イギリス/イスラエルの学者が イスラエル批判を沈黙させる IHRAによる「反ユダヤ主義」定義の拒否を呼びかけ
イスラエル批判は「反ユダヤ主義」ではない 〜 あまりにも当然のことながら
本 note 投稿のタイトルではイギリスにおける動きのみに言及しているが、次章以降の後段ではアメリカ合州国内での動き、パレスチナ人を含むアラブ系の人々の声なども紹介する。
過去の note 投稿の中でも書いてきたことだが、「反ユダヤ主義」, anti-Semitism という言葉は、今やまるで魔法の言葉のようにイスラエルに対する「批判」封じのための道具となっている。言わば、言葉が武器化されているようなものである。
直近では、イスラエルのネタニヤフ首相が、イスラエルの「戦争犯罪」に関する調査を本格化しようとする国際刑事裁判所(International Criminal Court, ICC)の活動は「反ユダヤ主義」だと主張し、世界のまともな人権感覚がある人々・団体などの失笑を買っている(にもかかわらずそうした没論理の主張がアメリカ合州国やイギリス、欧州諸国あるいは日本などのリベラルを含む一定数の人たちに「そこそこの」説得力を持って迎えられる現実はかなり深刻ではあるが)。〜 これに関しては、本 note 投稿の最後から2番目の章「国際刑事裁判所による『戦争犯罪』調査に対してまで、『反ユダヤ主義』だとしてこれを封じようとする現イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフ」において取り上げる。
これまでの note 上の投稿でも何度か書いてきたことであるが、イスラエルを批判することになる表現活動(アートもしくは政治的表現、言論、イスラエルの政策の是正を要求するための同国に対するボイコット運動を含む政治活動など)に対して「反ユダヤ主義」とのレッテルを貼って封じ込めようとすることが、なぜ度し難く愚かなのか、その理由は非常にシンプルである。
それは何も複雑なことではなく、実は少し考えれば簡単に理解できるはずのことであって、要するに「子どもでも」分かるようなことなのだ。
イスラエル批判やイスラエルの政策是正を求めるボイコット運動などが「反ユダヤ主義」だとする考えは、全くの誤りである。
ISRAEL (イスラエル, 1948年「建国」, State of Israel) は Jewishness (ユダヤ人であること) とイコールではない。Judaism (ユダヤ教) ともイコールではない。Semitism(*1) ともイコールではない。当たり前のことだが。
併せて指摘しておくと、19世紀末以来の政治思想・政治運動である Zionism (日本語ではシオニズム, シオンは旧約聖書に登場するエルサレム地方を指す言葉でありシオニズムはかの地にユダヤ人の国家を建設しようとする思想・運動) も、言うまでもなく、Jewishness とイコールではない。Judaism ともイコールではない。Semitism ともイコールではない。当たり前のことだが。
本来これで、イスラエル批判も、反シオニズムの表現も、ひいてはイスラエルに対する BDS (Boycott, Divestment, Sanctions: イスラエルの政策を是正させるための国際的なボイコット運動) も、「反ユダヤ主義」(anti-Semitism *2) とイコールだなどということは有り得ないということの説明として、十分である。
本来、これでもう十分なのだが、さらに別の視点から、簡単な例を挙げる(これも当然ながら、以下の「日本人」を「イギリス人」「アメリカ人」「中国人」など他の国籍の人もしくは民族の総称に置き換え、「日本」をそれぞれ該当する別の国に置き換えても趣旨は同様である)。
例えば、あなたが日本人であれ、非日本人であれ、日本という国の何らかの政策に反対し、そのことで日本を批判する、あるいはそれに抗議するために日本をボイコットする(日本製品をボイコットする、あるいは例えばあなたが非日本人のミュージシャンならば日本でのコンサートをキャンセルする、等)として、そのこと自体が即「反日本主義」もしくは「反日本人主義」という名の Racism 人種差別の行為と見做されるなどということは有り得ない。ボイコットの他に、資本撤退、制裁、経済制裁といった他の抗議・抵抗・懲罰のための方法を採用したとしても、同じである。要するに、それで即、あなたが「反日本主義」者もしくは「反日本人主義」者という名の Racist 人種差別主義者、人種差別論者であるということにはならない。日本人に対する偏見を背景とした憎悪もしくは人種差別的な動機に基づくのでなく、日本の政策を批判し、日本の政策に反対し、その是正を要求するために、あるいは是正をかちとるための方法としてそれが必要だとあなた自身が判断し、もしくはその目的のためにその運動に賛同して、そうした抗議や抵抗の行為・運動を行なっている限り、あなたが「反日本主義」者、「反日本人主義」者であるということには全くならない。あまりに自明の理である。
批判や政治的表現行為の矛先がイスラエルに向いた時だけそれを「反ユダヤ主義」だとして批判し禁じようとする動きは(近年は法律で禁止しようとする動きすら活発である)、ただ単に、根拠のあるイスラエル批判・非難の声を沈黙させ、抵抗や抗議の運動を封じるために、「反ユダヤ主義」という言葉が便利に使われている現象に過ぎない。
[以下、本章の脚注]
*1 Semitism とは「ユダヤ主義」を意味し、その他、セム(語)風、ユダヤ(人)風、ユダヤ人気質などを指す言葉。なお、「セム」はユダヤ人だけを意味する言葉ではなく、セム人・セム族には現在のパレスチナ人を含むアラブ人の他、広範な範囲の人々が含まれる。「セム語」も同様で、これはヘブライ語とアラビア語を含む複数の種類の言語の総称である。
*2 本 note 投稿の冒頭でも書いたように、anti-Semitism という言葉は、今やまるで魔法の言葉のように、イスラエルに対する「批判」封じのための道具となっている。言葉として武器化されていると言ってよい。その他に、同様に使われる言葉として、反ユダヤ主義(の)、反ユダヤ主義者(の)といった意味になる anti-Semite, anti-Semitic (前者は名詞および形容詞、後者は通常は形容詞のみ)といった用語がある。そもそも Semite とはセム人、セム族の人を指し、その意味は Semitic (languages) すなわちセム系の言語(ヘブライ語、アラビア語、ほか)を使用する人々の総称であるから、上でも触れたが、これには当然ながらユダヤ人だけでなく、現在のパレスチナ人を含むアラブ人の他、広範な範囲の人々が含まれる。にも関わらず、anti-Semite, anti-Semitic, anti-Semitism といった一連の言葉は、ユダヤ人「のみ」に対する差別的な思想や行動を意味するものとして使われており、それがこれらの言葉の使用を巡る歴史であり、現状である。
イスラエル批判、反シオニズム、BDS に「反ユダヤ主義」というレッテルを貼ることの度し難い愚かさ
以下は、過去の筆者による関連 note 投稿 2点。
なお、1点目の投稿の中の「『決して忘れはしない』 〜 ナチスによるユダヤ人虐殺の記録」と題した章では、これはその投稿の主題ではないが、筆者個人が(真の意味で)反ユダヤ主義者などになることはあり得ないということの傍証たり得るような子ども時代の思い出を書いた(そこに書いたこと以外のことを加えると、筆者は若い時のバックパッカーの旅の中でドイツにある戦前のナチスによるユダヤ人等強制収容所である「ダッハウ強制収容所」跡地・博物館を訪ね、また現イスラエル・西エルサレムではヤド・ヴァシェム「ホロコースト博物館」を訪ねている。ただ重ねて強調しておきたいが、こうした経験がなければ反ユダヤ主義者になるなどということは勿論ないし、一方でこうした経験がなければイスラエルを批判する資格がないなどということもあり得ない)。
イギリス/イスラエルの学者が イスラエル批判を沈黙させる IHRAによる「反ユダヤ主義」定義の拒否を呼びかけ
1) IHRA と IHRA による「反ユダヤ主義」定義について
IHRA とは International Holocaust Remembrance Alliance の略称で、日本語では「国際ホロコースト記憶アライアンス」(もしくは同「記念アライアンス」あるいは同「記憶同盟」)と呼ばれる組織であり(1998年創設で本部はドイツ・ベルリンにある)、これまでにイスラエルをはじめ、アメリカ合州国や欧州諸国を中心に34ヵ国が "Member countries" として加盟している(イスラエル、アメリカ、イギリス、ドイツなどは創立以来のメンバー国)。
この IHRA が2016年に採択した「反ユダヤ主義」の定義が、イスラエル批判やイスラエルの占領政策・入植政策等のパレスチナ人に対する人権弾圧の政策の是正を求めるための同国ボイコット運動などに「反ユダヤ主義」とのレッテルを貼って、そうした言論などの政治活動・政治運動を封じることに利用されてきた。
IHRA定義については以下に詳しい。
http://pinfo.html.xdomain.jp/note2/202008120208.htm
また note においては、BDS Japan Bulletin の以下の note 投稿でも詳述されているので、参照されたい(BDS Japan Bulletin は日本における BDS 運動の掲示板的な役割を目指すアカウントだが、筆者はその管理者ではないし、メンバーの一人でもない、念のため)。
上記リンク先のテキスト中に「ポンペオ国務長官の主導で、このIHRA定義にもとづき、アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、オクスファムの3団体を『反ユダヤ主義団体』であると指定する動き」とあるが、参考まで、以下は、昨年 2020年11月19日に世界最大の国際人権団体(NGO)である アムネスティ・インターナショナル Amnesty International が発表した、アメリカ国務省の BDS 運動を封じる動きに対し、表現の自由、政治活動の自由、そして人権擁護の活動自体を攻撃するものとして批判する声明。
(因みに、イスラエルに対する「闇雲な」支持者たちは、Amnesty International, Human Rights Watch といった国際的な人権団体にすら「反ユダヤ主義」のレッテルを貼ることがある。)
なお、上で紹介した BDS Japan Bulletin の note 投稿に関連する他の note 投稿テキストを2点、さらに紹介しておく。
一つは BDS運動に対する歪曲 についての記事、もう一つは、BDS運動に対する「法律戦」を世界各地で仕掛けるイスラエルの組織の代表の夫であり創立者の一人でもあるイスラエル人が 1980年代にパレスチナ人に対するテロによりイスラエルで実刑判決を受け投獄されていたことが判明した件に関する記事。
2) イギリス/イスラエルの学者が イスラエル批判を沈黙させる IHRAによる「反ユダヤ主義」定義の拒否を呼びかけ
IHRA については 前項 1) の通り。ここでは、今月4日、2021年2月4日に 66人のイギリスに住むイスラエル系学者たち(パレスチナ/イスラエル問題に関わって世界的に著名なイスラエル人歴史学者イラン・パペ *1 を含む)が発表した、IHRA による「反ユダヤ主義」に関する定義を拒否する趣旨の公開書簡について紹介する。
この件は、以下にリンクを付すユダヤ人ジャーナリスト(ロンドンをベースに活動し The Guardian, The Independent, The Financial Times 等に寄稿、本人もイスラエルの市民権を持っている可能性もあるが筆者はその点までは詳しくない)、Rivkah Brown のツイートが、多くを物語っている。
以下、(1) 彼女のツイート、(2) ツイートに添付された記事、(3) 66人の学者による公開書簡(写真はこの公開書簡の切っ掛けとなった昨年10月のイギリスの大学に対する IHRA による「反ユダヤ主義」定義受け入れ要請とこれを拒否した場合の補助金カットについて言明したイギリス教育長官 Gavin Williamson の写真)、(4) 同公開書簡を掲載したユダヤ系メディアによるツイート、(5) IHRA による「反ユダヤ主義」定義を批判する・拒否する国境を超えたユダヤ人/団体の動きに関する詳細な情報の一覧。
(1)
(2) Leading British academics and Israeli citizens call on universities to reject the IHRA definition of antisemitism 〜 The 66 scholars join a broadening coalition of left-to-moderate Jews across the world who oppose the controversial definition (dated February 4, 2021)
(3) "We 66 British academics and Israeli citizens reject the government’s imposition of the IHRA" 〜 "The flawed definition threatens not only the fight against antisemitism, but Palestinian self-determination, academic freedom and our right to criticise the Israeli government." (dated February 4, 2021)
*写真はこの公開書簡の切っ掛けとなった昨年10月のイギリスの大学に対する IHRA による「反ユダヤ主義」定義受け入れ要請とこれを拒否した場合の補助金カットについて言明したイギリス教育長官 Gavin Williamson の写真。
(4) (写真は同上、件の公開書簡の切っ掛けとなった昨年10月のイギリスの大学に対する IHRA による「反ユダヤ主義」定義受け入れ要請とこれを拒否した場合の補助金カットについて言明したイギリス教育長官 Gavin Williamson の写真。)
(5) 上に取り上げた記事(2) の中に以下の 4パラグラフにわたる記述があるが、
The letter’s signatories – among them Israeli historians Avi Shlaim and Ilan Pappé, Israel-Palestine expert Moshe Behar, architect Eyal Weizman and linguist Hagit Borer – write that the definition not only “undermine[s] th[e] fight” against antisemitism, but “threatens free speech and academic freedom”, “constitutes an attack on the Palestinian right to self-determination” and hinders “the struggle to democratise Israel.”
The signatories join a broadening coalition of Jews worldwide who oppose the controversial definition. In the UK, this includes hundreds of students; David Feldman, director of the Pears Institute for the Study of Antisemitism; Antony Lerman, former Director of the Institute for Jewish Policy Research; Independent Jewish Voices; Jewish Voice for Labour; and leading Jewish legal scholars Sir Stephen Sedley and Sir Geoffrey Bindman QC.
In the US, it includes the US Reform Movement, America’s largest Jewish denomination; prominent Liberal Zionist groups J Street, the New Israel Fund and Americans for Peace Now; social justice organisation Bend the Arc; anti-occupation movements IfNotNow and Jewish Voice for Peace; and the definition’s own author, Kenneth Stern.
A more complete list of criticisms of the definition can be found here.
上掲、最後のくだりにある IHRA による「反ユダヤ主義」定義を批判する・拒否する国境を超えたユダヤ人/団体の動きに関しては、以下のリンク先に詳細な情報の一覧がある(アップデートされている)。
https://fmep.org/wp/wp-content/uploads/Challenging-the-IHRA-Definition-of-Antisemitism.pdf
[以下、本章の脚注]
*1 イラン・パペ(Ilan Pappé)は、1954年の当時並びに現在イスラエル(1948年以前は「イギリス委任統治領パレスチナ」)ハイファの生まれ、現在イギリス在住のイスラエル人(ユダヤ人)歴史学者である。
以下、(1) は、1948年「建国」のイスラエル がパレスチナに対して行なっていることの本質は「占領」でなく、その前の世紀、19世紀末から始まり今も続くシオニストによるパレスチナの植民地化であると語るイラン・パペ、(2) はイラン・パペを含むユダヤ人・イスラエル人やパレスチナ人の識者が登場する "The History of Palestine" と題するヴィデオ(10年以上前のものだが内容は充実しており今も十分にパレスチナとイスラエルやシオニストに関しての理解に役立つ)、(3) ごく最近すなわち 2021年1月29日に行なわれたイラン・パペとアンジェラ・デイヴィス(Angela Davis, 1944年アメリカ合州国アラバマ州生まれ, 昨年の BLM 運動でも発言・動向が注目されたアフリカ系アメリカ人学者・活動家)との対話セッションの模様。
(1)
(2)
本項で紹介するヴィデオの中で、イラン・パペは例えば冒頭部分において(9:48 のヴィデオの 1:12~) 〜 "The mainstream Israeli Jewish society believe, because that's the way they have been educated, ... that Palestine was empty, had been empty when the Jewish settlers came there." 〜 と語っている。
長年シオニズムによる教育のもとで「(その)シオニズムによるユダヤ人の移民がパレスチナの土地にやって来た時、そこにはパレスチナ人(パレスチナにおいて実際には人口の上でも土地所有率でも圧倒的多数派であったアラブ系住民=現在言うところの「パレスチナ人」)など居なかった、彼らは実はパレスチナに住んでいなかった」などという虚構を教えられてきた、あるいはそんな教育を体制側が人々に与えて来たイスラエルの社会において、1948年のイスラエル「建国」に伴って 70~80万人もの膨大な数のパレスチナのアラブ系住民である「パレスチナ人」が彼らの故郷・土地・家を失ったことを意味する「ナクバ」の事実は、タブーとならざるを得なかったわけである(下のリンク先の note 投稿はその主題はイスラエルの高校生による兵役拒否だが、テキスト内で「ナクバ」に関しても記述)。
なお、上で触れたイラン・パペの発言に関連することだが、今でも、「パレスチナ人」とは実はヨルダンやシリア、エジプトなどからあの土地に近年になって移り住んできた、侵入して来た人間なのだというような荒唐無稽の「物語」を語るシオニストのイスラエル人やユダヤ人はいる。筆者自身、ほんの 4年前、2017年2月にそんな空想の与太話を語る自称「イスラエル兵」に Facebook の Messenger で当然ながらそんなことでは到底「議論」にはならないようなギロンを吹っかけられ、3時間にわたってひたすら消耗するチャットをしたことがあるし、その後も同様の主張をするアメリカ合州国に住むイスラエル人を相手に Facebook 上の他者の投稿の下のコメント欄でやはり消耗するやり取りをしたことがある。
以下のヴィデオは、今から 12年近く前、2009年3月に YouTube に上げられたものだが、パレスチナ問題を理解するための「教材」的なものとして現在も十分に鑑賞に堪える内容である。YouTube にこのヴィデオを上げた人物自身はイスラーム教徒のようだが、ヴィデオそのものはイスラーム「臭さ」、「宗教」臭さは文字通り皆無で、イスラームの教義の宣伝色も全く無い(そうした「宗教宣伝目的」的なものであれば筆者自身は絶対にシェアしない)。
(3) イラン・パペとアンジェラ・デイヴィスの対話セッション(2021年1月29日)
アメリカ合州国におけるユダヤ系団体の動き
1) アメリカで最もパレスチナ人の人権や民族自決権のために声を上げ、シオニズムにもはっきりと NO を突きつけるユダヤ系アメリカ人の団体やメディア、同様の活動をするアメリカ在住のイスラエル人が、IHRA による「反ユダヤ主義」の定義を拒否することは、至極当然のことである。
以下は3例に過ぎないが実際には他にも多くの事例がある。3例は下のリンク先、筆者による過去の関連 note 投稿でも取り上げたもの(「『反ユダヤ主義』という言葉の政治的濫用 〜 IHRAによる定義の欺瞞(BDS運動に対する歪曲)」という見出しの章で特にアメリカ在住のイスラエル人 Miko Peled について詳述)。
以下、3点はインスタグラム上の投稿から。
2) 今年、2021年1月12日、前項 1) で言及した従来から IHRAによる「反ユダヤ主義」定義を拒絶してきたような、シオニズムにも反対するユダヤ系メディアや組織、同様のイスラエル人とは別に、シオニストの中道左派組織10団体が同「反ユダヤ主義」定義の濫用を批判する声明を出して注目された(前章「イギリス/イスラエルの学者が イスラエル批判を沈黙させる IHRAによる『反ユダヤ主義』定義の拒否を呼びかけ」の 2)-(2) の記事中でも紹介されている)。
トランプ政権の時代に大統領令で同「反ユダヤ主義」定義を公民権法に組み込んだ際に Jewish Voice for Peace, IfNotNow といったユダヤ系アメリカ人団体がすぐさま反対したのに対し、反対の声を上げなかった彼らシオニスト中道左派が政権交代を経て批判したのであり、また彼らの場合は IHRAによる「反ユダヤ主義」定義それ自体に反対しているのでなく、その濫用に対して批判し、法的拘束力を持たせることに関してだけ反対しているわけだが、しかしそれでも、同「反ユダヤ主義」定義の濫用例として、前章の 1) でも触れているトランプ政権時代のポンペオ国務長官による「BDS運動は反ユダヤ主義」発言を挙げるなど、建設的な動きと取れるところはあり、前向きに捉えてよい面はある。
パレスチナ人を含むアラブ人の声
1) 以下は昨年、2020年11月29日付のイギリス The Guardian 掲載記事。パレスチナ人を含む 122人のアラブ系の学者、ジャーナリスト等識者が、IHRA による「反ユダヤ主義」定義に関する懸念を表明した公開書簡。
前章「イギリス/イスラエルの学者が イスラエル批判を沈黙させる IHRAによる『反ユダヤ主義』定義の拒否を呼びかけ」の 2)-(2) の記事においても、
It also follows a similar letter by Palestinian and Arab scholars, 122 of whom recently wrote to the Guardian expressing their opposition to the IHRA. Their letter concluded: “We believe that human values and rights are indivisible and that the fight against antisemitism should go hand in hand with the struggle on behalf of all oppressed peoples and groups for dignity, equality and emancipation.”
として紹介されているものに当たる。
Palestinian rights and the IHRA definition of antisemitism 〜 A group of 122 Palestinian and Arab academics, journalists and intellectuals express their concerns about the IHRA definition (dated November 29, 2020)
以下の BDS Japan Bulletin のツイートでも紹介されている通り、「ユダヤ人が反ユダヤ主義的体制や団体によって少数者として差別・抑圧される状況と、パレスチナ/イスラエルにおけるユダヤ人の自決権が排外主義的・領土拡張論的国家という形で履行されている状況とは全く異なる」とするもの。
上掲のツイートは、BDS Japan Bulletin が 日本のイスラエル「闇雲」支持者によるツイートを批判した際の下記ツイートの、スレッド内にあるものである。
2) 日頃からパレスチナ/イスラエル問題に関心を寄せ、かの地に両者の対等な関係や真の自由・平等・平和が実現した社会が訪れることを願う人々は、当然のように被抑圧者であるパレスチナ人の声に耳を傾ける姿勢を持つわけだが、一般メディア的には、ユダヤ人やイスラエル人がイスラエル批判の声を上げた場合の方が注目されやすい現実がある。このことが深刻な問題であることは事実だが、それを分かりやすく表現したパレスチナ人のツイートを比較的最近見たので、以下に紹介する。
このツイート自体は、本章の前項に直接関わるものではなく、イスラエル最大の人権擁護団体 B’Tselem がある意味「ようやく」イスラエルは民主主義国家ではなく、1948年「建国」戦争後のテリトリーのイスラエルと 1967年以来 違法「占領」を続ける東エルサレム・ヨルダン川西岸地区およびガザ地区を実質支配する「アパルトヘイト」レジームであると認定し(2021年1月12日付、同団体のウェブサイト上)、イスラエル「批判」の内容としては珍しくその直後からアメリカ合州国、イギリス、フランスなどの欧米諸国の多くのメインストリームの新聞社や通信社等のメディアがこぞってそれを取り上げた後、そうした報道を受けてツイートされたものである。
ツイートした Remi Kanazi は 1981年生まれ、ニューヨーク在住のパレスチナ系アメリカ人の詩人、作家、運動家(両親は 1948年のイスラエル「建国」前のシオニストによるパレスチナ人に対する虐殺等民族浄化が進む中でパレスチナを追われたパレスチナ難民)。ツイートは 2021年1月14日(現地時間 1月13日)のもの。
上掲のツイートは、以下の筆者の note 投稿の中で紹介したもの(「あるパレスチナ人(パレスチナ系アメリカ人)と『イスラエルはアパルトヘイト・レジームである』との認識を支持するイスラエル人(ユダヤ人)の反応から」という見出しの章にて)。
国際刑事裁判所による「戦争犯罪」調査に対してまで、「反ユダヤ主義」だとしてこれを封じようとする現イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフ
1) 国際刑事裁判所(ICC, International Criminal Court)のツイートより(現地時間、2021年2月5日)。
2) 今月、2021年2月5日付、イギリス The Guardian の記事。
ICC rules it can investigate alleged war crimes in Palestine despite Israeli objections 〜 Palestinian Authority welcomes ruling that could see prosecution of Israeli officials and military as well as Hamas figures
3) 先にアメリカ合州国のバイデン政権の反応に関して(2021年2月7日付, 反シオニストのユダヤ系アメリカ人のメディア Mondoweiss)
4) あまりにも愚かな現イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフの主張
前項 3) と同様、Mondoweiss の記事(2021年2月8日付)
Israeli officials working in overdrive to thwart ICC probe into possible war crimes 〜 In a video released over the weekend, Netanyahu called the Israeli crimes in questions “fake war crimes,” and accused the court of specifically targeting Israel. Netanyahu promised Israelis that as their prime minister he will “fight this perversion of justice with all our might,” while shaking his fist at the camera.
"This is pure anti-Semitsim!", とまさしく「莫迦(ばか)の一つ覚え」のように魔法の言葉を唱えるベンヤミン・ネタニヤフ。
5) 「莫迦(ばか)につける薬はない」と言いたいところだが、この男が長年、イスラエルの政治上の最高権力者の座に居座っていることの深刻さ。
6) 至極真っ当なネタニヤフ批判
7) 至極真っ当なネタニヤフ批判(イスラエルの「占領」政策とアメリカ合州国によるイスラエルの同政策への財政的下支えを批判し続けるユダヤ系アメリカ人の若者世代の団体 IfNotNow のツイート)
8) 同じくイスラエルの「占領」政策やシオニズム、アメリカ合州国による無条件のイスラエル支援を長年批判し続けてきたユダヤ系アメリカ人団体 Jewish Voice for Peace のツイート
9) 前々項 7) の IfNotNow のツイート
10) 本章の最後に。国際刑事裁判所 ICC による「戦争犯罪」調査は、イスラエルによるものだけでなく、ガザ地区のハマスによるものも対象となる。
筆者はイスラーム原理主義者であるハマスを思想的に全く支持しないし、その対イスラエル戦略にも賛同しない。ただ、彼らを単にイスラーム原理主義テロリストと見做す単純思考に対しては、そもそもあの組織が作られたのがいつで、彼らのような存在が何を背景にして生まれてきたのか、その歴史的経緯を見ることの必要性を最低限、指摘しておきたい。
ここでは、ICC が調べる「戦争犯罪」ということに関連して、イスラエル対パレスチナ(ヨルダン川西岸地区のいわゆる「自治政府」)、もしくはイスラエル対(ガザ地区の)ハマスの間にある力関係に関わって、世界的に著名なユダヤ系アメリカ人学者ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky, 1928年ペンシルベイニア州生まれ)の言葉を紹介しておきたい。
IHRA の H, Holocaust 〜 ホロコーストに関連して(イスラエルを批判するユダヤ系アメリカ人学者とパレスチナ系アメリカ人学者の言葉)
本 note 投稿の「イギリス/イスラエルの学者が イスラエル批判を沈黙させる IHRAによる『反ユダヤ主義』定義の拒否を呼びかけ」との見出しの章の 1) IHRA と IHRA による「反ユダヤ主義」定義について 〜 で書いたように、
IHRA とは International Holocaust Remembrance Alliance の略称で、日本語では「国際ホロコースト記憶アライアンス」(もしくは同「記念アライアンス」あるいは同「記憶同盟」)と呼ばれる組織である(1998年創設, 本部ドイツ・ベルリン:イスラエル、アメリカ、イギリス、ドイツといった創立以来のメンバー国をはじめ、これまでにイスラエルの他は欧米諸国を中心に34ヵ国が "Member countries" として加盟)。
1) ここで紹介するノーマン・フィンケルスタイン(Norman Finkelstein, 1953年ニューヨーク生まれ)は ユダヤ系アメリカ人の政治学者で、反シオニストの活動家であり、作家。
ノーマン・フィンケルスタインの両親は共にナチス・ドイツによるワルシャワ市内のユダヤ人隔離地域であったワルシャワ・ゲットー、そしてユダヤ人がナチスに対して絶望的な蜂起をしたいわゆる「ワルシャワ蜂起」の生存者で、母親は更にナチス・ドイツがポーランドに建設したマイダネク強制収容所の生存者でもあって、父親は更にアウシュヴィッツ強制収容所の生存者でもある。
その彼が、(反)ナチス、(反)ホロコースト等に言及してイスラエルを「擁護」する人たち、そんな特にイスラエル人もしくはユダヤ人に向けて語った言葉を、以下のヴィデオで聴くことができる。
(英語、英語字幕付き)
2) 次に、パレスチナ・エルサレム生まれのパレスチナ系アメリカ人で、文学・比較文学研究者であった故 エドワード・サイード(Edward Said, 1935年11月1日「イギリス委任統治領パレスチナ」エルサレム生まれ、2003年9月24日ニューヨークにて死去:著書「オリエンタリズム」でポストコロニアル理論を確立した学者として世界的に著名)が語った言葉について掲載して、今日のこの note 投稿を終えることにする。
"You cannot continue to victimize someone else just because you yourself were a victim once.", つまり、あなた方自身が かつて 犠牲者だったという理由で、他の誰かを犠牲にし続けることは出来ない。