daily-sumus note

画家、著述家、装幀家、古本憑き。著書に『喫茶店の時代』『ふるほんのほこり』『古本屋を怒…

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画家、著述家、装幀家、古本憑き。著書に『喫茶店の時代』『ふるほんのほこり』『古本屋を怒らせる方法』『本のリストの本』『本の虫の本』など。編著に『喫茶店文学傑作選』。装幀本に『書影でたどる関西の出版100』『花森安治装釘集成』他多数。

最近の記事

僕は一読して「カリガリ博士」の画面を浮かべた

『渡邊温選集 あゝ華族様だよと私は嘘を吐くのであつた』読了。まず、組版がいい。読みやすい。誤字も見当たらない(当たり前のようでこれが難関)。ハードカバーでノドの開きもよく読み心地もいい。あとがきによれば編者のYOUCHAN氏は旧仮名旧漢字での収録を目指し、底本(改造社版全集および初出雑誌)からテキストを起こし、InDesign に読み込ませた。その際に作字(既存のフォントにない文字を新たに作ること)はスッパリ諦めた。さらに校正・篠原亮氏の「神の目」を何度も通って本書「旧仮名・

    • 足る事をしればこそあれ福の神・・・

      『澤』294号(澤俳句会、令和6年9月1日)を頂戴しました。根岸哲也氏が「窓 詩文学芸書を読む」において拙著『喫茶店文学傑作選』(中公文庫、2023)を紹介くださっています。『喫茶店の時代』(ちくま文庫)にも触れてくださり、誠に嬉しくありがたくいただきました。表紙の仙崖の軸がいいですねえ。タイトルはこの軸にしたためられた和歌「足る事をしればこそあれ福の神二疋鯛釣る恵美須なければ」より。 その他の記事もざっと拝読しました。俳句ってどんどんできると楽しいでしょうねえ。小生も二十

      • 一朝ハコスモスの中羽生えて孵る風ふく

        河東碧梧桐の軸か、せめて短冊がひとつ欲しいのだが、なかなか思うようには手に入らない。むろん出すものを出せば、そう難しい話ではないことは解っている。そこをなんとかしようというところに妙味がある……と勝手に思い込んでいるだけなのだが。 本書の制作者である画家の戸田勝久氏は正統派である。長年にわたって碧梧桐を蒐集し、ついに辿り着いた、極めて稀有な逸品が『碧梧桐百句選』。それをフルカラーでわれわれも鑑賞できる、なんとも素晴らしい一冊になっている。碧梧桐ファン必携。巻頭の説明文を引い

        • わたしの"はたらく"もきっとだれかにつながってる。

          今更ながらかもしれないが「ドキュメント72時間」というNHKの番組が面白い。先日、パリ・オリンピックにちなんだ「フランス・パリ 街角のマンガ喫茶」を見たが、まるで作ったような人間ドキュメントになっていた。もし仕込みが全くないとしたら(日本の漫画を出版している編集者はできすぎ?)、パリのマンガ喫茶はドラマの宝庫だ。 「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組もある。最近見たのは靴直し屋さんの回(思いを繕う、私を断つ〜靴修理職人 村上塁〜)。世の中いろいろな仕事があって、みな

        僕は一読して「カリガリ博士」の画面を浮かべた

          珈琲噴きこぼれて燃ゆるたまゆらを去りがたしこのまぼろしの生

          江畑實著『創世神話「塚本邦雄」』は塚本邦雄が前衛短歌の旗手として頭角を現した戦後の激動の時代を塚本の歌集『水葬物語』(メトード社、1951)、『裝飾󠄁樂句』(作品社、1956)、『日本人霊歌』(四季書房、1958)、『水銀傳説』(白玉書房、1961)、『綠色研究』(白玉書房、1965)、『感幻樂』(白玉書房、1969)、『星餐圖』(人文書院、1971)そして『蒼鬱境』(湯川書房、1972)に沿いつつ、初出雑誌や手稿をも広く参看し、塚本の普遍的な主題と変幻する興味を、交友関係や

          珈琲噴きこぼれて燃ゆるたまゆらを去りがたしこのまぼろしの生

          お前達は自由に女にも男にもなれるのだ

          尾形亀之助『障子のある家』(小熊昭広、2024年9月5日)を開風社待賢ブックセンターにてもとめた。宮城県柴田郡大河原町(尾形亀之助の出身地)の毛萱街道活版印刷製本所による爐書房版(昭和23年)の復刻版。内容は青空文庫でも読めるが、ファクシミリ版ではなく活版印刷による復元というところが素晴らしい。 毛萱街道活版印刷製本所街道 https://www.kegayakaido.jp/guide/company.html 『タイポグラフィカルをがたかめのすけ〜金属活字による尾形亀

          お前達は自由に女にも男にもなれるのだ

          理性による一切の統御を取り除き、審美的また道徳的な一切の配慮の埒外でおこなわれる思考の口述筆記

          ちょうど百年前の今日、1924年9月6日。フランスの文学雑誌『文学ジャーナル Le Journal Littéraire』誌上に、アンドレ・ブルトンによる「宣言 Manifeste」が掲載された。自動筆記によるテクスト『溶解性の魚 Poisson soluble』の序文として書かれたものだが、これは以後、単行本としても刊行され「超現実主義宣言」として広く認められるようになる。 それを記念して、というわけではないが、上のペーパーバックを入手した。アンドレ・ブルトンの献呈署名入

          理性による一切の統御を取り除き、審美的また道徳的な一切の配慮の埒外でおこなわれる思考の口述筆記

          四方田さんの死は、ただもう暗い穴の中へ落ちて行ったという感じがして

          椹木野衣編『洲之内徹ベスト・エッセイ1』(ちくま文庫、2024年5月10日)、『洲之内徹ベスト・エッセイ2』(ちくま文庫、2024年8月10日)を入手した。 今年は洲之内徹生誕111年に当たる。編者の椹木氏はこう述べている。 新潮文庫では『絵のなかの散歩』が平成8、『気まぐれ美術館』平成10、『帰りたい風景』平成11、ポンポンポンと刊行されて続刊も期待していたところ、売上不振だったのかどうか知らないが、それで打ち止め、絶版となってしまった。 洲之内徹の気まぐれ美術館シリ

          四方田さんの死は、ただもう暗い穴の中へ落ちて行ったという感じがして

          林哲夫展覧会記録2024-

          2024 令和6 ◼️9月14日(土)〜9月23日(月) 林哲夫展 '心象風景' ギャラリーロイユ:神戸市中央区北長狭通3-2-10キダビル2F 油彩画 01 空 (巣) F15  2017   02 雨後 (マロニエ樹、パリ) F15  2017 03 K (カフカ) 20cm×15cm  2018  04 湯川誠一 15cm×23cm  2018  05 R/V (ランボー/ヴェルレーヌ) F6  2019  06 室津 (猫) 18cm×19cm  2020

          林哲夫展覧会記録2024-

          最近の文庫本やコミックスを並べた何の変哲もない町の古本屋だったが、表の均一棚にはたまさか黒っぽい初版本の意外な掘り出し物があらわれる

          西村賢太『苦役列車』(新潮文庫、令和5年7月20日13刷)読了。表題作「苦役列車」は2010年下半期芥川賞受賞。もう一篇「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」も収録されている。「苦役列車」はよく書けている。しかしながら、古本数寄者としては後者がはるかに面白い。 2009年、作者が第35回川端文学賞候補になっている時期、ひどいギックリ腰からようやく歩けるようになって赤羽の病院へ行った帰り、ふと、近くに古本屋があったことを思い出す。そこの店には因縁、いやジンクスのようなものがあった。

          最近の文庫本やコミックスを並べた何の変哲もない町の古本屋だったが、表の均一棚にはたまさか黒っぽい初版本の意外な掘り出し物があらわれる

          裸で感情を吐露しているから、といってこの詩人の姿が見えた、と言ってはいけない。

          雑誌『ゆうとぴあ』第四号には北園克衛の「街」という詩が載っているが、これが普通の北園ではない。 落日が街を瑪瑙いろに染める 僕は今日も疲れて 暗憺と雑踏のなかを歩いていく この群集 凶暴な衣服を衒ふ闇商人 この世紀の野獣と僕とは 何の関係があるのか 埃を浴び 突風に吹かれる この醜悪な玩具 陋劣な生活そのものの器具類 そしてこの惨憺たる雑貨は あ 僕の絶望は日とともに潔く 憤懣は更にもつとだ 生活よ 詩よ その絢爛の紫の鬚よ 誇りもなく また今日もなく 敗徳の谷間にみちて漂

          裸で感情を吐露しているから、といってこの詩人の姿が見えた、と言ってはいけない。

          創元茶房で、昨日のやうに、小野、安西ニ氏と逢ふ。

          金沢文圃閣に注文していた『現代詩』第三巻第六号(詩と詩人社、昭和23年7月1日)が届く。北園克衛の寄稿があり、また表紙も北園克衛デザインなので喜ぶ。他に瀧口修造も海外詩消息という連載を持っており、この号(第3回)ではフランスにおける戦後のシュルレアリスムについて紹介している。 編輯兼発行人は関矢与三郎(新潟県北魚沼郡廣瀬村大字並柳=現・魚沼市並柳)、編集部員は杉浦伊作(浦和市岸町二ノ二六)。北川冬彦も深く関わっていたようだ。 関矢与三郎についてコトバンクの記述を多少補って

          創元茶房で、昨日のやうに、小野、安西ニ氏と逢ふ。

          珈琲

          『串田孫一随想集』をまとめて買ったので拾い読みをしていると、短いエッセイを集めた第7巻「ヘンデルと林檎」のいちばん最後の「珈琲」というタイトルが目にとまった。 全部引き写してもいいくらい短い。が、著作権も多少気にしつつ、喫茶店に関するところだけを引用しておく。 東京駅の前を歩いていた。巡査に職務質問をされたらいやだなと、おどおどしながら歩いていると、知らない男が話しかけて来た。「君は岩下三平だったね。ずいぶん久し振りだなあ。一体どうしてた」。(引用文では改行を一行アキとし

          物をもしる人はかくめてたき世にあひ すえはんじやうのさかへあるべし 

          古拙な絵柄の奈良絵本が好きで、何か一冊、または一巻、本物が手に入らないかなと思ってはいるものの、これはちょっと無理そうである。ならば印刷物でもいい。奈良絵本に関する資料は目につきしだい、ただし安ければ、購入するようにはしている。というわけでこの立派な本も百円均一コーナーから求めた。天理図書館は各種の奈良絵本が数多く所蔵されていることでは日本国内トップクラスとのこと。 ここでは「小おとこ」を紹介したい。本書には「小男の草子絵巻」と「小男の草子絵巻」別本【タイトル画像はこの一場

          物をもしる人はかくめてたき世にあひ すえはんじやうのさかへあるべし 

          わたし は かれくさ をふみしめて あるいた。

          『花 山前實治詩集』(文童社、昭和40年9月20日再版)。今年の下鴨納涼古本まつりで、収穫と言えるのは、この詩集くらいだろうか。初版は昭和33年1月20日発行で300部。それは手渡しで配ったが、次の詩集『岩』(文童社、昭和38年1月15日、700部)を郵送したところ、『花』も欲しいという要望が相当あったため再版に踏み切った。そう述べた挨拶状が挟んである。 実は、その『岩』も『花』とともに並んでいたので二冊一緒にもとめた。ちょうど善行堂と扉野良人氏と立ち話をしていて、「こんな

          わたし は かれくさ をふみしめて あるいた。

          私は一瞬どきんとしたことがある

          坂口安吾「花妖」の新聞連載第17回のコピーを頂戴した。この小説は『東京新聞』紙上で昭和22年2月17日から5月8日まで連載されたが、打ち切られ、未完に終わった。挿絵が岡本太郎というのも注目に値する。 坂口安吾 花妖 https://ango-museum.jp/work-detail/?w_cd=0203 ただし問題は小説ではなく、そのタイトルの横に掲載されている「らんぼお」の広告である。写真では読みにくいかもしれないので文面を引用しておく。 ここで言う記念冊子が『蘭梦

          私は一瞬どきんとしたことがある