父の一言

私はシステムエンジニアをしている。厳密に言うとSEではなく、「組み込み」と呼ばれる分野で、一般の人が直接触ったり見たりすることの少ない装置の制御プログラムを作っている。なので説明が面倒で、SEですと言っておけば通りがいいので便宜上そう言っている。じゃあシステムエンジニアって何する人?といえばこれもまた漠然とした概念なんだけど(日本にしかないと言われてる)、なぜかみんな納得してくれるのでまあ、いいか。

たまに一般消費者向けのものに携わることもあって、カメラ付きケータイが世に出始めた頃は携帯電話の開発をやっていた。工場に出張し、ホテルに戻る終電がなくなるギリギリまで働き、宿に荷物を置いた後、上司や同僚たちと夕食と称し居酒屋に集まり焼酎ボトルを一本空けるという、めちゃくちゃなプロジェクトだったけど、それまで自分が作ったものを実際手に取るということが無かっただけに、発売後、家電量販店を廻って展示されている端末を見に行ってはにんまりし、母には「これ私が作ったのだから」と薦め、その後塗装が剥がれるまで何年も使ってくれていたのはとてもうれしかった。

この職を選んだ理由。

子供の頃は生き物関係の仕事がしたかった。獣医か、鳥類の研究か、漠然とそんなことを考えていた。高校一年のとき、大きな壁にぶち当たる。理系に進むには「数学Ⅰ」の成績が悪すぎた。赤点も取った。元々「計算」がとにかく苦手なのだ。こりゃついていけないわと仕方なく文系コースに進んだ。後悔した。2年次以降の基礎解析・微積・確率統計の成績は悪くなかった。まあ目標も漠然レベルだったし、次に興味のある言語学か地理学でもやるかと文学部へ。だらだらとキャンパスライフを3年間送り、いざ就職活動。とりあえず都市計画に携われるといいかなと公務員試験を受けてみたりもしたが無勉強のため箸にも棒にもかからない。世は空前の就職氷河期、採用なんかあるわけない。ただ一つの職種を除いては。

まあ今年は留年して、就職先が見つかったら卒業すればいいか、と異常なほどのんびり構えていた、そんなある日、なぜそうなったか覚えていないけれど父と二人でとある商業施設の近くをドライブしていると、父がぽつりとこう言った。

「ここの材料、うちの会社が納めたんだ。お父さん、営業じゃなくて、こんな風にかたちに残る仕事がしたかったな、大工とか…」

ものづくり。

いいな。

何の技術もないけど、なんかできることないかな…

もう就活も佳境と言っていいくらいの時期になっていたけど、初めて「合同会社説明会」に足を運んでみた。

ある会社のブースを覗くと、にこやかなお姉さんが応対してくれた。「技術は入社してから身に着ければいいです。ほとんどの人が未経験ですよ。」

これしかない。
システムエンジニア。
2000年問題などもあり、唯一活発に採用していた職種。
プログラミングは未経験だけどパソコンいじりは嫌いじゃない。むしろ得意な方。

お願いします!

その会社の採用試験を受けた。

一発採用。(あんなgdgdな面接でよく通ったな…)

今に至る。

「地図に残る仕事」ではないし、ソフトウェアそのものはかたちがあるわけではないけれど、下手なはんだ付けをして基盤を焦がしてみたり、回るファンや点滅するLEDなんかを眺めたりしていると、ものづくりに関われて、よかったなと思う。

クソなことも多いけどね。

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