Nick Drake 『Rider on the wheel』
1974年11月25日、イギリスのタンワース・イン・アーデンで抗鬱薬の過剰摂取により死去したニックドレイク。
自殺なのか事故だったのか、未だに明らかになっていない。
母モーリードレイクは最愛の息子の死を最初に目撃し、その後失意の日々を送ったと言われる。
1stアルバム『Five leaves left』からラストアルバム『Pink moon』まで
わずか30曲程度の彼が完成させた珠玉の楽曲以外に、奇跡的に残されたデモテープやアウトテイク…
彼の生涯を家族やミュージシャン仲間たちの証言から浮き上がらせた『ニックドレイク ~悲しみのバイオグラフィー』を参考に
彼の残してくれた未完成ながら美しい楽曲の姿に迫りたい。
Rider on the wheel
未発表曲集『Time of no reply(現在は廃盤)』や『Made to Love Magic』に収録された、ニックの死の数か月前に収録された5曲のうちの一つである。
当時、ニックは悪化していた鬱病により、まともに人と会話することもままならかった。
中でも彼は一日中家に引きこもって、夜中になると突然車を飛ばしていたという。
やりどころのない悲しみやさみしさを忘れるためだったのか
とくに数少ない友人たちの証言によるとニックはスピード狂であったという。
時には友人を乗せ、適当なところで停まると1時間くらいは言葉も発さずにいた。
ニックの車はよく故障をして、夜中に父親を起こし迎えに来てもらうことも頻繁にあった。
あえてガソリンを入れずにガス欠を起こして、友人や父親に迎えに来てもらうなどしており、繊細で内向的と一般的に言われるニックの性格からはあまりイメージが沸かない。
当時の友人も両親を利用しているようなニックの素振りにあまりいい気持ちではなかったという。
それでもニックにとっての深夜のドライブは
現実からの逃避、束の間の安らぎだったのだろう。
ニックドレイクのRider on the wheel
この曲にはニックにとっての安らぎや希望、そして救いが込められているように感じてならない。
歌詞について
この未発表曲で歌われているテーマは
『過去からの脱却と蘇り』であるように思える。
あなたは私を知っている。でも昔とは違う。
新しい歌を書いた。このショーを続けなければならない。
とこれからの人生を前向きに捉えているかのようである。
私はこの曲に込められたニックのメッセージ(勝手な解釈ではある)について掘り下げていきたい。
You Weとは誰だったのか
この楽曲で登場する代名詞はいくつかの解釈ができる。
まずは全編にわたって語り掛けるYouについて。
1人目はニックにとっての最も恋人に近い存在とされていた女性。
Pink Moonの『Which will』『Free ride』『parasite』『Know』などもこの女性にあてて書かれた楽曲と思われるが
死の数か月前に、ニックはこの女性に会おうとコンタクトをとっていたという。
Pink Moonの前述の楽曲では、女性に対して「置いていかないでほしい」という悲痛な囁きが垣間見れる。
『Which will』
Which Will - YouTube Music - Bing video
彼女が選ぶものは自分ではないという事実を
諦めの心情と静かに、どこか優しく囁く美しい楽曲だ。
『Free ride』はこの苦しみからの解放(もちろん音楽的な成功への執着と悪化していく鬱病についても含まれる)への切望。
『parasite』はニックの目線から見た社会に対しての見解と、自身を街の寄生虫であると、客観的な目線で淡々と語りかける。
『Know』は後述するが、ある種の狂気すら含んでいるようにも感じる。
2人目はかつての信頼していたプロデューサーのジョーボイドととることもできる。
ジョーはニックを裏切るつもりはなかったが、自身のキャリアのためにアメリカへ渡った。
『Bryter layter』を一緒に作りあげたときとはもう違うのだ。
そして3人目は(これは完全に私の勝手な解釈であるのだが…)
Youとは自分自身のことを歌っていたように思える。
詞に登場するYouは過去の自分。
Iは現在の自分。
そしてWeは未来の自分を指していると考えることもできる。
の箇所は、まさに過去と現在を抱えて、悩みながらもゆっくりと進んでいく意思のようにも思える。
この曲の最後のフレーズ、the rider on the wheelは途中からForの前置詞が付きFor the rider on the wheelとなるところも
まさに車を運転している自分自身への曲と感じるところの一つだ。
過去の曲、その変化
この曲はPink Moon収録のいくつかのとの類似性があるように思える。
前述の『Which will』『Free ride』『parasite』『Know』は根底に近いテーマ性を持っているかのようであるが、中でも『Know』に焦点を当ててみたい。
酔っぱらったときに思いつきで弾いてみたような(失礼)単純なフレーズが淡々と続く中で
わずか4行の詞をニックは満身創痍の状態で「吐きこぼしている」ようだ。
暗闇から虚ろな目でニックが見つめているような、そんな印象を与える曲である。
絶望の中でもがいて、誰かに自分の存在を知っていてほしい、何かと繋ぎ止められていてほしい。
という切実ながらも半分正気を失っているかのような、ある種恐怖を覚えるような楽曲である。
「Pink Moon」が発表されたのは1972年2月
『Rider on the wheel』が録音されたのは1974年の2月である。
2年間の間、ニックはミュージシャンとして歩む道からほとんど外れかけていた。
その中でレコーディングされたこの曲は、かつての悲しみや孤独を内包するような楽曲と比べて清々しさとやさしさすら感じる。
Youに対して語りかける楽曲ではあるのだが、その立ち位置は違う。
過去と決別して新しい場所へ行こうとしているかのようである。
新しい曲、新しい目的地に向けて車を走らせるように
ニックもまた光を、朝を見つけて歩き出そうとしていたのではないだろうか。そんな前向きな変化がこの2年のブランクを経たこの曲には感じられてならない。
その後のニックの辿る最後を知っている身からすると
いたたまれない気持ちになるのだが…
この曲はいつ作られたのか
この楽曲は1974年の2月に録音されたという。
しかし、いつ作られたのか?
2nd『Bryter layter』のブックレットの最後のページに
使われなかった(?)テープの写真が載せられており
そこに薄く書かれた上に大きく×が書かれている箇所がある。
これが仮に『Bryter layter』のレコーディングでボツとなった曲のことであれば、既に1971年には原型はあったと思われる。
そのセッションでの音源は恐らく破棄されているのではと思うが…
音楽的な話について
大多数のニックの楽曲の例にもれず、この曲もオープンチューニングで演奏されている。
チューニングはGGDGBDのオープンGと思われる。
6弦はかなりローなチューニングであり、本来はDにチューンするのだが
実際にやってみるとわかるが野太い不明瞭な低音を出すことができ
この音があるのとないのでは全然雰囲気が変わるのである。
(そういえばストーンズのキースリチャーズはこのチューニングにして6弦を外していたっけな…わりとロックの曲では余計な音になりそうだし…)
ほかにこのチューニングで録音された曲は
『Black eyed dog』
『Tow the line』の2曲である。
最後まで彼の音楽への探求心は潰えていなかった。
最後に
ニックドレイクの未発表曲を自分なりに深堀りして紹介していきたいと始めたが、ブログも始めたばかりで拙いものになってしまった…
ギター弾きではあるが、音楽的な知識は皆無に等しいので
本当は楽曲面の考察もしてみたいのだが…
奇しくもニックに出会ったのは私が26歳の時。
それからずっとニックドレイクは私にとっての特別なミュージシャンだった。
傍にいて傍にいない、永遠に会うことは叶わない。
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