【vol.5】すべてのいのちが輝く社会づくり/小川美農里さん
ダーナビレッジの広報スタッフ、サエがお届けするインタビューシリーズ。今回は、ダーナビレッジのオーナー・小川美農里さんにお話を伺いました。ダーナビレッジ立ち上げまでの経緯や、美農里さん自身の価値観の変化、今の取り組みに対する想いなどなど、全5回にわたってお届けします。
最終回となる「vol.5」では、ダーナビレッジでの取り組みやその背景にある美農里さんの想い、これからの展望などをご紹介します。
ダーナビレッジとは、「すべてのいのちが輝く社会づくり」をテーマに、健康回復とじぶん発見をめざす体験型の宿泊施設です。ヨガやセラピーなどの体験、隣接する農場で育てた有機野菜のお食事などを通して、「本来のじぶんらしさを取り戻す」お手伝いをしています。
人間中心ではなく、自然本位の生き方を。
ーダーナビレッジのテーマは、「すべてのいのちが輝く社会づくり」とのことですが、これはどういった意味なのでしょうか?
美農里さん:頭に浮かぶんですよね。世界を旅してまわったときに目の当たりした、格差・貧困社会のなかで生きる人々の姿だったり、一部の人の幸せのために、誰かの幸せが損なわれていたり、傷つけられたりしている事実が。「すべてのいのち」というのは、人だけでなく文字どおり「すべてのいのち」を含んでいます。動物も、植物も、生きものすべて、なんです。
ーわたしたちが生き方を考えるときに、「人間中心」「人間本位」で考えがちですが、美農里さんはそうではないんですね。
美農里さん:世界一周して帰って来たくらいから、お肉を食べない生活を始めたんです。もともと殺生するのが苦手っていうか、自分たちはいのちを殺して、食べものとしていただいているっていうことが、受け入れ難くてすごい嫌でした。でも学生のころは食べなきゃいけないって思ってたから、いただいてたけど。でも自己流で、高校生くらいからちょっと断食したりもしていたんです。
ー「食べる」ではなく「いただく」ということばづかいに、美農里さんの意思を感じます。
美農里さん:なんか、最初は人のいのちが大切にされることだと思っていたけど、人だけじゃないなって思って。もちろん、いただくとか、殺すとか、生死は常に起きていることだけど、いのちを全うするということは、ほかの植物とか動物とか生きものがしてるみたいに、人間も自然の摂理に基づいて調和のなかでできることだな〜って。それで、最初は「いのちは肯定される」みたいな感じで考えていたんですが、でも肯定とか否定っていうのも、人間が勝手にジャッチして決めたことだなって思って。やっぱり、あるがまま輝くというようなことばが一番しっくりきたんです。
社会のためではなく、自分のために。
美農里さん:これはオーロヴィルで学んだことに通ずるんですが、人は自分が楽しかったり、満足できていたりしないと、ほかの人に手を差し伸べることはできないと思うんです。自分が楽しいことをやって、それが幸せな社会づくりにつながっている。それが持続可能なんじゃないかなって。
ー自分のことで精一杯だと、周りのことが見えなくなりますよね。
美農里さん:そうそう。だから、世界で起きている実情を知ってもらい、そのうえで一人ひとりが行動していくためにも、まずは一人ひとりが自分らしく生きていることが大事だと思うんです。そんな想いから、ダーナビレッジは「本来の自分らしさを取り戻すきっかけの場」でありたいと考えています。それらを実現するために、有機農業体験を通して自然とつながったり、セラピー・ヨガ体験では内に秘めた自分の声と向き合ったり、近くの農場からとれた有機野菜を中心としたヴィーガン(動物性たんぱく質を一切取らない)の食事でこころから健康になれたり。
美農里さん:かつて、わたしが「自分らしくあれない」ことにもがいていていたように、自分らしさを見いだしづらい方や、「自分らしく生きる」ってどういうことなのかを考えている方にとって、その人なりの一歩を踏み出せる場所でありたいです。そして、少しずつでも社会に意識がむいて、いっしょに世界を変える仲間ができれば、わたしたちがめざす持続可能な「すべてのいのちが輝く社会づくり」につながっていくと思います。
ーお話を聞いていると、本当に一つひとつのいのちに目をむけていることが伝わってきます。
美農里さん:でも、わたしはほんとに、社会のためってあんまり思ってなくて、むしろ自分のためとしか思ってないんです。自分のすることすべてが、ほかの人の役に立ってると思わないと、自分が満足しない。日々頑張ってる人たちには、生きてくれているだけでありがとうって思うし、そういうメッセージ伝えたいんだけど。自分自身に対しては、ある意味ストイックっていうか、世界の役に立ってない自分は存在意義がないって思っていて。
ーええ!?そんなふうに思うんですか?
美農里さん:子どもを授かって、少し変わったかなっていう気はするけど。でも目の前のことに100%幸せでいると、なんかこう、ある意味申し訳なさを感じるというか。虐待で亡くなっていく子どもとか、子どもを愛せない人とか、戦争で亡くなっていく人のことが、常によぎっていくから。だからわたしの場合は、ほかの人の手助けをすることで、自分の満たされない何かを少しずつ満たしてるという感じかもしれません。
ーそれが、めぐりめぐって、自分のためにつながってるっていうか。
美農里さん:人のためって「偽善だ」ってよく言うけど、いや、人のためと思ってないんです。自分が悔しかったり悲しかったりする感情を、少しでも浄化するためにしてるっていう感じです。
ー自らの感情から湧き上がってくる行動力こそが、持続可能なのかもしれないですね。
自然の循環のなかで、「生きる」ことの本質を学ぶ。
美農里さん:今行っているダーナビレッジとしての活動も続けながら、子どもや若者を対象に、自分らしく生きる土台を自ら育むための本質的な教育を手がけたいと思い、かつてダーナビレッジで一緒に住み、活動をともにしていた友人と新しく法人を立ち上げました。それが「一般社団法人福のもと」です。
美農里さん:会津の豊かな自然にふれながら、子どもたちと一緒に野菜を育てたり、家や小屋をつくったり、そこに集まる人々の多様性にふれたり。衣食住に関する学びを自然のなかで実践する、放課後の学童サービスのようなものを提供していきたいです。そうした体験や教育が、「人は自然の循環のなかで生かされ、生きている」という、生きることの本質を肌で学ぶことにつながっていると思う。そうしてすくすく育つ子どもは、自分だけが持つギフトを見いだし、やさしく愛に満ちた生き方ができるんじゃないかと考えています。