だったら天才と見分けがつかなくなるまでやればいい それだけだ
9連休明けの怒涛の一週間と、執筆の締め切り
年末年始の9連休が明け、今週はまさに怒涛の一週間だった。
近隣のかかりつけ医から「手術が必要な患者さんがいるので年明けすぐに対応をお願いします」といった紹介依頼が続く。
さらに救急外来には「年末年始は我慢していた」という痛みを抱えた患者さんが次々に搬送された。オペ室の枠はぎゅうぎゅうに詰まっており、夜遅くまで手術が続く日々が続いた。
週の後半には、救急科としての重症の救急外来診療に加えて、ICUの管理をする当直も重なった。
整形外科医としても救急医としても、目が回るような忙しさに見舞われたというのが今週の正直な感想である。
締め切りは待ってくれない―「書籍原稿」の追い込み
しかし、どれだけ仕事が立て込んでいても、締め切りというものは容赦なくやってくる。実はこの2月に出版予定の書籍があり、その原稿の最終校正が今週末に締め切りとなっていた。
必然的に「手術と手術の合間」「ちょっとした休憩時間」をフル活用して、パソコンに向かいひたすら執筆を続けなければならなかった。
自分で「やりたい」と決めた執筆である以上、当然やり抜くのが当たり前なのだが、足が棒になるほど手術に入り続けた後に、キーボードを叩くのは思いのほか気力を要する。
ときには“抜け殻”状態の自分を奮い立たせ、何とか文章を仕上げていく。そうしたギリギリの状態だからこそ、精神的な支え―いわば“心のエネルギー源”がとても重要になると改めて実感した。
私を奮い立たせる「ブルーピリオド」という作品
そんな私を救ってくれたのが、昨年出会った漫画『ブルーピリオド』である。
同作は「マンガ大賞2020」で大賞を受賞し、その評価は
「クリエイターの苦悩をダイレクトに描いていて息苦しくなるほど」(会社員/小野塚博之)
「『情熱』と『テクニック』の融合が最高に燃える」(ダ・ヴィンチ編集長/関口靖彦)
など、熱い称賛の声が寄せられたことでも知られている。
もともと講談社の『アフタヌーン』で連載中の漫画が原作となっており、アニメ化もされた青春群像劇だ。
高校生の主人公が絵を描くことに目覚め、美術大学を目指して奮闘する姿は、一見“さわやかな青春美術漫画”のように見える。
しかし実際は、努力と情熱、そして「もっと上手くなりたい」「さらに表現したい」というクリエイターの苦悩がリアルに描かれている、いわばスポ根漫画なのだ。
クリエイターの苦悩と、努力の尊さ
医師として働きながら、私自身も“ものづくり”に携わる立場である。
原稿を書き続けるのは、ある種のクリエイティブ作業だ。
その過程でいつも突きつけられるのが、「自分より優れた人が山ほどいる」という厳然たる事実である。
“天才”と呼ばれるような人たちを目の当たりにすると、自分には足りないものが多すぎると痛感させられる。
『ブルーピリオド』の主人公・矢口八虎(やぐちやとら)も、まさに同じように壁にぶつかりながら、それでも筆を握る。
天才と見分けがつかないほどの努力をすることで、少しでも自分が思い描く表現に近づこうとする姿がとても刺激的だ。
美術の世界はセンスや才能がすべて、という先入観を覆すようなストイックな描写に、私はいつも奮い立たされるのである。
「好きだからこそ楽しいわけではない」という真実
『ブルーピリオド』において強く印象に残っているのは、「好きなことをやっているというのは、いつでも楽しいわけではない」というメッセージである。
好きなことだからこそ、時間をかける価値がある。しかしそれは同時に、果てしなくもがき苦しむ道でもある。
もっと上手く描きたい、もっと素晴らしいものを作りたいという欲求が、絶えずクリエイターを追い立てていくのだ。
私にとっては、医師としての仕事も大事だが、書くことや創り上げる作業も大切な自己表現の場である。
自分の作ったものを通じて、人の心を動かしたい――この思いがあるからこそ、夜遅くまでペンを走らせ、キーボードを叩く。
どれだけ自分が疲れていようが、「休んでいる暇があったら手を動かせ」とでも言うように、作品が“背中を押して”くれるのを感じる。
未見の方に贈る―「ブルーピリオド」のすすめ
もし『ブルーピリオド』をまだ読んだことがない方がいれば、ぜひ手に取ってみてほしい。漫画でもアニメでも構わない。
むしろこれから初めて物語に触れる人は、“最初から読める幸せ”を味わえるという特権がある。
「漫画から入りたい」という人はコミックスを、「映像派だ」という人はアニメを選ぶのもよいだろう。
筆者は、まだ漫画のすべてを追いきれていないが、今年はぜひ通して見てみるつもりだ。
おわりに
この一週間を振り返ると、医師としての責任と、クリエイターとしての責任とが同時にのしかかってきた期間だった。
なぜここまで追い込まれてしまうような道を選んだのか。
答えはとてもシンプルで、「好きだからこそ真剣に取り組みたい」と感じているからだ。
好きなことは決してラクではないが、必ず“やりがい”として自分に返ってくる。
そして『ブルーピリオド』のような作品は、そんな私のやりがいをさらに燃え上がらせてくれる大切な刺激源なのである。
まだまだ発展途上ではあるが、“天才と区別がつかなくなるまで努力する”――そんなスローガンを胸に、医療とクリエイティブの二刀流で走り続けようと思う。
もし、いま何かを始めたいと考えている人がいれば、『ブルーピリオド』を手にとって、燃えるようなモチベーションを得てほしいと願っている。