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立春 第三候 魚上氷
魚上氷は、本来は凍っていた川や湖の表面が割れだし、その割れた氷の間から、魚が飛び跳ねるさまを表すそうですが、チェンマイでは寒季には、高山で霜も降りますが、流石に里で氷が張ることはありません。
魚もなんとなく気怠けではあるけれど、一年を通して活動していて、氷の向こう、冬の冷たい水の奥に集まってかすかにヒレをゆらし、眠るように沈んでいる、日本の冬の魚たちの様子や、その魚たちの蠢きに、冷たいはずの水が、とろりと生ぬるさを帯びているように見え、昏いのに奇妙に芯に強い熱さのある、生命の気配を感じさせたりする情景と感覚が懐かしくなります。
そんな言葉の中の氷と魚に冬を思っても、今はもう春。
そして立春も終わりの頃。
北タイでは広大なトウモロコシ畑で収穫後の枯れた茎やなどを焼く煙で空が白っぽく霞みはじめ、そこに朝夕は冷え込んでも昼過ぎにやけに暖かく土と水の匂いのする強風が砂埃や枯葉を巻き上げながら吹きすさび、少し前まで透明に乾いて軽やかだった空気は、湿気を帯びて濃度が上がったように感じられる日がやってきます。
そんな日が2、3日続くと、快晴続きだった空には数ヶ月ぶりに積乱雲が立ち、時には雹や大風を伴った激しい雨を束の間降らせ、その水気と、日に日に高度を盛り返す太陽のために、小刻みに朝夕の寒さは緩み、更に少しずつ空気に熱を帯びさせ、なんだか、あの冬の眠る魚たちを包んでいた水の、幻の熱気の手触りを思い出させるのです。
無論、熱は幻ではなく、次の暑い季節を準備する本物の温気なのですが。