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味覚は面白い『味なニッポン戦後史』を読んで

澁川 祐子 (著)『味なニッポン戦後史』を読んだ。

この新書は、どんな状況下で、人々の嗜好は変わっていたのか、基本五味のうち「うま味」に焦点を当てた。次に「塩味」「甘み」を取り上げ、「酸味」や「苦み」、味覚に分類されない「辛味」についても取り上げている。そして、最後には、第六の味覚として最有力候補の「脂肪味」にまで注目した、盛りだくさんの一冊だ。

うま味といえば、味の素論争を思い浮かべる人は多いはず。「味の素®」をめぐって、批判派と肯定派がぶつかり合い、議論が過熱することが多々ある。私は味の素に関して「使いすぎなければ問題ない」「美味しくなるなら使った方が良い!」と考えているタイプだ。

「使いすぎてもOK♪」というものは世の中にあるのだろうか。醤油を1リットル飲むとちょうど致死量くらいになるらしい。醤油をそこまで飲むのは不可能だが、1リットルという数字は不可能ではない。水や牛乳なら余裕で飲める。使いすぎたら危ないけれど、使いすぎなければ問題ないものは、世の中に山ほどある。

そもそも、「味の素®」の成分は「グルタミン酸」「イノシン酸」「グアニル酸」「ナトリウム」であり、自然の食物に含まれる物質である。長期間食べたとしても身体に害はない。公式サイトにもきちんと書かれている。

まあ、味の素論争は「化学調味料」という名前が引き起こしている部分は非常に大きいと思う。

もともと「化学調味料」と呼ばれるようになったのは、公共放送の料理番組で具体的な商標・商品名を避けるためだ。当時「化学」という言葉に、先進的な良いイメージがあったため、化学調味料という名前になったそうだが、人はどこで先進的な良いイメージから、危ない身体に悪いというイメージへと変化してしまったのか。

確かに「化学」という言葉はどこか怖い。実験室で白衣を着た博士が実験をしている様子が浮かぶ。たまに失敗して爆発させ、髪の毛をチリチリにさせる。どこか危険なもののような気がするのはよく分かる。そして味の素®を入れるとなぜか料理が美味しくなる、というのも不思議で怖い。

現在ではイメージを変えるため、「うま味調味料」と呼ぶのが一般的になっている。最初から「うま味調味料」と呼ばれていれば、味の素論争は起きなかったかもしれない。


『味なニッポン戦後史』を読んで、苦みの項目も興味深かった。

  • 遺伝子によって苦みの感じ方が異なる

  • 食で冒険するかしないかでも、苦みに対する感じ方は異なる

苦みを感じやすい遺伝子と感じにくい遺伝子があるのは面白い。ブラックコーヒーやビールを最初から美味しいと思って飲める人間は、苦みを感じにくい遺伝子の持ち主ということである。そうなると私は苦みを感じにくい遺伝子を持っているようだ。得なのか損なのかはちょっと分からない。

そういえばピーマンやゴーヤなど苦いものを苦手とする人は多い。大人になって食べられるようになる人が多いのは、味覚が鈍感になっていくこともあると思うが、食経験によるものも多いだろう。ただ、飽食の時代、無理に苦手な苦いものを食べる必要がない。食経験をわざわざ積む必要がなく、今後、苦いものを食べられない人は増えていきそうだ。

苦くないピーマンやゴーヤが続々と販売されるようになり、遠い遠い未来では苦い食べ物が消滅している可能性もある。私が後期高齢者になったころには「昔はもっと苦かったんだよ」とデイサービスの職員に話しているかもしれない。

その他、辛味に対して日本人はどんどん強くなっているように感じる。東ハトが発売している「暴君ハバネロ」は、昔、とても辛くて1つずつしか食べられなかった記憶がある。だが、今はピリ辛程度で、口いっぱいに含んでもそこまで辛くない。まるか食品株式会社が最初に出した「ペヤング激辛」も今となっては、そこまで騒ぐような辛さではない。ただ、激辛以降の極激辛は意味が分からないぐらい辛い。

口は辛さに耐えられるようになってきたが、胃や腸が耐えられているのか、度々不安になる。辛味は味覚ではなく、痛みということを忘れてはいけない。ただ、ストレスが溜まるとどうも辛いものが食べたくなる。辛いものを食べると脳内麻薬とも呼ばれる快楽物質「エンドルフィン」が分泌されるそうだ。蒙古タンメン中本で北極ラーメンを食べている人は、脳内麻薬が分泌されまくっているんだなと思うとちょっと面白い。

表紙に「味の素はヤバい」ってどうして信じたの?と書かれていたので、味の素に関する本かと思ったが、【うま味】【塩味】【甘味】【酸味】【苦味】【辛味】【脂肪味】に書かれていて満足度がすごい。すべての項目で語りたいぐらいだった。

何度も読み返したい1冊。

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