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映画「うちげでいきたい」方言監修・山﨑美月さんインタビュー〜前編〜

在宅看取りをテーマに鳥取県大山町で製作された映画「うちげでいきたい」の方言監修を担当された、生まれも育ちも大山町の山﨑美月さん。大学では言語学や映画について学び、実際に仲間たちと映画を製作した経験も持つ山﨑さんに、大山町の言葉についてお話を伺った。

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言語学や映画を学んだ大学時代

中山:今回「うちげでいきたい」の映画製作に参加することになったきっかけとは?

山﨑大山チャンネルの貝本さんや助監督の森田さんに声をかけてもらいました。大学時代に映画を撮ったりしていたので、楽しそうだなと思って「やりたいです!」って言いました。

大山町で生まれ育って、大学は島根大学の法文学部言語文化学科に進みました。二年次で文学系か芸術系に分かれる時に、芸術系だったら映画を論じるために自分で映画を撮ることもあると言われて、楽しそうだなと思って選びました。高校・大学と演劇部で、芸術文化には、もともと興味があったんです。

大学を卒業した時から、地元の大山町で文化系の活動がしたいと思っていたので、大山チャンネルで町民ナレーターをやっていました。

脚本のニュアンスはそのままに、大山町の言葉に変換する

中山:大山町の言葉への方言脚色をやってみてどうでしたか?

山﨑:言語と文化ってすごく密接な関わりがあって、水のことを英語ではwaterとしか言わないけど、日本語では、おひや・温水・熱湯とか色々な言い方をするんですよね。そういうニュアンスの違いみたいなものを、脚本はそのままに言葉だけをどう変えていくかっていうのが、すごく難しかったですね。

変換していく時は、なるべく方言を出そうと思って、自分の生活の中でどういう言葉を聞くかなっていうのを意識しました。私もおばあちゃんと生活しているわけじゃないので、主人公の民代の言葉は知っている方言を入れる感じになっていました。私は今24歳なのですが、方言監修に関しては自分と年齢が近い、孫の莉奈の言葉が一番やりやすかったですね。

中山:大山町の言葉の特徴はありますか?

山﨑:動詞の最後がウ音便になって伸びる傾向があります。「帰るよ」を「かえーで」と言ったり、「する」を「すー」とか言ったりします。あと、「しておられる」っていうのが、「しとンなる」と撥音便になったり、「しとウなる」とウ音便になったりします。

中山:語尾をただ変えるだけじゃなくて、単語自体が変わるということに驚きました。

山﨑「演技」を「芝居」に、「俳優」を「役者」に変換したところは、ここまで変えていいのかな?って、自分でも挑戦的な部分もありました。でもやっぱり、「大山町ではこちらの言葉の方が使うんじゃないかな」と思ったので、思い切って提案しました。単語レベルで変わったのはこの2つくらいで、他はなるべくそのままにしています。あげ・そげ・こげ・どげは変えましたけど。

中山:読み合わせの時に役者さんに読んでもらって、ここの部分はどうしようか?と迷った部分は、脚本の菅原直樹さん孫監督と話し合いながら決めていましたよね。そういう丁寧な手順を踏んで、一言一句つくっていくんだと感動しました。

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方言監修も翻訳のひとつ

山﨑:やってみて思ったのは、「方言監修も翻訳のひとつなんだ」ってことです。英語から日本語に変換する翻訳と変わらないなって。意訳というか。英語から日本語だと、使っている音自体が全く違うから、文化が変わることにも抵抗が少ないと思うんですけど、方言になるとどっちも日本語になるから、そこで文化だけ変えるっていうのは難しいなと感じました。

中山:キャストに松江(島根)の方がおられましたが、島根と鳥取で近いからこそ難しかった部分もありますか?

山﨑:そうですね。方言に関する言語学も大学の時に学んだのですが、そこで、大山町から隠岐島も含めて松江辺りまでは全部「雲伯地方」っていう一つの文化圏だったと教わりました。だから松江の人だったら大丈夫かなとちょっと油断していたんですけど、今回、松江の言葉には結構出雲弁が混ざっているなと感じました。昔は雲伯地方でまとまっていたり、鳥取県と島根県が一緒だった時期もあるので境界がなかった。でも、鳥取県と島根県の県境が引かれたことによって、安来や松江の人に出雲と同じ文化圏だという意識が芽生えて、文化が出雲に寄りつつあるのかな?という気がしました。これは、私の主観ですが。

中山:おもしろいですね。

山﨑:鳥取の言葉は濁音が多いんですよね。「だがん」とか。大山町から山の辺りだと、「じゃけん」とか岡山の北部から広島に近いものがあって、「じゃ」を「だ」に変えただけってよく言うんですけど。「しちょうかや?」の「ちょう」とか、濁音じゃない破擦音(「ch」の音は、破裂音「t」と摩擦音「∫」の組み合わせで「破擦音」と言われる)になってくると、島根っぽいなと思いますね。

手がかりのない方言の言葉を解釈する

中山:関東出身で岡山在住の、珠美役の申瑞季さんは、今回大山町の台詞に奮闘しておられました。例えば珠美が母の民代に言う「あの人の世話、誰がするだ?」っていう台詞も、「誰がするだー?」と語尾を伸ばすと、ゆったりした感じになるけど、「誰がするだ!?」と強い語気でバサッと言い切ると、全然違うイメージになる。書いてある言葉から感じる音と、実際の言葉にした音との違いも面白いなと感じました。

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山﨑:そうですね。演劇をやっていても、言葉から受ける印象と実際に演出家がつける演出プランが全然違う時があるんです。でもそれは標準語だし、これまで生きてきた中で「こういう言い方もあるな」っていう手がかりがあるから、結構納得できるんですよね。だから、すぐに解釈を変えることができる。でも方言の場合はそれがないので、ニュアンスを解釈するのに苦労されたんじゃないかなと思いますね。

方言の早口言葉ってあるじゃないですか。鳥取だったら「わーがわーのことわーっていっちょうだけん、わーもわーのことわーっていっちょうだがん」っていうのがあるんですよ。何言ってるかわかんないですよね。そういうのが、各地にあって。

中山:山﨑さんは言葉が好きなのですね。

山﨑:文字自体もだし、一音を一文字に当てはめるってところとか面白いですよね。外国語とかやっていて、バ行とか、ジャ行とか破裂音とかが強烈に入っていたりすると、意味はわからないけど「これネガティブイメージの言葉っぽいな」って伝わってくる時とかありません?文化もこれまでの歴史とか場所も全然違うのに、人間ってそういう音感覚が共通しているんだなって思うときに、面白いなと思います。

文化による区分の違いもありますよね。月のことも、英語だとmoonですけど、日本では三日月とか十六夜月(いざよいづき)とか朧月(おぼろづき)とか色々言い方があって。細分化しているってことは、文化的に意味のあるものだとして扱われていると思うと面白いです。

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後編では、さらにご自身にクローズアップし、山﨑さんが小学生の頃、大山町の自宅で介護されていた曽祖母と過ごした思い出や、山﨑さんが今後地元大山町で実現したい想いについて語っていただいた。

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山﨑 美月
「なければ創ればいい」がモットーの役者。大山地区出身。米子東高校卒(演劇部・放送部)。俳優を志し上京しようとするも周囲の反対を受け島根大学法文学部言語文化学科に進学。在学中、大正大学に国内留学し東京で小劇場のお芝居を観劇。演劇は大山町でもできると考え、卒業後は就職せずに大山町での演劇活動を目指す。大山チャンネルテレビ部町民ナレーター、塾講師(morita friend school)、コンビニ店員として活動中のところ、本映画の撮影協力の声がかかる。現在は、感染症流行の影響で演劇公演は難しいため、東京にて自己研鑽中。好物は猫と眼鏡とチョコミント。
インタビュアー:中山 早織
元書店員の助産師・コミュニティナース。2014年に東京より鳥取へ移住。現在は大山町で地域活動や聞き書きを行う。大山100年LIFEプロジェクトメンバー。映画では小道具・衣装を担当。

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