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話題のガンダム『ジークアクス』を観てきた話
はじめに
この記事は盛大なネタバレを含んでいます。感想というより備忘録の如く内容に触れています。ジークアクスを観る予定の方はうっかり読んでしまわないようご注意ください。
それにしても巷はジークアクス関連の記事が多いですね!またか…などとおっしゃらず、お祭りを楽しむ感じで気軽にお読みいただければ幸いです。
ジークアクスとは
ジークアクスって何ぞや?っていう方はこの記事を読んでいないと思いますが、一応説明するとアニメ『機動戦士ガンダム』のシリーズ最新作のことです。正式名称は『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』です。
GQuuuuuuXという表記に戸惑った方のために補足しますと、この名称にはqux(クァックス)が用いられています。quxとは変数の識別子の一種で4番目の変数を表します。quuuuuuxはuが5個追加されているので9番目の変数になります。
頭のGはガンダムに関係していると思われますが、名前の意味は現時点では不明です。ジー・クァックスがなまってジークアクスです(知らんけど)。
ジークアクスは2025年に地上波でTVシリーズの放送が予定されており、それに先駆けた劇場先行版を『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』といいます。
一年戦争が好きすぎて
私は結構コアなファーストガンダム(初代の機動戦士ガンダム)のファンです。ただし考察とか妄想とかはしないので所謂オタクではありません。純粋に作品性やストーリー、登場人物やメカニックが好きで、特にTV版が大好きです。レーザーディスクのメモリアルボックスを観るためだけにLDプレイヤーを購入してしまったこともあります。TV版も劇場版3部作もリアルタイムで観ていましたので、ブームになる前からガンダム愛は深かったんですよ。
ですのでファーストのお話は何百回も繰り返し観ました。初見からずっとシャアが大好きでした。他の作品ではオリジンが好きです。とにかく一年戦争前後の話が好きなんです。人間臭いドラマの中に垣間見える部下思いのシャアのカッコよさに憧れたものです。この時代はニュータイプだらけになっていなくて、モビルスーツが空を飛ばないような泥臭い世界ですが、そこに魅力を感じます。
なぜか劇場に行くことに
ジークアクスの情報は公開前からネットでちらほら見ていましたが「またガンダムの新作ができたのか」という程度で最初はあまり気に留めていませんでした。しかしエヴァンゲリオンのTV版もリアルタイムで見ていた私としては、庵野秀明さんが携わっているという点が妙に気になって、日に日に「観てみようかな」という気持が大きくなりました。
そうしているうちに公式による情報解禁がされ、劇中に初代ガンダム(RX-78-02)が登場することや、その変態的なメカデザインが結構ツボを刺激したので、『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』以来42年ぶりに劇場でガンダムを観ることにしました。もともと関心が薄かったこともあって公開直後から興行成績が好調なことやストーリーやキャラクターに関する情報は、この時点では一切知りませんでした。
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©創通・サンライズ
懐かしくて新しいガンダム
劇場の席に座り、公開予定の映画の予告編が数本流れた後、照明が落ちてスクリーンに東宝のロゴが映りました…いよいよ始まります。ガンダム映画で見慣れた松竹ではなかったので少しだけ違和感がありました。
本編が始まるなり、ファーストガンダムで聴きなれたオープニングBGM「長い眠り」とともにコロニー内部の陸地が映し出され、面喰らいます。ナレーションも同じ…カット割りも同じ…何もかも同じ。現代の技術でリファインされた映像と懐かしい音声のミスマッチが脳みそを揺さぶります。
まあ、こうしたリメイクはゲームソフトでも散々繰り返されてきたので「はいはい」って感じでしたが、サブタイトルのSEでお茶吹きました。そんでもって読まへんのかーい!
さらに懐かしい…でもちょっと新しい映像が続きます。これは紛れもなくファーストガンダム第1話「ガンダム大地に立つ!!」のリメイク。ここもカット割りやSEが当時と同じで、ファーストファンにはたまらない展開。サイド7に接近する3機のザクの映像…うーん、やっぱりザクの編隊はかっこいいなぁ…ん?んん??赤いザクおるやん!
「スレンダー、キミはここに残れ」
最初のセリフが…デニムじゃなくてシャアになっとる…そんでお前が行くんかーい!
ファーストファンならお分かりかと思いますが、このシーンは正史ではデニムが部下のジーン&スレンダーとともに3機のザクでサイド7に潜入し、デニムとジーンの2機が内部に降下します。地球連邦軍のV作戦の証拠を捉えたところで、功を焦ったジーンが偵察の命令違反を犯し、連邦軍施設に攻撃をしかけてしまいます。この出来事がきっかけとなってアムロがガンダムに乗り込りこむことになり、ジオン軍の敗戦という結末へ向けて歴史が大きく動いていく…という重要なシーンです。
ジークアクス本編では、デニムがガンダムの存在を確認し破壊しようとしますがシャアがそれを制止し、自らガンダムに搭乗して連邦軍を制圧。V作戦の最重要機密であるペガサス(ホワイトベース)とガンダムの鹵獲に成功するのです。
これにより以下のように歴史が大きく変わることとなりました。
アムロが戦争で活躍することもニュータイプとして覚醒することもない
シャアがホワイトベースを追う必要がなくなり、ガルマは戦死しない
シャアはガルマ戦死の責で左遷されることもなくなり、順調に出世する
鹵獲したガンダムは赤色にペイントされ、シャアの専用機になる
ジオン軍はシャアのニュータイプ能力の研究を進め、赤いガンダムにサイコミュが搭載される
ガンダムの量産化に注力するため、エルメスの開発が中止になる
シャアはララァに出会わず、シャリア・ブルとバディになる
連邦軍のモビルスーツ開発が大幅に遅れ、ジムが存在しない
連邦軍の主力モビルスーツは軽キャノン(ガンキャノンもどき)になる
セイラ(アルテイシア)が連邦軍のエースパイロットとなり、ソロモン攻略戦でドズルを討ち取る
ジオン軍はビグザムの量産に成功し、連邦軍艦隊を殲滅して圧倒的優勢になる
連邦軍は一矢報いるため、シオン軍の要衝であるグラナダへソロモン落としを敢行する
連邦軍はソロモン落としによって宇宙の拠点を全て失う
ジオン軍の勝利が決定的となり一年戦争が終結
ドズル戦死の史実が変わらないのはおそらくユニコーン(機動戦士ガンダムUC)のストーリーと辻褄を合わせるためだと思われます。
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©創通・サンライズ
一年戦争(ジオン独立戦争)の終戦
シャアは連邦軍のソロモン落とし計画を利用してキシリア暗殺を謀るため、計画阻止の手段として自らが発案したソロモン破壊作戦を失敗に終わらせようとします。作戦がタイムリミットを迎えようとしていた時、1機の軽キャノンが現れて交戦が始まりますが、シャアは敵パイロットが生き別れた妹のアルテイシアであることを知覚し、追撃を思いとどまります。その刹那、ガンダムに搭載されたアルファ・サイコミュが爆発的な発光(ゼクノヴァ)を起こしました。
ゼクノヴァによって半壊したソロモンは軌道が大きく逸れ、グラナダは危機を免れましたが、シャアは赤いガンダムとともに行方不明になります。そして宇宙世紀0080年1月3日、地球連邦政府はジオン公国と休戦協定を締結し、一年戦争は終結しました。
ここでようやく【前半】が終わりました。庵野秀明さんによって生み出された、恐ろしく良くできた二次創作ガンダムでした(誉め言葉)。とんでもなく集中して観ていたため、どっと疲れました。
終戦から5年後の世界
そして【後半】になると、前半の重苦しいトーンから一転してスタジオカラーっぽさ全開のスピーディでポップなテイストになりますので、エヴァが好きな人にも結構刺さると思いますよ。まるで別の作品を観ているように感じます。
終戦から5年後、宇宙世紀0085年の世界が舞台です。シャアの身を案じ、消えた赤いガンダムの行方を追い続けていたシャリア・ブルは、サイド6でガンダムの存在を確認します。
ガンダムを追跡するため、シャリアは新鋭パイロットのエグザべに最新のオメガ・サイコミュを搭載したモビルスーツ「ジークアクス」を託し、発進するよう命じます。
遭遇したガンダムとジークアクスはコロニーの損壊を避けるために近距離で挌闘戦を繰り広げますが、エグザベのニュータイプ能力にオメガ・サイコミュが反応せず、ジークアクスは苦戦を強いられます。本来の性能を発揮できないまま操縦系にダメージを受け、思うように動けなくなったところに今度は軍警察のザクがやって来ました。窮地に追い込まれたエグザベは一旦戦闘を諦め、地下の施設にジークアクスを隠します。
マチュとニャアンの出会い
女子高生のアマテ(通称マチュ)は下校の途中、駅の構内で走ってきたニャアンと衝突します。ニャアンは運び屋の少女で、警察に追われていました。このどさくさでマチュのスマホの画面が割れてしまいました。マチュはリュックの中に見慣れないデバイスを発見し、それが非合法の品物であるとわかると追跡装置を逆手にとってニャアンをおびき出すことに成功します。
スマホを弁償して欲しいマチュは、デバイスの届け先までニャアンに着いていくことにしました。届け先は難民地区にあるジャンク屋でした。そこには1機のザクが格納されていました。ザクはモビルスーツ同士で決闘するクランバトル(通称クラバ)に参加するためのものでした。ニャアンが届けた非合法のデバイスは、このザクの武装ロックを解除するために必要だったのです。
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©創通・サンライズ
マチュの覚醒
ちょうどその頃、難民地区ではガンダム、ジークアクス、軍警ザク2機による大捕り物の真っ最中でした。軍警ザクは難民地区なのをいいことに破壊の限りを尽くしており、マチュはその様子を見て怒りを覚えました。
マチュはザクに乗り込み、非合法デバイスを装着して軍警ザクに戦いを挑みますがあえなく地下施設へ落下してしまいます。軍警ザクが後を追って地下に降りてきました。そこには横たわるジークアクスと途方に暮れるエグザベがいました。
ジャンク屋のザクの戦闘力に見切りをつけたマチュは、軍警ザクがエグザベに気を取られている隙にジークアクスに乗り込みます。するとオメガ・サイコミュが発動し、マチュの意思に呼応するようにジークアクスが動き始めました。
初めて目にするキラキラした光の世界に包み込まれたマチュはジークアクスの能力を引き出し、2機の軍警ザクを撃退することに成功しました。
戦いの後、ジークアクスはジャンク屋の格納庫に収容されました。マチュの才能を目の当たりにしたジャンク屋の女性リーダーであるアンキーは、マチュにクラバに参戦するよう呼びかけます。門限が迫っていたマチュは、戸惑いながらもその場で答を出すことなく家に帰るのでした。
さて、ここから先はマチュが謎の少年シュウジとの出会いを経てクラバへ参戦するクライマックスパートへと続いていきます。今後放映されるTV版のストーリーにつながる伏線っぽい演出が盛り盛りですので、ぜひご自身の目でご覧になっていただきたいと思います。
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アニメファンのハブとなりうる記念碑的作品
ジークアクスの前半パートでファーストガンダムのパラレルワールド的なストーリーを描いてみせたことで、多くのファンがファーストガンダムのTV版に関心を寄せるようになりました。
初見の人やうろ覚えだった人たちがジークアクスの鑑賞をきっかけにファーストガンダムをじっくり観る機会を得たことで、45年前のアニメ作品が再び脚光を浴びることとなり、その濃密なストーリーに多くの方が感銘を受けたのではないかと思います。
TV版『機動戦士ガンダム』は当初全52話が放映される予定でしたが「アニメは子どもが見るもの」という風潮だった1979年当時は、子どもには難しすぎる内容だったために不評で、玩具の売上が低迷しました。結果、スポンサーの意向で打ち切りが決まり、全43話に短縮されてしまいました。
ジークアクスでは、ファーストガンダムでお蔵入りになった当初のストーリーや小説版の設定が随所に散りばめられており、コアなファンには仕込まれたネタを見つける楽しさも用意されているのです。
また他のガンダム作品を想起させる要素が隠されているという噂もあり、多くのガンダムファンが注目している作品でもあります。
スタジオカラー作品のファンに対しても後半パートに同様の仕掛けが用意されている可能性があることから、ジークアクスはスタジオや作品の垣根を越えてアニメファンが語り合うことのできるハブ的な作品になっていく可能性を感じました。
すべての世代のガンダムファン、アニメファンにおすすめできる渾身の一作となっていますので、ぜひ1度、2度3度4度、劇場でご覧になってください。いまからTVシリーズの放送開始が楽しみです!