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娘が生まれてからというもの、母になった私はお雛様のことを考えるだけで、年が明けぬうちから気がそぞろになってしまう。

かわいくて、小さな小さなわが家のお雛様。

夫もお雛様に会うのが待ちきれないようで、正月も明けきらぬうちに収納棚の上の方から大きな重たい段ボールをよっこらせと取り出してくる、それが毎年の恒例です。

娘が寝静まった後のリビングで、几帳面に包まれた数センチメートルの大きさの餅や、とっくりや、油灯たちを優しく取り出していく。

なんだか密やかな儀式みたいで可笑しくなってきちゃう一方で、胸がぽわっと温かくなるひとときです。

40センチメートルにも満たない小型で横長の座代に、親王台、桃の花と、震える指先で丁重に設置していき、いよいよお楽しみのお雛様とお内裏様をお通しします。

二人の入っている箱を開けると、「また会えましたね」なんて気持ちになる。

あぁ、この優しいお顔にひとめぼれして、この2人をうちにお迎えすることに決めたんだよな。
小さくて、ひかえめで、優しいお顔のお雛様。
おっとりした目元が、どことなく娘によく似た小さなお姫様。

「もっと大きくて立派なのを買えばよかったのに~」って言う人もいたけれど、この奥ゆかしい雰囲気の二人が、私はどうしても気に入ってしまったのです。

ひとしきりの設置が終わると、「リビングの電気、消そうか」「うん、消そうか」などと言い合う。

リビングの照明を消した代わりに、お雛様とお内裏様のとなりに置いた小さな小さな油灯のプラスチックでできた丸いスイッチをオンにしてみる。

あ、灯り、ついたね。

やっぱりこの子たちにしてよかったね。

うん、かわいいね。

などとポツポツ言い合う我々。

眺めながら、いつだって私は初節句の年のことを思い出す。
娘の祖父母みんなを招き、このお雛様を囲んで娘の成長を願ったこと。
めでたいめでたいと喜び合う大人たちの中で、当の本人だけが顔を真っ赤にして泣いている写真。
それでも、毎晩のように「ん、ん」と指さしながらお雛様を見せてとせがんできたこと。

となりで同じくお雛様を眺めている夫も、おそらく同じことを回想しているに違いない。

今年2才になっても、娘は夜おふとんに連れて行く前に必ずお雛様を見たがる。もう、「ん、ん」とは言わない。「おひなさま、みる」と、何か重要な決意を表明するように、自分の意思をはっきりとあらわすようになった。

あぁ。あと何年一緒にお雛様を見られるかな。

のどの奥がきゅっとするのを堪える。

これからも毎年、おふとんに入る前には一緒にお雛様見ようね。
できれば、頑張ってだっこするからね。

来年になったら、お雛様のまゆげがパパに似ているねとか、言うのかな。
そうしたら私は、パパに似てるってことは、キミに似ているってことだよって、言ってやろう。
それを聞いて、娘はまだ喜ぶかな。それともちょっと照れくさそうにいやがるかな。

大好きなお雛様、これからもわが家の歩みを温かく見守っていてくださいな。


おひなさまと、娘が生まれた年の桃の花


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