雨水 第四候 土脉潤起
不思議と季節の変わり目と生活の節目は重なるもので、健康診断書を貰いに出かけたり、少し遠くへ買い出しに出かけたり、あれこれの用事に追われていると、あっという間に七十二候は過ぎていきます。それでも、目の端、皮膚のどこかに季節の節目は感じられるのは、きっと、七十二候を意識しているから。そして、中国の南の方で生まれたというこの暦は、意外に北タイにも合う部分が多い気がします。
第四候の土が潤い、生気が満ち、生き物が目覚め始める感じは、春が生命が漲り、張ることに由来するというように、季節の端境の嵐の雨に、大きな鳥が飛ぶように大きな葉が落ち、しかし同時に芽吹きが始まり、また花の季節が始まるさまは、チェンマイでも時を同じくしています。無論、嵐の雨のあと、この国にやってくるのは厳しい日照と乾きではあるのですが、それにも負けず花々がみずみずしく咲くのには、やはり土と水の力を感じずにはおれません。
そんな中、用事があって出かけた郊外からの帰り道、普段は寄り道は好まない家人の提案で、一年半ぶりに立ち寄った山の中の隠れ家めくカフェは、ロックダウンの影響もあって、居るのは私たちだけ。
あたりは白いバウヒニアやチョムプーパンティップ、ルアンインディアが花盛り。満開の花は西日に透け、そして小さなハンカチを落とすようにぱたりぱたりと花を散らせ、頭上も地面もベンチも花に覆われ、見る人もないまま優美な生滅の情景ががそこにはあったのでした。
ちなみに、チョムプーパンティップ(モモイロノウゼン)、ルアンインディア(コガネノウゼン)は、ルアンインディアにいたっては「インドの黄色」という名前にも関わらず、どちらも南米が原産の花たちです。
他にも、タイではすっかり身近なレインツリーも北米原産ならば、何より料理に欠かせない唐辛子も南米の植物です。タイの風景の一部になっている、花や植物の中、今も大航海時代からの人や物の行き来が残響しているような気がします。