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精神を病む妹と、その家族ー1ー

 4月に入ったというのに夜はまだまだ肌寒く、毛布に包まりながらの寝るまでの恒例、心霊YouTube視聴タイム。最近ハマっている三茶の心霊物件関連の動画を恐怖におののきながら視聴していると、画面の上部に「お姉ちゃん、元気? いろいろ困ってる」というLINE メッセージが。幽霊以上に戦慄を覚え、妹にすぐさま電話した。

 妹に最後に会ったのは約2カ月前。ここ何度か転職を繰り返していたが長く勤めていた職場に戻れることになり、身元保証人書類の記入を求めて家にやってきたときだ。お願いするという感じではなく、当たり前のように保証人欄を指差し署名を急かす態度に少し呆れたが、特段変わった様子もなく、私は安堵して言った。
「よかったじゃん、戻れて。でもなんで?」
「Bは職場が遠すぎて。Aの上司に相談したら戻ってきたら? と言ってくれたから」
 妹の言葉に、なに、その恵まれっぷりはーーと思うその職業は看護師。このご時世でも辞めてもすぐに正社員の仕事が見つかるという、私のような売れない文筆家からすると羨望の職業だ。
 精神科専門のA病院は人間関係に悩んで辞めたようだが、10年近く働き、在職中に国家資格も取得した。職場の協力もあっただろう。資格を得たことですぐに次もあると図に乗っていたのだろうが、Aを辞めてからの精神科の職探しは難航した。そして、Bに決まるまで、発達障害児支援や訪問看護の事業所などを転々とした。
「なんか仕事が覚えられないんだよねーー」
 身元保証書を持ってくるたびに、妹はぽつりと言った。
「そりゃ中年だし、看護師といっても相手にする人が変わるから、仕事内容が全然違うでしょう。すぐに覚えられるわけないじゃん」
 励ます私に、妹は伏し目がちだった。実はいつからか、妹は精神を病んでいた。たまに薬を飲んでいることは聞いていたが、常用することなく、なんとか踏ん張って自分を保っているようだった。この頃は慣れない仕事で疲れ果ててしまったのか、目を合わせまいとする妹の精神状態を案じた。

 その後ーー。苦労して入ったB、復帰したAともに慣れた精神科での勤務にもかかわらず、それぞれ1カ月ほどで辞めてしまった。そして、LINEのメッセージが来た今日、妹がまた別の病院で働いていることを知った。保証人不要の職場だから、私に連絡してこなかったのだ。
「どうした?」
「あー、お姉ちゃん、A辞めちゃった。今、新しい病院なんだけど、どうしようーー」
 私の呼びかけに、妹は力なくつぶやいた。

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