読書は彼女の最大の情熱だった。読んで得たものは、ほかの何にも代えられない宝物だった。
『本を読む女』は、タイトル通り、本を読む小説。タマラさんという朗読を仕事としている女性の周辺に起こる奇怪なできごとを短編連作として八篇収める。それぞれにフルーツがからんできて、なかなかにジューシィな作品群になっている。
ジヴコヴィチは同じく書肆盛林堂から昨年刊行された『図書館』で初めて知った作家。一九四八年ベオグラード(旧ユーゴスラビア)生まれ、セルビアを代表する作家の一人だそう。
『図書館』(渦巻栗 和訳、書肆盛林堂、二〇二三年)
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たとえば「アプリコット」はこんな物語である。ある日、読書中に何の果物を食べたか思い出せなくなったタマラさんは、市場であらゆる種類の果物を買ってきて、順番に食べながらやっとのことでアプリコットだったことを思い出す。ところが、今度は、読んだ本の内容を覚えていないことに気づいて愕然とする。
ここでタマラさんはアプリコットをつまんで心を落ち着かせる。こういうことはいつか必ず起きること、少し早くやってきただけだ、そう思い直す。
だが、何が一番好きだったのかは、思い出せない。ま、しょうがない、どんどん読んでいくだけのことだ……う〜む、人ごとではないお話です。
『本を読む女(ひと)』《ゾラン・ジヴコヴィチ ファンタスチカ》第2弾
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