雅び
数年前、想いを寄せていた人がいた。
彼は京都生まれ京都育ち。
自分でビジネスをして逞しく生きている人だった。
彼に会いたくて東京から京都に2回行った。
最初は清水寺を案内してくれた。
2回目は10円玉で有名な平等院鳳凰堂。
源氏物語を連想した。
彼の実家に立ち寄って夕食を頂いた。
ピアノが置いてあって、何か弾いて、と言われた。
モーツァルトのトルコ行進曲を弾いたら、僕はこれが好きなんだ、とリチャードクレイダーマンの「渚のアデリーヌ」の楽譜を取り出した。
弾いたことがなかったから、初見でなんとなく弾いた。
それなりに、楽しんでくれたらいいな。
彼はバイクを運転する人だった。
彼のバイクに乗って京都の街を疾走した。
バランスを崩したフリをして、ちょっとだけ彼の肩に寄りかかった。
俺は彼にとって、ただの友達だったと思う。
勇気を出して想いを伝えたが案の定、ダメだった。
しばらくは、失恋後遺症でしょっちゅう、泣いていた。
それでも、振り返ってみると、全く後悔していない。
強いていえば、渚のアデリーヌをレパートリーとして入れておけばよかった。
そして、彼の上半身に思いっきり寄りかかってみればよかった。