奥寺大輔(パク)

1992年韓国ソウル生まれ。 法律事務所の事務員。 音楽(クラシック、ジャズ)、文学、…

奥寺大輔(パク)

1992年韓国ソウル生まれ。 法律事務所の事務員。 音楽(クラシック、ジャズ)、文学、映画を探究していきたいです。

最近の記事

恩師

久々に中学校時代の恩師とお話しした。 音楽の先生で、色々とお世話になった。 大変なことも多かったけど、自分なりに色々なことに挑戦して、そういったことを見ていただいていたのかな。 社会人になって、これといった結果が残せず、劣等感の塊みたいな人生を送ってきた。 そんな中で、自分の子どもの頃を知る人と話すことは、心の中に安全基地ができた気がしてほっとした。 恩師に言っていただいた言葉。 「あんたは幸せ者だったよね。人にはできない経験をしたんだから、それがきっと音楽作りに

    • 愛情

      日本語はなんと素敵な言語だろうと思う。 あいうえお 愛からその学習が始まるからだ。 自分が愛するもの それは音楽だったり 文学だったり 友達と過ごす時間だったり 好きな人にLINEを送る時間だったり これもまた色んな人によって色んな愛があるけれど 愛とは何か? 言葉によってはっきり定義するのは難しい だけど自分の中では、明確に定義を決めている 「その対象を唯一無二の存在として愛おしく思い、特別な存在として尊重する気持ち」 俺は、これを愛と呼びたい。

      • 音楽

        音楽との出会いは母が運営していたピアノ教室だった。 母子家庭で母との2人暮らし。 家に1人でいても寂しいから、学校が終わるとすぐ母のピアノ教室に寄って、母と一緒に帰宅する毎日だった。 無理して友達を作らなくてもよかった。 ピアノを弾きたいというより教室に通ってくれているみんなと会うのが楽しみだった。ピアノを弾くのはおまけだった。 転機が訪れたのは10歳の頃。 母が日本人と再婚をすることになって突然、日本での暮らしがスタート。 ひらがなとカタカナの読み方だけは知っ

        • 雅び

          数年前、想いを寄せていた人がいた。 彼は京都生まれ京都育ち。 自分でビジネスをして逞しく生きている人だった。 彼に会いたくて東京から京都に2回行った。 最初は清水寺を案内してくれた。 2回目は10円玉で有名な平等院鳳凰堂。 源氏物語を連想した。 彼の実家に立ち寄って夕食を頂いた。 ピアノが置いてあって、何か弾いて、と言われた。 モーツァルトのトルコ行進曲を弾いたら、僕はこれが好きなんだ、とリチャードクレイダーマンの「渚のアデリーヌ」の楽譜を取り出した。 弾

          究極の文武両道

          今朝のテレビを何気なく見ていた。 裸の男性が編み物を編んでいる。 なぜか物凄く気になった。 彼の名前は、トムデイリー。 飛び込み選手だ。 東京オリンピックで観戦しながら編み物をしている映像が話題になった。 なんと、彼は金メダリスト。 アスリートが編み物!?!? なんというギャップだ。 ぜひ、彼のことを知りたいと思い、編み物展に行ってきた。 可愛らしい作品の数々。 プールをイメージした空間が最高。 彼の人柄を伺い知れる空間だった。 おまけに同性パートナ

          究極の文武両道

          言語

          韓国に生まれた俺は、10歳から日本に住んでいる。 最初、日本語はひらがなと、カタカナが読めるくらいで何も分からなかった。 日本に移住したばかりの頃はきつかった。 言葉がわからないから学校の授業がわからない。 おまけにぽっちゃり体型のせいもあって、引っ込み思案になっていた。 このままでは色々まずい。 日本人に負けたくないと思って様々なことを積極的にチャレンジした。 児童会長、生徒会長 吹奏楽部の部長 弁論大会の出場 次第に前向きな性格になっていった。 よく

          闘球

          腰に激痛が走ったのはラインアウトの練習中だった。 大学生の頃。 中高生の頃は吹奏楽部であったのにも関わらず、大胆にも俺は大学時代にラグビーを始めた。 オーケストラ部も一瞬考えた。 それくらい、クラシック音楽を愛しているのだ。 だが、大学の新歓でフランクフルトを振る舞うラグビー部に惹かれ、そのまま入部した。 決してフランクフルト目当てではない。 運動に慣れていない俺は練習について行くのに精一杯だ。 レギュラーなんてもってのほか。 ずっと補欠だった。 それでも練

          回想

          20代でついた差は一生取り返せない。 メディアでよく聞く言葉だ。 俺は32歳で、20代を終えて間もない。 特にこれといったキャリアを築いてこなかった。 (20代半ばの時はニートで実家に引きこもっていたときもある) 人に誇れる学歴があるわけでもない。 イケメンってわけでもない。 英語が話せるわけでもない。 (韓国語は分かるけど) 貯金もない。 恋人もいない。 わりと絶望的な状況。 何を武器にこの先、闘っていけばいいのか。 困ったものだ。 とはいえ、自

          空白

          時には兄のようだった。 時には父のようだった。 韓国に住む叔父の訃報を知った。 何の前触れもなく、あまりにも突然のことだった。 叔父は父親がいなかった俺のことを息子のように可愛がってくれた。 叔父には子供がいなかったから余計、そうだったのかもしれない。 最期のやり取りは俺の誕生日にくれたLINE。 訃報を聞いてすぐさま俺は叔父にLINEを送った。 当然、既読はつかない。 喪失感とはこういうことか。 人の人生は、短くて儚いんだ。 それでも、誰かがいなくなる

          【本のはなし(2)】「障がい者と健常者を隔てるものとは?〜小説・ハンチバック(市川沙央)」

          正直に書くと、芥川賞受賞作には面白いと思えない作品もある。(あくまでも個人的な見解だが) 純文学は癖が強い小説が多く、自分に合わないものってどうしても読み進められない。 しかし、本作は違う。 村田沙耶香さんの「コンビニ人間」以来の衝撃だった。 大変面白く読んだのだ。 何がどう面白かったのだろう? 5つの要素に分けて書くと、 ①読者を惹きつけるタイトル ②どうしてもこの小説を書かなければいけなかった、切実さが伝わる ③作者の教養の深さを感じられる ④クスッと笑ってしまうユ

          【本のはなし(2)】「障がい者と健常者を隔てるものとは?〜小説・ハンチバック(市川沙央)」

          【映画のはなし(2)】愛と暴力は、表裏一体。〜「ブエノスアイレス」(ウォンカーウァイ監督作品)

          同性愛を扱った映画は数多くあれど、この作品ほど不器用で、残酷な愛の形を描いている映画はないのではないか。 ウィンとファイは、お互いの関係を「やり直す」ために、南米旅行へ出かける。イグアスの滝を目指す途中、意見の食い違いから、喧嘩別れしてしまう。 個人的なことを語ろうと思えば、必然的に性的なことを語らざるを得ない。 この作品では、いきなりウィンとファイの濡場シーンから始まり、観る方としては少し怖気付いてしまう。 それは愛を語っているというよりは、暴力を語っているように見えた

          【映画のはなし(2)】愛と暴力は、表裏一体。〜「ブエノスアイレス」(ウォンカーウァイ監督作品)

          【本のはなし(1)】甘い匂いに誘われたあたしはカブトムシ〜「変身」(フランツカフカ)

          aikoの名曲、「カブトムシ」を初めて聴いたのは確か、桑田佳祐のカバーだった気がする。 一人紅白歌合戦。 桑田佳祐1人で往年の名曲から最近の新曲まで情感豊かに歌い上げる。 「カブトムシ」を歌う桑田佳祐は大変なハマり役で、甘酸っぱく切ない恋心をしゃがれた声で歌う姿に虜になってしまった。 桑田佳祐からaikoへの逆輸入である。 ところが、カフカの描いたムシの世界はそう甘くはない。 販売員をしている主人公のザムザがある朝起きたら、突然醜い虫になっている。ベッドの上で身動きが取れ

          【本のはなし(1)】甘い匂いに誘われたあたしはカブトムシ〜「変身」(フランツカフカ)

          【映画のはなし(1)】強い思い込みが歪んだ現実を作る〜「怪物」(是枝裕和監督作品)

          是枝さんが自分で脚本を書かない。 驚きだった。 多くの映画ファンがそうであるように、僕もまた是枝映画のファンだ。デビュー作以外、監督、脚本、編集をすべて手掛けてきた是枝さん。脚本を書かないのは珍しい。異色の映画になるだろう、そう思った。 早速、観に行った。 本当は公開初日に観に行きたかったけれどその日は仕事が長引いて公開から2日経っての鑑賞だった。 テンポよくストーリーが進んでいく。 会話で生じる、数々の違和感を提示し、その違和感は互いに対する無理解の連鎖を生む。 それが

          【映画のはなし(1)】強い思い込みが歪んだ現実を作る〜「怪物」(是枝裕和監督作品)

          短編小説・「光の広場」

          一  心が躍り出すほどの快晴だった。毎週日曜日になると秋葉原では歩行者天国ができる。この日もそうだった。神田明神通りと中央通りの交差する場所は特に通行人が多かった。そこを目がけて十二時二十分ごろ、二トントラックが物凄いスピードでベルサール秋葉原を左手に走ってきて数人を轢いた。二トントラックは後退して方向を変えた後、秋葉原駅の方に向かって走っていった。その時向かってきたタクシーと正面衝突し停止した。交通事故だ。誰もがそう思った。群衆の不安がピークに達するのは皮肉にもその後、狂っ

          短編小説・「光の広場」