アントニー・D・スミス「ナショナリズムとは何か」
ネーションは日本人に分かりにくい概念
ナショナリズムの基礎的定義「自分達は現実のあるいは潜在的なネイションを構成していると思っている成員が存在する集団において、その自治と統一とアイデンティティを確立し維持することを目指すイデオロギー的運動」→これはナショナリストを自称する人々が抱える様々な理想に共通する要素に着目して導き出された基礎的定義であり、従って帰納的な定義ということができる。
・ネイションの分かりにくさ…物象化できない。ネイション=実体的で永続的な集団。 ネイションなきナショナリズム。他には、ネイションは実践のカテゴリー、ネイションフッド(ネーションであるという状態)は制度化された文化及び政治の形式、ネイションネス(ネーションとしての特徴を備えていること)は偶発的な出来事あるいは事件…様々ある。
①ナショナリズムに基づいてネーションが誕生する場合
→マッサンナショナリズムの上下の範囲内で考えるものであれば、ナショナリズムとはネーションという観念によって一般の人々の間に喚起される心情を強調するものである。このようなイデオロギー的言説においてはネーションとは感じられ生きられる共同体であり、想像のカテゴリーであるのと同じくらい、行動のカテゴリーである。
例)エスニックな歴史の研究や文献学、ナショナルな遺跡の考古学的発掘、建物や構造物の造営、ナショナルのゲームや競技大会の開催、祈念のための儀式や式典、とりわけ自分たちのネイションのために戦死した者たち、及び偉大な勝利をもたらした者たちのための儀式や式典の増加を促す。
→ ナショナリズムの実質と持続は、他の種類の共同体の場合と同じようにこうした活動が繰り返しもたらす効果。
②ネイションという概念がナショナリズムのイデオロギーに先行して存在していたとすると…
その場合、ネイション概念を単純にナショナリズム的実践のカテゴリーとみなすことができなくなる。さらに18世紀末にナショナリズムのイデオロギーが登場する以前に、前近代的ネーションが存在したと想定することができるならそのイデオロギーに依存しない。しかしそれとも矛盾しないネーション概念の定義が必要になる。
・ネイションの概念の定義…言語、宗教や習慣、領土や制度などの客観的要因を強調するものから、態度や認知、心情などの純粋に主観的要因を強調するものまで、様々ある。
・研究者等の同意──ネーションは国家ではなくエスニック共同体ではない。
テンションが国家でないのは国家という概念が制度化された活動に関係しているように対して、ネイションという概念は共同体の一つのタイプを意味する。
・エスニック共同体…政治的含意はないし、公共文化もなく、領土がない。エスニック共同体は歴史的に重要な領土を物理的に占有している事が必要不可欠というわけではない。
→逆にネーションは、認知された強度に少なくとも相当の期間住んでいることが必須であるし独自のネーションという地位を切望し公共文化を発展させ自己決定権を目指すことも必要。ただね一緒にとってそれ自身の試験国家を保持していることは必須というわけではない。※強度と認定されたところに一定の自治権を熱望しさえすれば。
※デヴィッドミラーの定義…ネーションは共同体であること、 信念あるいは神話が共有されていること、歴史を持つこと、特定の領土と結びついていること。
スミスのネーションの定義…「我が郷土と認知されたところに住み、誰もが知っている神話と共有された歴史、独自の公共文化、全ての成員に妥当する慣習法と風習を持つ、特定の名前で呼ばれる人々の共同体」
エトニーの概念…「郷土と繋がっていて、祖先についての誰もが知っている神話、共有された記憶、若干の共有文化、そして少なくともエリートたちの間では一定の連帯感を有する、特定の名前で呼ばれる人々の共同体」
→ネーションは慣習法と風習、独自の公共文化を共有する点でエトニーとは異なる。
ネイションは郷土を占有するのに対してエスニック共同体は郷土と繋がっているだけ。
エトニーは公共文化を有している必要はなく、言語宗教慣習ないし共通の制度などある程度の文化的要素を共有していれば良い、ネーションにとっては独自の公共文化が不可欠。
→エトニーは記憶の伝統が存在する。
Title <論文>近代のなかのネーション/ネーションのなかの前近 代 : ネーション-ステイト研究
全体 として は複雑 な作業 工程 であ って も、 ひ とりひと りに課せ られ る作 業は、分業 と大量 の労働 力 に よって構成 された単純作 業で あ り、労働者 に要求 される能力 京都社会学年報 第5号(1997) 82 野 村:近 代 の なか のネ ーシ ョン/ネ ーシ ョンのなか の前 近代 は、すべ ての人 との共通化 、標準化 に基礎 づ け られてい る。 その ため に、ハ イカルチ ャー の大衆化 が必要 となるので ある。分業 に よる専 門性 は、熟練 を必 要 とす る タイプの特殊 性 で はない。 そ して近代 科学 に基づ く均 質 で空虚 に拡が る空 間 と直線 的 な時 間の軸上 で、ハ イカルチャーを身につ けた均質 な諸個人 は、全体の 中の ひとつの内的 な属性 をもつ要素(部 分)と な り、他 者 と容易 に代 替 で きる単位 として社会構造 の 中に、組み込 まれる こ とにな る。
ナショナリズムの基本的主張「中核的教義」
1.世界は様々なネーションに分割されていて独自の性格歴史運命を持っている。
2.ネイションは政治権力の唯一の源泉である。
3.年商への忠誠はそれ以外のものへの忠誠に優越する。
4.自由であるためには誰もはネーションに属さなければならない。
5.あらゆるネイションは十分な自己表現と 自治を必要とする。
6.地球全体の平和と正義のためには実験を持つネーションからなる世界が必要である。
ナショナリズムの創設──ルソー、ヘルダー、ツィンマーマン、 バーク、ジェファーソン、フィヒテ、マッツィーニの共通要素。
ナショナリズムの中核的競技は大きな抽象的枠組みを提示するに過ぎずそれぞれのナショナルな共同体に特有のあらゆる種類の虹的概念や特殊な関連によって補充されなければならない。
例)アルプス山脈の風景によって育まれたスイス人のイメージ、キリストの受難と復活を地でいくことがポーランド人のネーションとしての理想。
スターリン時代以降のナショナルの 共産主義で怒ったようにナショナリズムがしばしば他のイデオロギーや信念体系にやどり、それらの理想や政策をナショナリズムの目標と結びつけてしまう。要するにナショナリズムが他のイデオロギーを補充することに役立つのか、それとも他のイデオロギーによって補充されるのかという問題はニ時的である。
ナショナリストの任務とはネーション独特な文化的精神を再発見し同胞に真正な文化的アイデンティティを取り戻せる。
ネイションの個性を追求する。歴史学、考古学、人類学、社会学、言語学、民俗学などの諸学問によって。 「私たちは何者か」、「私たちの始まりはいつか」、「私たちのどのように繁栄したか」、「どこへ行こうとしているのか」問いを見つけるための道具と概念的枠組み。
中核概念…自治、統一、アイデンティティを文化や政治の現実的なプログラムと結びつける概念のこと。真正さ、連続性、尊厳、運命、愛着、郷土といった諸概念。
→ ネイションの過去、現在を評価する基準になる。目標を達成したかの基準にもなる。
①真正さ…真に自分自身であること。
②自己とは真正さを追求した先にある オリジナリティを意味するようになりこれがナショナリズムの文脈ではオリジンと決闘のシーンはへとつながっていく。
諸学問でいうと歴史家は過去の歴史物(場合により現物)を見出でて歴史を形作るし、音楽家は過去と全く同じ古楽器を演奏することにより古の楽曲を奏で、美術家や考古学者は古代の制作物や巨匠の作品が本物であろうと証明しようとする。
=これが「自分たちは何者で、どこから来たのか」を追求しようとすること
→ いずれこれは「起源」にたどりつく。
→ ナショナリストの文脈でいうと、自分たちの特徴は「起源」によって決定されていると考える。
真正…内的に決定されており自治の概念と重なる。本当の共同体とは自己を決定するネーションである。
尊厳は自分たちの内部に再発見されるもの。屈辱や圧制がもたらすであろう尊厳に反するが、ひとりでに尊厳への願望を生み出さない
→ 『西洋の技術、東洋の道徳性』(アジアの常套句だった)※星和テクノロジーの面で優れているが精神面では先天的にアジアの方が優れていると言いたい。
→ しかしそうした態度が虐げられた者たちの内面の尊厳を守り、 反転した状態、すなわち抑圧されて軽んじられた者たちがかつての偉大さを取り戻し外的状態がない的価値を反映する状態がいずれは訪れることを約束する。
例)明治のリーダーたちの心情
尊厳は偉大なこと高貴な血統からも生じる。それらは尊厳と忠誠心を呼び起こすものだからである。そうした集団的尊厳の探求家庭では落ちぶれた現実のよそ者との対照が意識されることで、ネイションの本当の自己に対する思い出が一層強まることになる。そうしたことが起こりやすいのは英雄時代あるいは黄金時代の記録はよく残っていてそれが自分たちの現場の評価基準となっている場合。
ネイションは歴史を有する共同体
・リベラル…左派、寛容さ。
アメリカで何が起きているか?グローバリゼーションにより多様化を進めると、格差が拡がる。中流層が格差転落で下層に。下層はオルタナ右翼に走る。
リベラルな人たちは…きれいごとを維持してしまった「ポリティカル・コレクトネス」排外主義はダメですよ。
→ 多様性を維持すると、弱者は救済できない…
→ 弱者を救済するなら、所得の再分配。
多様性は切らないといけない。
所得の再分配で許せるのがネイション。