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恩田陸著『ライオンハート』の感想 - 「時は内側にある」という謎

恩田陸さんの歴史・ミステリー・ラブロマンスの小説『ライオンハート』。

人間が持っている感覚を見事に言語化している小説です。

鳥肌が立つほどゾクッとしました。

どのジャンルかわからない、かなり不思議な小説です。


思い出せない夢

小説に登場するキーフレーズがこの2つ。

・魂は全てを凌駕りょうがする
・時は内側にある

この2つのキーフレーズは、読み進めるとわかった気になります。ですが、わかっていた気になっていただけで、次の瞬間わからなくなってしまう不思議な表現です。

起きた瞬間、夢を覚えていたはずなのに、ちょっと時間がたつと記憶からスッポリ抜けてしまう……。
この感覚に似ています。

構成とあらすじ

『ライオンハート』は5本の短編と、それをつなぐひとつのストーリーで語られます。

老大学教授が忽然こつぜんと姿を消してしまいます。この老教授の失踪事件が5つの短編をつなぎます。

5つの短編の表紙には、ストーリーに関連する絵画が登場します。

先ほど紹介した2つのキーフレーズ「魂は全てを凌駕する。時は内側にある」。
そして、「ユニコーンと顔に布をかけた女性の胸に剣が突き刺さっている紋章」がところどころで登場します。

この謎の文章と、紋章の意味。
読み進めていくことで解明されていきます。

生まれ変わる2人

主人公のエドワードとエリザベスは生まれ変わりを繰り返します。生まれ変わるたびにふたりは出会い、離れていきます。

ふたりは同じ時間を進んでいないので、リチャードが年上の場合もあればエリザベスが年上のこともあります。

そして同じ時代にいても、ふたりが出会わず終わることもあります。

時間は4次元だったのか!

混乱するのが、5本の短編の時系列がバラバラな点です。

この時間軸が読んでいて一番混乱する部分であり、この小説が特別な理由です。

リチャードとエリザベスの生まれ変わりは1600年ごろから始まります。

17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、20世紀のパナマ、現代のフロリダと場所を移動します。

現代に近づいたからといって記憶が蓄積されるわけではありません。生まれ変わった後よりも、生まれ変わる前の方に重要な記憶が残っている場合もあります。

この小説を読んでいて「時間って4次元なんだ……」と不思議な感想を持ちました。

「春」

最後に僕が一番好きだった章、「春」の紹介です。

章のはじめにミレーの風景画『春』がのっています。

この作品を読んでいたとき不思議な感覚に陥りました。

恩田さんの小説があとに書かれたはずなのに、この小説をもとにミレーの絵が書かれたような感覚に……。

ケイト・ブッシュのアルバムから着想

この『ライオンハート』は、イギリス出身のケイト・ブッシュが20歳のときに発表した「ライオンハート」というアルバムから着想を得ています。

実際の曲(原題:Oh England My Lionheart)はこちら。

なんか聞いたことのある特徴的な声……。

「あっ!!!!!」

はるか昔のバラエティ番組「恋のから騒ぎ」のテーマソングだ。

「ライオンハート」とは、イングランド王リチャード1世(1157年~1199年)のことで、勇猛さから獅子心王(Richard the Lionheart)と呼ばれていました。この歌は兵士たちを讃えるような内容といわれています。

ぜひ不思議な感覚を体験してみてください。

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