新千夜一夜物語 第62話:将棋とチェスの名人に共通する魂の属性
青年は思議していた。
オリンピック以上のプロのスポーツ・芸能・芸術を生業にできる人物は、魂の属性が“2−3−5−5…2”に限られるというルールがあるなら、将棋やチェスといった、盤上での競技におけるプロの棋士にも、何らかの霊的な共通点があるだろうか。
独りで考えても埒が明かないと思い、青年は陰陽師の元を尋ねるのだった。
『先生、こんばんは。本日は将棋の棋士たちの魂の属性について教えていただきたいと思い、お邪魔いたしました』
「あいわかった。そなたが気になった棋士の名前を教えてもらえるかの」
『まずは、最年少記録や歴代一位の記録を持つ、藤井聡太と羽生善治についてお願いいたします』
そう言い、青年は二人の略歴を口頭で伝える。
「どれ、みてみよう。少し待ちなさい」
そう言い、陰陽師は、紙に鑑定結果を書き連ねていく。
陰陽師が書いた二枚の属性表を見比べ、青年は口を開く。
『やはりと言いますか、二人の属性表の数字は共通点が多いですね。特に、この二人の転生回数が290回代ということで、以前、“9”という数字には例外/矛盾という意味を持ち、“世の変革者”、収束、まとめるなどの役割を持つ傾向があるとお聞きしました』
そう言い、青年は紙にペンを走らせる。
陰陽師が無言でうなずくのを見、青年は言葉を続ける。
『将棋では古くから脈々と定石が受け継がれており、日進月歩、多くの棋士たちが最善の一手を研究しています。そうした棋譜を収束してまとめた結果として、真剣勝負の最中に相手の考えを看破し、好手や妙手を閃くという意味では、転生回数の290回代は文系の中での“大々山”と考えれば納得できます』
「そのように考えることもできるじゃろうが、何事も例外があることと、あくまで現時点での検証の結果であるため、今後の検証によっては解釈が変わる可能性があることを覚えておくように」
陰陽師の言葉に対し、青年は真剣な表情で大きくうなずく。
「その前提を踏まえた上で補足しておくと、転生回数の200回を境に文系と理系に分かれ、転生回数が200回以下と若い第三期と第四期の魂は理系の傾向が、200回を超える第一期と第二期の魂は文系の傾向があることは、以前にも説明した通りじゃ」
そう言い、陰陽師は紙に解説を書いていく。
手を止めた陰陽師が言葉を続ける。
「して、棋士にもピンからキリまでいると思うが、今度はさきほどの二人のような名人級以外で、他に気になる棋士はいるかの?」
陰陽師にそう問われた青年は、スマートフォンを手早く操作し、口を開く。
『棋士であると同時に投資家としても知られている桐谷広人と、将棋ソフト不正使用疑惑騒動を起こした、三浦弘行はいかがでしょうか』
そう言い、青年は二人の略歴を口頭で伝える。
陰陽師は小さくうなずき、無言で紙にペンを走らせる。
合計4人分の属性表を見比べた青年は、何度もうなずいてから口を開く。
『このお二人は、転生回数が第二期で十の位が“4”の“小山”の時期に相当する魂3:武士ですので、先ほどの二人との大きな違いは、転生回数にありそうですね』
「どうやらそのようじゃな」
青年は三浦弘行の属性表の一部に視線を向け、再び口を開く。
『それにしても、実際の真偽はさておき、不正疑惑騒動が起きてしまった要因の一つに、三浦弘行の人運の“6”という低さが関係している可能性は考えられるのでしょうか』
そう言い、青年は“6”が持つ傾向について、紙に書き出していく。
「一つの出来事には様々は要因が複雑に絡み合って生じていることから、その一点のみで判断することはできぬが、その可能性も否定できないじゃろうな」
陰陽師の言葉に対し、青年はうなずいた後、口を開く。
『最後に、“二歩の人”として有名な橋本崇載を鑑定していただけますでしょうか』
「よかろう。少し待ちなさい」
そう言い、陰陽師は鑑定結果を書き足していく。
新たな属性表を眺めた青年は、首をかしげながら口を開く。
『彼も転生回数が290回代ですので、藤井聡太や羽生善治のような名人になれる素質はあったように思われますが、彼の転生回数の一の位の数字が“1”である一方、名人と呼ばれる二人の転生回数の一の位は“4”ですので、この違いも関係していると考えられるのでしょうか』
「人間は多面体であるため、転生回数に限らず、属性表の一部のみを見て判断してはならぬが、少なくとも、転生回数に限って言えば、そのように考えることもできるじゃろうな。して、橋本崇載の戦績や略歴はいかほどなのじゃ?」
青年は再びスマートフォンを操作し、口を開く。
「なるほど」
青年は再び属性表を眺めた後、口を開く。
『彼には、血脈先祖の霊障と天命運に“2:仕事”の相がかかっていますが、彼の戦績が転生回数に見合わない要因の一部になっていると考えられるのでしょうか?』
そう言い、青年は“霊障”について、紙に書き足していく。
陰陽師は小さくうなずいた後、口を開く。
「少なからず、“2:仕事”の相は関係している可能性が考えられよう」
青年は視線を落として小さくため息をつき、口を開く。
『“唯物論者”である彼には霊脈先祖の霊障がかかっていないことから、棋士の道に進むことは、今世の彼の課題から大きく外れているとは限らないものの、棋士という狭き門をクリアできたのに実力を発揮できないのは、個人的に残念に感じます』
「ちなみに、今の彼はどうしておるのじゃ?」
『ウェブ上の情報を見る限り、今は棋士を引退し、YouTuberになっているようです』
「なるほど」
『彼には霊障がかかったままですので、YouTuberに転身しても、本来の実力が発揮されないかもしれません。そう考えますと、彼と何かしらのご縁があって、神事を申し込んでいただき、霊障を解消して活躍していただきたいと願わずにはいられません』
「その機会があればいいがのお」
陰陽師の言葉に対し、青年は首肯した後、口を開く。
『以上で僕が気になる棋士は終わりですが、属性表における棋士の共通点は、いくつかあるようですね』
五人の属性表を見比べた後、青年は口を開いた。
『記録保持者の二人と他の三人における、転生回数以外の違いとしては、頭1/2とインターフェイスがあります。前者たちは頭1―3でインターフェイスの一桁目の数字が“3”である一方、後者たちは、頭1−7や頭2、インターフェイスの一桁目の数字が“6〜7”です』
陰陽師が無言でうなずいて続きを促しているのを確認し、青年は言葉を続ける。
『つまり、あえて極端な言い方をしてしまうと、名人と呼ばれる強さを持つ人物には、性格や気質が温和だったり、落ち着いている傾向があるのでしょうか?』
「対局中に頭に血が上ったり、気分にムラがあっては重要な局面で冷静な判断ができないという可能性を考慮すれば、その傾向があると考えられるじゃろうな」
『なるほど。ちなみにですが、駒を用いるという意味では将棋と似ている、チェスの世界ランキング一位の人物、マグヌス・カールセンの鑑定もお願いできますでしょうか?』
「もちろんじゃとも。どんな人物かの?」
青年は口頭で、マグヌスのチェス歴を伝える。
陰陽師は紙に鑑定結果を書き足していく。
全員の属性表を見比べた後、青年はやや目を見開きながら、口を開く。
『彼もチェスにおいて、世界ランキング1位という最年少記録を持つものの、転生回数は290回代ではないのですね』
そう言い、青年は棋士たちと彼の属性表の相違点を書き連ねていく。
『将棋もチェスも頭脳戦の極地のように思われますので、これだけ違いがあることが意外に感じますが、チェスでは“取った相手の駒を再利用できない”という、将棋とのルールの違いが関係している可能性が考えられるのでしょうか?』
「その可能性はじゅうぶんに考えられるじゃろうな」
『やはり、そうでしたか。ちなみに、将棋とチェスでは局面の数が異なると言われています』
そう言い、青年はそれぞれのゲーム中に現れる局面の数を紙に書き出していく。
『将棋よりもチェスの方が局面の数が少ないという点に限って考えれば、チェスにおいては、マグヌス・カールセンの属性が適している可能性は考えられるのでしょうか』
「そのように考えることもできよう」
『ちなみに、将棋界にはチェスファンが多く、羽生善治は国内トッププレイヤーとして活躍しているようで、2022年には藤井聡太もチェスの大会に参加する予定です。実際、彼らはチェスでも世界ランキングの上位に入れる素質はあるのでしょうか?』
青年の問いに対し、陰陽師はそれぞれの適性(言い換えれば強さ)を紙に書き足していく。
鑑定結果を見た青年は、納得顔でうなずきながら、口を開く。
『“大は小を兼ねる”ではありませんが、やはり将棋の名人であるお二人もチェスの適性が高いようですね。その一方、マグヌス・カールセンはさすがの100点ではありますが、将棋の強さがだいぶ下がっていますので、彼の魂の属性と各スコアはチェス向けだということがわかります』
「どうやらそのようじゃな」
陰陽師の言葉に対し、青年はうなずいた後、口を開く。
『ところで、棋士たちとマグヌス・カールセンに共通している項目の中で、次の二つが気になりましたが、どのような理由が考えられるのでしょうか?』
そう言い、青年は紙に書かれた共通点の二つを丸で囲む。
「その二つに関して説明すると、スポーツを含め、対戦型の勝負事をすることが今世の課題に含まれている人物は人運が低く、“自己中”度のスコアが高い傾向がある」
『なるほど。“長所と短所は表裏一体”ではありませんが、一般的には望ましくないと思われるそれらのスコアが、勝負事においては活かされることもあると考えられるということでしょうか?』
青年の問いに対し、陰陽師はうなずき、口を開く。
「その通りじゃ。ただし、あくまで鑑定結果は、各々が転生前に自らに課してきた“今世の課題”を果たすためにベストな数字である。ゆえに、それぞれの数字を単独で注目して人物評価をすることは禁物じゃ。そのことをじゅうぶんに理解した上で己の傾向をじゅうぶんに理解し、目の前の出来事に真摯に取り組み、日々、魂磨きに励むことが肝要なのじゃよ」
そう言い、陰陽師は壁時計に視線を向ける。
それに気づいた青年も、スマートフォンで時間を確認する。
『もうこんな時間でしたか。今日も遅くまでありがとうございます』
そう言い、青年は席を立って深々と頭を下げた。
「今日もご苦労じゃったな。気をつけて帰るのじゃぞ」
陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。
帰路の途中、青年は藤井聡太と羽生善治とマグヌス・カールセンの属性表を見比べていた。
日本では、どんな面においても満点に近い方が望ましい、という認識があるように思われる。
言いかえれば、優秀な人物というのは、一部の例外をのぞき、全てのスコアが満点に近い人物なのだろう。
そう考えると、マグヌス・カールセンよりも藤井聡太と羽生善治の方がこの世の基準でトータル的に考えれば優秀なのだろうが、チェスの適性(言い換えれば強さ)はマグヌス・カールセンの方が高い。
つまり、優秀な人物を目指したり、優秀な人物ばかりを求めるのではなく、結局は各々が自分の傾向や適性を把握し、今世の課題を果たせる環境に身をおくこと、すなわち”適材適所”が重要なのかもしれない。
過去の自分のように、己の傾向や適性よりも世間が求める優秀さを目指すあまり、疲弊してしまっている人は少なくないと思われる。
そうした人々が神事を済ませてパフォーマンスが100%になり、自身の魂の属性をよく理解した上で、今世の課題を果たす方向に人生を舵取りし、悔いのない日々を過ごしてもらいたい。
そのためにも、”天職”ランキングと”運気を下げずにもっとも稼げる職業”ランキングが自分にとって共に一位である、“啓蒙活動”に尽力しよう。
そう、青年は思議したのだった。
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