。」
「それがいつの間にか、私のツイートの文言で傷ついたに変わり、それに基づいて私の厳重注意処分がなされました。しかしそれが終わると、再び、判決文を裁判所のウェブサイトにのせられたことに傷ついたという主張に戻っている。この事実は、私のブログのコメント欄に遺族の方が自ら投稿しています。そして毎日新聞の報道によれば、更に考えを変えて、私のおちゃらけたツイッターで紹介されたことで傷ついたと、4回も「傷ついた理由」を変えているんです。これって、どういうことなのでしょうか。」
インタビューへの答えは、単に自分の認識を示し疑問を呈する内容であり、侮辱的な内容ではないし、遺族を貶める内容とも言い難い。

2019年2月20日、遺族は岡口裁判官の訴追請求を行った。
このように、洗脳発言が行われる前に、訴追請求は行われている。本来は、判決文を紹介するツイートと、事件と全く関係のないツイートについて、訴追請求が行われたに過ぎないのである。「さんざん誹謗中傷を受けた挙句」訴追請求に踏み切った、という理解が誤解に過ぎないというのが、解るだろう。

岡口裁判官は、2019年3月19日に、ブログに「遺族の方々が謝罪を拒否した経緯」と題する記事を掲載した。平成30年3月に、遺族の代理人弁護士から、謝罪の意思があるかという問い合わせが吉崎事務局長にされた、岡口裁判官は謝罪の意思があることを吉崎事務局長を通じて遺族代理人に伝えた、その後、遺族から謝罪を拒否する旨の文書が東京高裁に届いた、という内容である。
遺族は、これも客観的事実に反すると述べている。どのような点かと言えば
・2018年2月16日及び同月22日、遺族らは、岡口裁判官が「直接謝罪させていただきたい」と言っていることを東京高等裁判所から伝えられた
・これに対して、同月26日、遺族らは、謝罪を断る書面を、東京高等裁判所を通じて提出している。
・したがって、代理人弁護士から謝罪の意思確認はしていないし、謝罪拒否の文書は2018年2月に提出済みであり、ブログ記事は客観的事実に反する。
という、些細な点である。これらの間違った情報を広めたところで、岡口裁判官が有利になることなどない。普通に考えれば、岡口裁判官が些細な誤解をしていたというに過ぎない。岡口裁判官が、自らを有利にするためにデマを広めている、という結論には到底至らない。

2019年3月20日、岡口裁判官は、「もともとの訴追請求をしたのは遺族の方々ではなかった」と題する記事を掲載した。これは、岡口裁判官の認識を述べたものに過ぎない。遺族への誹謗中傷的内容でもない。
2019年3月21日、「遺族を担ぎ出した訴追委員会」と題する記事を掲載した。なお、この記事は、当初は「遺族自身を担ぎ出した」とされていたものが、「遺族自身の審問をした」に書き直された。不適切と思われる表現を変えることは、ごく普通に行われていることである。むしろ、遺族に気を使っていることがうかがわれる。
2019年3月31日、「大事な情報を遺族に伝えなかった東京高裁」と題する記事を掲載した。

2019年11月12日、岡口裁判官はフェイスブックにおいて「裁判所が判決書をネットにアップする選別基準」と題して、「その遺族の方々は、東京高裁を非難するのではなく、そのアップのリンクを貼った俺を非難するようにと、東京高裁事務局及び毎日新聞に洗脳されてしまい、いまだに、それを続けられています。東京高裁を非難することは一切せず、「リンクを貼って拡散したこと」を理由として、裁判官訴追委員会に俺の訴追の申立てをされたりしているというわけです」と投稿した。
その後、岡口裁判官は、「遺族のみなさまへ」で始まる投稿を行い、「『洗脳発言』報道について」と題してブログやフェイスブックにて発信した。その後、投稿を削除した。
洗脳発言は、某弁護士のブログのアップに合わせて投稿した内容であり、被害者の命日にことさら投稿したものではない。また、友人設定にしたつもりを、間違って公開にしてしまったものであると、岡口裁判官は主張している。書いた意図は、東京高裁や毎日新聞の影響を遺族が受けてしまっているのではないか、という推測を、友人の範囲内で吐露するつもりであった。洗脳という比喩表現は、一般的にも使われることがあり、この場にはやや不適切かもしれないが、侮蔑的な表現ではない。
仮に、岡口裁判官が遺族を侮辱したかったのであれば、もっといくらでも直接的な表現はあるし、すぐに投稿を消すこともないであろう。

 岡口裁判官は、このフェイスブックでの洗脳発言について、二度目の分限裁判となった。2020年8月26日、岡口裁判官は最高裁で戒告の決定を受けた。
そして、2021年6月16日、岡口裁判官は弾劾裁判所に訴追された。

 遺族側は、「判決文の公開のみを問題視していたというのは虚偽である」「一貫してツイートの内容を問題視していた」と主張している。しかし、最初に行われた抗議のツイート内容は、「なぜ私たちに断りもなく判決文をこのような形であげているのですか?法律に触れない行為かもしれませんが、非常に不愉快です」というものであった。普通に読めば、判決文の掲載を問題視しているように見える。
「一貫してツイート内容を問題視していた」という遺族側の主張を全面的に受け入れるとしても、岡口裁判官の一連の説明が、虚偽の情報を故意に流布したということにはならないであろう。一連の説明には、遺族を貶めるような発言は特段なく、岡口裁判官を有利にするような点もない。岡口裁判官が、ツイートの内容などから遺族の意図を誤解してしまった、という話に過ぎないのではないか。それは、自らを有利にするための虚偽とは言わない。

このように、岡口裁判官の一連の投稿は、侮辱や誹謗中傷とは到底言えない。遺族を貶める虚偽とも言えず、遺族の認識との違いは、単なる認識の相違か誤解に過ぎない。認識の違いを述べたからと言って、人は貶められることもなく、侮辱されることもない。また、岡口裁判官が被害者に粘着しているとも言えない。むしろ、遺族の側が岡口裁判官の片言をとらえて、積極的に関わっているようにも見える。

「遺族を傷つけたのだから、岡口裁判官が一方的に悪い」という人もいるかもしれない。しかし、岡口裁判官は、侮辱や誹謗中傷の意図を有しておらず、客観的に見て、特段侮辱的な内容や被害者を貶める言動をしているわけでもない。いわば、インターネット利用者として日常的な言動の範囲内である。そのような場合、それは一般人にとって、受忍すべき言動と言えるのではないか。
そうした、受忍すべき、日常的な言動が、「誰かを傷つけた」という理由で違法化される社会。それは、誰も、意見を持ち、発信することが許されない社会となるであろう。

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相馬獄長
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