春に交われば、海は青く(ゼンブ・オブ・トーキョー 感想)
東京の海は決して青くない。
この事実は実際に見たことある人には自明の話だろう。
しかも曇りの日であれば尚更のこと。
ただ、あの海は確かに青かった。
この映画は灰色の海を青く染めるために奔走する、青春群像劇である。
【この先、ちょくちょく内容に触れます】
高校生の時、みなさんは修学旅行はどこに行っただろうか。
どうでも良い話だが、私の学校は少し特殊で選択式の制度だった。なので私は友人と海外を選択し、どちらかというとツアーのような修学旅行だった。そのため、残念ながら自由時間はあまりなかった。
でももしも地方に住んでいて、東京に修学旅行で行くことになったら、きっと私も池園(正源司)のようにテンション爆発で詰め詰めの予定を立てるだろうなあ、なんて思ったりした。
本編、頭から最後まで池園が不憫だ。その池園は人を想う健気さがある。そしてこの不憫さと健気さが、登場人物全員の青春を加速させる。
物語は修学旅行の自由行動の1日の話。
最初は池園が教室で、修学旅行の思い出を1人で振り返っているシーンから始まる。
修学旅行の自由行動当日、池園の班員は各々の「目的」を達成するために班から離脱する。
結果として撒かれてしまった池園だけは、自らが立てた計画を遂行すべく、行きたい東京の全部に向かう。
そんな1日の思い出の話。
浅草付近で1人になった池園は、上野→芝公園(東京タワー)→渋谷→原宿→下北沢→新宿 の順序で計画を遂行する。
その道中、皆の「目的」を池園本人が意図しないところで手助けをしていく。
其処には池園在り。
そして出会ったり助けられたりした皆は、池園本人の「想い」を受け取っていく。
そんな池園が物語の終盤に言うセリフがある。
「私が行きたい東京はこういうことじゃなかったんだ」
細部は違うが、物語終盤に桐井(渡辺)に予定表を破ってから池園が言うセリフだ。
主題歌であるConton Candyの『急行券とリズム』の歌詞にある、
『意味なんてないのここは”東京” 君と見たいしたいがたくさんあるの』
この歌詞こそが、池園の想いだった。
そして最後、池園は桐井の目的を達成するために皆を巻き込んで奔走する。
想いを受け取った皆も全面的に協力する。
全てが終わった後、皆は曇り空の下、お台場の海で大いにはしゃぐ。
あの海の写真はみっちゃんのブログに載っている(https://www.hinatazaka46.com/s/official/diary/detail/57847?ima=0000&cd=member)が決して青くはない。
少し暗い空と、灰色の海が広がっている。
ただ、物語終盤のこの海のシーンは、観る人には青く見える。
彼女たちが青くさせたのだ。
この青さこそ、池園本人の願いであり、想いだったのだと思う。
物語は最後、卒業式当日に修学旅行の思い出を1人で振り返っている池園のシーンに戻る。
皆があの青い春を胸にしまい、一歩ずつ季節を歩んでいく。
ここからの彼女たちの時間の経過は、きっと早い。あっという間に5年10年が経過する。それはきっとこの映画を観ている人たちみんなが分かっていることだ。
それでも、きっと彼女たちはあの青を持っているから大丈夫なんだろうな、なんて思っている。勝手に。
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