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#2 和歌山のみかんが美味しくて気がついたら石積み職人になってた話【農業】
石積み職人はムキムキマッスルの漢たちが
ヘルメットに重機でっかいハンマーを振るい
命懸けで石を積むー
そう思っていました。
自分がなるまでは。
これは、偶然の出会いから
石のパズルを作っていく過程に目覚めてしまった
30代女性の実話であります。
また、自分のスキルを自覚していないまま
地方移住した気合いど根性長編物語でもあります。
先に伝えておくと、
【私のIQは3〜3万です】
覚悟してください。
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俺の時代到来ニャーン
2022年2月22日
にゃんにゃんにゃーーーん
29歳の誕生日
「こんなゾロ目の年にやることは成功するやろ!」
と根拠のない自信を持っている私は、和歌山のみかんが美味しいことに心惹かれ
夫を無理やり引き連れて有田市に移住した。
おかげで彼は胃に穴が空いてしまったし、しばらく和歌山のことが嫌いだったそうだ。
これは私の勘違いと焦り、気遣いの無さが原因で、今も申し訳なかったと思っている。ほんとにごめん。
海が癒してくれたかな、、
移住したこと自体は大正解だったと今は思える。
「みかんつくりに携わりたい」
それだけで引越しをしたのである。
付き合わされた方はたまったもんじゃないね。
転居予定の家の近くを散歩した。
夕日が沈む海が美しかった。
空が広い。
魚臭くない漁港で吸うタバコが美味い。
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IQ3の直感が強烈にここが良いと訴えかけてきたので、住むことにしたのであった。
愛車のCRF250を走らせれば5分でスーパーに行けるし、22時までコンビニも空いている。ほどよく田舎だ。
実家はコンビニ2キロ先だし、駅も10キロ離れていたよ。それに比べりゃここは天国や。
普段は空き家がネットに出ることがほぼないと言われている地区で倉庫つき住居を見つけて、生活がスタートした。
「倉庫あったらみかんつくりもできるんじゃね?」
こういう時はいつも運がいい!
だって22年は私のミレニアム、根拠はない。
関西でみかんといえば「有田みかん」
なのだそう。
つい最近まで知らんかったくせに、住んだ途端
すごく誇らしかった。
和歌山みかんを知ったのは2021年
バイク事故で右足にボルトを入れて改造人間になった際
和歌山に住んでいた友人からお見舞いでコンテナいっぱいにもらったみかんを食べてから。
「味が…濃いッ…!!」
衝撃だったね
これはお宝かな??
弱った体に良く効いた。
生きてるって感じたよ美味しくて涙が出た。
奈良に3年も住んだのにみかん食べてなかったよ。
だって、こんなにうまいもんだって知らなかったんだもん。
憧れの土地に着弾しましたdanger
何をしましょうかね〜
行動あるのみ!ミレニアム!
やる気だけはあった!!
・みかん栽培についての本を読む。
・農家さんを訪ねて木の植え方や、時期の仕事を学んだ。
・農家さん向け剪定の講習会に行く。
・その辺をバイクで走って畑を見ていた。
そんな中で割と大手の農業求人サイトで募集されていた
みかん産業ではない有名企業のみかん畑(複雑やな)の管理アルバイトとして働くことになった。
そして
ここでの出会いが私の石積み人生
大きな出会い
師匠との出会いと別れの3ヶ月の始まりでした。
有田みかん
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有田市の真ん中には緩やかな大きな川が流れていて、両側に山なだらかでほっこりするような稜線のやまがある。山肌によく目をこらせば模様のようなものが見渡す限り広がっている。
それは、全てがみかん🍊
初めてみた感想
「異常だ。」
恐れを抱いた。
岩手出身の自分が思う山っていうのは畏怖の象徴で、油断すれば谷や沢に迷い込み死ぬ。クマに襲われて死ぬ。人間が入って良いもんじゃない、じいちゃんとか強いやつしか入っちゃダメな場所。
そんなふうな考えが頭にあったから。
でも、有田は違う怖さを感じた。
神道で言う御神体の山が、上まで石垣を組んでみかんを栽培している。多分これいっぱい死人が出てる。
それを機械もなしに400年以上前から。
人間の力、すごー。狂ってる。それ褒め言葉ね。
徳川家康の十男で初代紀州藩主の徳川頼宣が領内を見回り、藩内各地でその立地条件にあった産業を探していた。
温暖な気候で、山林の多い有田地方。
将軍「その土地を活かしたみかん栽培をしてね」
との命を受けた農民たちは
山林を開拓し、石積みの階段園を築いてゆくことで、日本一のみかん産地を形成したのだ…
平地がほとんどないからね。
その当時は20キロのみかんが10万円で取引されていたそうです。ほんとにお宝ですね。
また、私が転々と有田みかんの山を食べ歩きした結果
ネットや、農家さんの言うように
日当たりや川のサイドで変わる土質、もちろん栽培方法、植えられている品種でみかんの味は全然違う!
南側で太陽がよく当たり、山の頂上にある水捌けの良い土地は美味しい製品が作りやすい。
が、ここ最近の気象変動により
みかん栽培における適作的地の条件には厳しくなるとの予測もある。人によっては30年後はもう無理かもしれないと、嘆きの声も聞いた。
農家は癖が強くて面白い
「今年もベストの味が作れなかった!」
と熱いハートを持つみかん農家の友人。
自然の中で人間が木という生き物をコントロールし、お宝のみかんを作るむずかしさ。
いつか渾身の作品を食べてみたいな。
「うまいみかんを作るな。うちの家訓やで」
と話す友人。意味は、そこそこ広い土地で果樹栽培を本気でやろうと思ったら体や心が壊れるから。この人はマイペースで、みかんよりサボテンの品種改良に命をかけている。
パワハラ気質になるよりのんびりしてて良いかもね。
「当たり前だろ!俺のみかんは1番だ!」
すごく…パワハラ…イライラプンプン丸!朝から晩までみかんのことを1番に考えて、家族のために頑張る人だった!が、話がおもんないand心に傷をつけられ関係を辞めた笑。
美味しいみかんを生産すると人間の心を捨てる部分が出てくるのかな〜?と思った。
「…やっといて。」
ダウナー系農家さん。ほんとに体調が悪くて繁忙期でも出てきてくれなかったのでもう1人のプレイヤーと仕事を進めていた。研究者でもあり、知識人で体調の良い時は面白い話をたくさんしてくれた。虫歯になりそうなくらいみかんが甘かった。
他にもたくさん、素敵な農家さんがいらっしゃいます。
またいつか紹介したいな〜
東京で会社員時代が長かったので個人事業主の癖の強さがみんなあって面白かったです!
本気でヤバい人もいます!ここには書かないけどガチ目の気持ち悪いセクハラにも遭いました。お〜こわ〜
みんな、美味しいみかん作っても
人間の心すてないでね🥺
師匠と呼ばせてくださいよう
2022.4.1
美味しい南向き斜面、一等地の畑でその人に出会う。
長年外仕事をしてよく日に焼けた白髪のお爺さん。
目の色は青かった。
ツヤっとしたほっぺが可愛くてにこにこしていた。
痛かったことは人生の記憶に残るもので
出会って3分後に、勢いよく倉庫の扉を閉めた私は
思い切り人差し指を挟み込んで潰した。
これは…まずい!
クビになる…!
叫びたかったがグッと堪えた悲鳴。
アー
ヨロシクオナシャス
泣きたかった。
指は血まみれだった☝️
4月は苗木を植えつけ
残っていた剪定を手伝った。
剪定の実戦は初めてだったが、まずまずの及第点をいただけてホッとしたのを覚えている。
柑橘の剪定はややこしくて、
毎年同じ量の実をつけさせるための剪定
農薬がかかりやすい配置
美味しい実になるための剪定
作業効率を考えた枝振
木の年齢を考えた樹形の作り方
…etc
人によって切るところが変わるし、農家さんによっては自分以外に切って欲しくない。
品質、収量にかかわる大事な作業。
今でもずーっと勉強中。
考えて仕事をするのが好きなので、
私は大好きです剪定。
それが終われば
閑散期
師匠は言った
「石を積むぞ」
みかんつくりに和歌山にきた私にとって
🍊と🪨がリンクしてなかった。
なんで?、?と思ったよね。
だけど崩れた山を見たらわかります。
みかん山を守るってことは石を積んでいかなきゃならんのだと。
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園主さんが継ぐ前から崩れていたそう。
半分以上山に帰っていた。
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ガチガチに通りやすくなったでしょ!
私が死ぬまで崩れないぜ。
大雨洪水で傷んでいた石積みが流されれば木もなくなり、通れなくなる。
そのままにしておけばもっと流れてしまう。
なおさなきゃ
どうやって…?
もちろん人力さ!!!
木を植えて、みかんを育てる大事な基礎工事
土木作業は初めてだったが、岩手にいる頃から1人で粘土を掘って土器まがいのものを作ってニヤニヤしていた私にとっては楽しい仕事だったよう。
山の中で孤独に土と石を使い、古来からの技術で伝統を守る。コンクリートは使わない。
浪漫があった。
先人が残してくれたものをまた、次の世代に残すために体を酷使する過酷な仕事だった。
師匠は「厳しくやるからな」とか言いつつ
80歳のおじいちゃんなので休憩多めだし、女子の私を気遣ってくれた。
「仕事は楽しくやらなきゃな」といつもニコニコしていたよ。
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絵:わし
壁を作るのに重要なのは土台の大きな石
根石『ねいし』という。
これを置く位置が悪ければ壁は成立しないし、曲がりくねってしまったり崩れる原因になる。
そう言ってはじめの2箇所の根石は師匠が積んでくれた。
そんな頑張る背中を見ていたらなんだか涙が出た。
この人は週に一度膝に注射を打ちに行って、歯を食いしばって仕事をしているのだ。
しかも、お金が欲しいわけじゃない。
プライド、根性、生真面目。胸を打たれた。
はじめの3日間はどう石を置けば良いかもよくわからず、不恰好な積み方をした。
それでも根気よく面倒を見てくれて、何が悪いか有田弁まじりで教えてくれた。
たまに本気で何を言っているのかさっぱりわからなかったけど、その度に聞き返してだんだんと方言もわかるようになった。
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手前わたし
奥師匠
積み方が全然違う。
面が揃っていてきれいだ!
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美しい。
毎日石を積むうちに
ツラの見つけ方(表向きの面)を見つけるコツ
石の傾け方、奥に入れるグリ石での調整
だんだんわかってきた。
が、腕が限界だった。
印刷業10年
食品工場の特殊清掃3年
平均より高い身長(現172cm)
多分人より力持ち
な私でも、むちゃくちゃきつい。
男だったら…とか思っちゃうよね。こんな見た目だけど、体も心も女の子だもん!笑
一日が終われば帰ってくたばり、まめに温泉に通った。
それでも3ヶ月終わる頃には腕の感覚が無くなって、最終的には鍼治療を受けた。
努力の達人 今に集中すること
師匠は言った
「頑張りすぎずがんばれ」
この人は50年会社勤めの間に必要になる資格をほとんど取って、何かあれば呼ばれるスペシャリストだったそう。必要だからあるんだよと言っていたけど
適当に平社員をしようと楽をしようと思ったら取らない選択をしていた。
定年退職後に始めたみかん山の仕事だが、とても勉強熱心で畑はとても美しかったし
ろくに道具を買ってもらえず(軽トラもない)
自前のカブに水を入れたポリタンクを積んで畑の中を走っていた(見てるだけで骨を折りそうなこけ方を2回は見た)
やると決めた仕事は絶対に放り出さない人だった。
野菜を作ればピカイチで、色々な人に丹精込めて作った品を配っていた。とても優しい心が綺麗。
心に残ってるのは、
「集中はするけど、熱中しない」
みかん山での仕事は命取りになる怪我もある、周りの状況をよく見ながら、ゾーンに入れる人なんだと思った。
カッコ良すぎる。
これは、私の課題。
絵を描いている時、何かをやり始めると終わるまで興奮してしまう癖があるので
いつかその境地に立ってみたいと思っている。
有田の山の石垣の凄さが改めてわかった。
やはり、完成後の達成感も素晴らしいものだった。自分が作るまで、不安定だった土地がしっかりとして、上に立って仕事ができる。100年以上残るかもしれない仕事。
自然が大好きで、人に喜んでもらえる。
こんなに素晴らしい体験をしたことがなかった。
2022.6
3ヶ月師匠と過ごした大切な思い出。
元々、師匠は会社とはウマが合わなかったようで、辞めたいと相談してきた。
それなら、私もここにいる意味はないと感じた。
この素晴らしい人を追い出してしまうような会社に価値はないと思ったから。
尊敬する師匠が悲しむ姿を見てしまった。
そして、師匠からも
「あんたなら1人でできるよ」とお墨付きを頂けた。
また泣いてしまった。
(私は結構涙脆い、メガネで隠してるけど、めっちゃ泣くw)
そんな感じで
石積みの修行をおさめたのでした。
「もっと早く出会いたかったよ」
って不遇な環境でも耐えてきたおじいちゃん
「じゃあもっと有田みかん有名にしよか!」
「私これからも石積むよ!」
って約束した!!
でも、1人で全ての山は見れないから
次世代に繋げるためにこれからも石積みのワークショップを続けていきたいと思います。
今まで3回開催しました。
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もちろん女性だってok!
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農家さんはもちろん、学生さん
サラリーマン、自分の土地を活用したい人
石を積むことを通して自然と繋がりたい人
みかんが大好きな人
いろんな思いを持って参加してくれた皆様ありがとうございました!!
2025.1.13現在は骨折中のため、次回予告はできませんが
必ず近いうちに開催しますので
興味のある方は私のTwitter、Instagramにてご連絡よろしくお願いします!
みんなで有田みかんをつくろうよ!✌️☺️
文化を残そう。未来へ。
長文、乱文になりましたが
ここまで読み進めてくれた全ての人に感謝いたします🙏
ご拝読ありがとうございました。
2025.1.13 デンジャー佐藤