入社数年目で初めて知った?/エージェント契約の話
今エージェント契約が少し話題になっていますねえ。ジャニーズの新事務所はエージェント契約になるとのこと。
ワイドショーなんか観ると、日本ではまだぜんぜん認知されていないと皆さんおっしゃいますね。
いやいや、これ、以前は当たり前のことだったのですよ。
現在、プロダクションとか言われているところでも会社の定款を取るときには、
「芸能家斡旋業」
とかのジャンルで取得していた事が多かったのです(他にもいろいろ書いて登録しているでしょうけど)。あくまで「斡旋」でした。つまりエージェントです。
自分が入社した時、名刺にデカデカと「労働大臣認可」の文字が入っていました。シャレか?と思いましたが、「労働大臣認可」という一文字が信用につながったんですねえ(あちらこちらで笑われましたが)。水戸のご老公的な?
認可を取った事務所は、定期的に労働省に行ってどの業者や芸人とどんな流れで金銭のやり取りがあったのかを提出しなければなりません。
入社して何年目だったのか、自分がその役割を任せられました。
生来数字にまったく弱い自分はもう資料を作るのが大変で大変でどうしようか悩んでいたら、強い山形訛りのデスクの今野さんが、
「そんなのおめぇ適当にやれ」
とのたまう。今野さんは半ば引退状態だったので誠に無責任におっしゃる(今野誠という名前の人でした。ダジャレではない)。
社長! ダメですよね。お役所だからいろいろツッコまれるんじゃないすか?
それにところどころ資料が欠けています。
社長は強い青森訛りで、
「んなもんテキトーでいいから。どうせたいした売り上げ無いし。ちゃんと見るわけねえんじゃない?まかすっからよろすく。」
ん、もう呆れちゃう。この頃は結構売り上げあったのにい。
でもまあしょうがない。
できるだけ資料をまとめて水道橋のハローワークへ出かけた。少し前までは職業安定所だったところ。
「芸能家斡旋業者」は、公的には「民間職業紹介事業者」となるからだ。
んで、若い担当者と対面する。
しばらく資料を読んでいたが、
「これ、うちの管轄にはならないですねえ。」
と言われる。うえ!何でじゃ?
「お金の流れが違うものがほとんどなんです。」
ご丁寧に図を書いて説明してくれた。
簡単にいうと、ギャランティの支払い先がどちらか?という問題。
「仕事の発注先から御社に入金されてますよね。そこから紹介料を引いて仕事をした本人に支払われてます。本来、発注先から直接本人に支払われ、そのあと本人から御社に紹介手数料が支払われる、それが民間職業紹介所のやり方なんです。」
そうなんだあ。
でも、放送局なんか個人に直接ギャラを払うこと嫌がるとこ多いですよ。
「そうなんですよね。最近はほとんどそうなっていて、プロダクションとかからタレントさんに支払われるのが主流です。このやり方なのでもうこちらには来られる必要は無いと思いますが。」
あっさり言われた。
ここ、この名刺に書いてある「労働大臣認可」はどうしたら?
「お外しになった方がいいと思います。」
ガビーン!
クリビツテンギョウ!
こんなこと言われるとは思わなかった。担当の若い役人はいとも簡単に我々芸能社を手放すのか…。
その少し前に「StarDust〜ナベプロ帝国の興亡」という本を読んでいた。(つい最近までアミューズの大里さんが書いたものだと思い込んでいたが、軍司貞則という方が書いていたことがわかった。)
その本の中で、音事協(日本音楽事業者協会)成立の経緯が書いてあったのだが、渡辺プロの渡辺晋社長が、通商産業省大臣の(なる前だったかも)中曽根康弘に働きかけて作ったと。初代の音事協会長も中曽根氏。
つまり音事協会員各社は通産省の管轄で、その他の芸能社は労働省の管轄。
そして省庁間の綱引き、縄張り争いが活発な時期があったとも聞いていた。
それがいともあっさりとな。
会社に戻り早速報告した。
「あら、そうなの。」と社長が強い青森訛りで言う。
「じゃ、名刺変えようっと。」
軽い。
「じゃあ音事協でも入れてもらうか。」
はっきりエージェント契約と決別した日となった! おおげさな。
ちなみにエージェント契約をしたがる個人はいる。今ではほぼ脱税に認定されるやり方。当時はそれが多かったのだ。
いわゆる「ショクナイ」。内職である。
事務所を通さずタレントに直接仕事をふり、支払いはタレントに直接。
んで、後でタレントから斡旋手数料をもらう。領収書なしで。
ショクナイ。
入社時、先輩マネージャーから、
「ショクナイできて一人前だよ。じゃなきゃこんな安い給料で暮らしていけねえぞ!」と強く言われた。芸能界ってそんなところなんだあ……。
エージェント契約かあ……。ショクナイやり易くなるなあって思った。
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