daily-sumus note

画家、著述家、装幀家、古本憑き。著書に『喫茶店の時代』『ふるほんのほこり』『古本屋を怒らせる方法』『本のリストの本』『本の虫の本』など。編著に『喫茶店文学傑作選』。装幀本に『書影でたどる関西の出版100』『花森安治装釘集成』他多数。

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画家、著述家、装幀家、古本憑き。著書に『喫茶店の時代』『ふるほんのほこり』『古本屋を怒らせる方法』『本のリストの本』『本の虫の本』など。編著に『喫茶店文学傑作選』。装幀本に『書影でたどる関西の出版100』『花森安治装釘集成』他多数。

最近の記事

Ciel, mon Marais !

パリから古書目録がいろいろ届いた。なかでも古書店「Librairie Sur le fil de Paris」のクリステル・ゴンザロ(Christelle Gonzalo)による『Ciel, mon Marais ! Une histoire illustrée du quartier』が素晴らしい。過去300年にわたる300点の資料類(書籍、地図、版画、写真など)をもってパリのマレー地区の歴史を再現。開店10年をこの展示・売り立てによって祝い、写真入りカタログを刊行した。

    • あるある、とても大変な本である。床の間も、押入れも、廊下も、玄関も、本の山だ。

      岩佐東一郎『随筆くりくり坊主』を頂戴した。これは嬉しいいただきもの。感謝です。あちらこちら拾い読みしているうちに全部に目を通してしまった。面白い。先に紹介した高橋輝次『戦前モダニズム出版社探検』にも登場しており、読んでみたいなと思っていたところだった。 岩佐の三冊目の随筆集で昭和十四年から十六年までの三年間に発表したエッセイから選ばれており、戦時下の世相を反映している部分も興味深いが、やはり古本に関する話題が多いのがたまらなく良い。 例えば「本好きの巡査」。高橋竹松さんと

      • 梶井基次郎は私に嘘の話をしてきかせたのだ。そして彼は死んでしまつた。

        高橋輝次『戦前モダニズム出版社探検』を読んでいると、厚生閣の雑誌『月刊文章』に連載された伊藤整の「小説作法」が面白いというくだりがあった。その文章は『文学の道』(南北書園、昭和23年)として単行本に収められているという話が出てきたところで、ハタと膝を打った。この本はたしか持っている。取り出してみると昭和24年再版本である。そこで高橋氏が話題にしている伊藤整が梶井基次郎と同じ下宿に住んだときの回想(第一話)をさっそく読んでみた。 伊藤整は1905年生まれ。数え年で二十四歳とい

        • 書写上人の事、室の遊女の事

          和本の紹介が続くが、『西行撰集抄巻第六』をやはり京都百万遍古本まつりの和本均一コーナーにて入手した。実は2023年の春にこの『西行撰集抄』九冊本をセットで求めていた。それについてはブログ daily-sumus に記録してあるので、ご覧ください。 西行撰集抄 https://sumus2018.exblog.jp/30301574/ そこでも引用しているが、まずは本書の概略を渡部さつき「整版本『西行撰集抄』ノート」(大妻女子大学学術情報リポジトリ、pdfにて公開)より引い

          徒連徒連成ままに日ぐらし硯にむかひて

          京都百万遍知恩寺で恒例の秋の古本まつり。その会場にてボロボロの一冊『新版絵入徒然草』上巻を発見した。『徒然草』の写本・版本の系統について川瀬一馬はこう書いている。 『徒然草』は二百四十三段、上下二冊から成る。上巻が百三十六段、下巻が百七段。 ということなのだが、通例に反して、本書の上巻には百三十七段「くすしあつしげ」まで掲載されている。どうして? と思って確認してみると、講談社文庫版では百三十六段が「医師篤成」となっており、上巻で一段増えていることが分かった。 どこが増

          徒連徒連成ままに日ぐらし硯にむかひて

          プラハ滞在は私の人生における最も美しい思い出のひとつである

          チェコのシュルレアリスム系の文芸作品を英語に翻訳して次々と刊行しているのがプラハに本拠を置くTWISTED SPOON PRESSである。京都の午睡書架が継続的に仕入れているので、時折、気に入ったタイトルを買ってみる。 TWISTED SPOON PRESS https://www.twistedspoon.com 今回のこの本は、ネズヴァルという日本ではあまり知られていないシュルレアリスト詩人がプラハの街を描いているところに少しばかり興味を持った。プラハへ最近出かけられ

          プラハ滞在は私の人生における最も美しい思い出のひとつである

          「軽石」「苦いお茶」「下駄の腰掛」が私の考える木山捷平ベスト3

          『駄目も目である 木山捷平小説集』読了。久々に木山節を堪能した。かつての一時期、木山捷平を熱心に読んでいたことがあって、本書に収められている短編もいくつかは「そうそう、これこれ、これだよ、これ」と激しく頷きながら当時の感動を思い起こさせてくれた。 編者岡崎武志によれば、つぎのような方針でこのアンソロジーは編まれた。 木山作品は次の四つの時期に分けられるというのが岡崎説。本書はこの(三)を中心に選ばれた。 そして、これらは何度でも繰り返し読める、いい温泉やいい音楽と同じだ

          「軽石」「苦いお茶」「下駄の腰掛」が私の考える木山捷平ベスト3

          シュルレアリスム展、白日の下に

          パリのポンピドゥー・センターでは現在「シュルレアリスム展」が開催されている。今年はアンドレ・ブルトンによるシュルレリスム宣言が発表されてちょうど百年ということで日本でもさまざまな催しがあったし、現在開催中のものもある。 本場のパリでは宣言のオリジナル原稿をはじめ多数の資料および絵画や立体作品が展示されているようだ。在パリの古書店主・中原千里さんが東京のギャラリー「ときの忘れもの」ブログにレポートを発表しておられるのがたいへん臨場感があって、現地へ詣でることのかなわないシュル

          シュルレアリスム展、白日の下に

          いつもバラ色ではなかったけれど、楽しいこともたくさんあった。バラ色のこともあったのだと信じたい。

          山田稔さんの新刊『もういいか』読了。目次は次の通り。  はじめに 本棚の前で  三冊の本  三人の作家 耕治人、小田仁二郎、瀬戸内晴美  ヌーボー会のこと  同僚ーー生田耕作さんのこと  引用ーー坪内祐三  Mさんのこと  〈マリ・バシュキルツェフ〉を求めて  ムシからヒトへーー日高敏隆をめぐるあれこれ  もういいかーー小沢さんとわたし 雑々閑話 夜の声 「〈マリ・バシュキルツェフ〉を求めて」、「ムシからヒトへ」、「雑々閑話」が書き下ろし。その他の初出は『海鳴り

          いつもバラ色ではなかったけれど、楽しいこともたくさんあった。バラ色のこともあったのだと信じたい。

          後山處トシテ廣濶タル茄非樹ノ園ナラザルナシ

          佛人 シュル、ウエルス氏原著/日本 川島忠之助訳『新説八十日間世界一周 前篇』(明治11年5月31日版権免許) 佛人 ジエル、ヴエルヌ氏原著/日本 川島忠之助訳『新説八十日間世界一周 後篇』(明治13年6月24日出版御届)  ある必要があって川島忠之助(1853-1938)訳『新説八十日間世界一周』(秀選名著複刻全集近代文学館、日本近代文学館、昭和59年)を読んだ。これがなかなか面白く、巻を措くあたわずというくらい。あえて現代語訳ではなく明治の文語訳を選んだのも良かった。原

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          極めて珍しい限定版といってよく、五年後、十年後には幻のような本として捜し求められることでしょう

          映画「箱男」が公開され、そして安部公房展が開催されるなど、世間では安部公房で盛り上がっているようだ。 映画「箱男」 https://happinet-phantom.com/hakootoko/ 安部公房展──21世紀文学の基軸 2024年10月12日〜12月8日 https://koboabe.kanabun.or.jp そんなことはちっとも知らなかったのだが、先日、善行堂でプレス・ビブリオマーヌの『手について』を見つけて買って帰った。本文24ページ(プラス表紙4ペー

          極めて珍しい限定版といってよく、五年後、十年後には幻のような本として捜し求められることでしょう

          内的な刺戟で筆を取るダダイスト

          初めて入ったある古書店でしばらく粘ったのだが、どうも買って帰りたくなるタイトルが見つからない。何千冊くらいは並んでいるのだろうから、せめて一冊くらいあってもよさそうなものである。いいなと思うのは少し値段が高かったりする。しかたない、手ぶらで出るかと、本屋は手ぶらで出ない主義の小生もそろそろ諦め気味になっていたとき、ふとこの書名が目に入った。太田静一『中原中也詩研究』(審美社)。中原中也の関連本を少し集めてみたいなと思っていたこともあり、とにかくこれで気持ちよく店を出られると安

          内的な刺戟で筆を取るダダイスト

          時間は問題ではない。必要なのは、よいものをもとめる気持ちである。

          知人より『生誕120年 長谷川潾二郎展 ひっそりと、ささやかに。あの日の先に』図録を頂戴した。本年9月に銀座一丁目の鈴木美術画廊にて開催されていた長谷川潾二郎展のために作られたもののようだ。愛好家所蔵の27点が展示されたという。見てみたかった。巻頭に掲げられている潾二郎の言葉(部分)。「個展について」。精神の内部であるというのはよく解る。 長谷川潾二郎(1904-1988)の画風は変わっていないようで、かなり変化している。個人的には1930年代の滞欧作がいちばん好きだが、4

          時間は問題ではない。必要なのは、よいものをもとめる気持ちである。

          すると娘はカルメン風な服装をしてタンバリンを持って、テーブルの上につきたち巧みに踊りだすのである

          南陀楼綾繁編『中央線随筆傑作選』(中公文庫、2024年)のなかに拙著『喫茶店の時代』(ちくま文庫、2020年)に補っておきたい一節を見つけたのでここにメモしておく。 福田清人「中央線雑記」のなかに出てくる《Uという酒場》。福田は1904年長崎県生まれ。東京帝国大学文学部国文学科卒業。昭和4年(1929)第一書房へ入社し『セルパン』初代編集長を務めるなどした後、文筆生活に入った。 文中《Uという酒場》は相良よし子が経営していた「ユーカリ」であろう。相良はダンスホール・フロリ

          すると娘はカルメン風な服装をしてタンバリンを持って、テーブルの上につきたち巧みに踊りだすのである

          目の前を移って行く家々をぼんやりと眺めている時、実に不可解なことなのだが、一軒の二階の窓からライオンが首を出していた。

          武蔵美の学生だったとき、小平市鷹の台に住んでいた。中央線国分寺駅から西武線で恋ヶ窪そして鷹の台である。言うまでもなく、吉祥寺や新宿へ出る、または上野の美術館へ行くのも中央線を使ったわけで、中央線なくして東京生活は考えられなかった。 また親しくなった武蔵美の後輩が新宿歌舞伎町のどまんなかに住んでいた。そこが実家だったのだ。遊びに行って泊めてもらったときに驚いた。早朝、まだ明けきらないころに、ぞろぞろと駅へ向かう足音で目が醒めた。新宿で夜を過ごした人たちが帰って行くのである。寝

          目の前を移って行く家々をぼんやりと眺めている時、実に不可解なことなのだが、一軒の二階の窓からライオンが首を出していた。

          人間の思考のメカニスムを変貌させるものは、教義や概念や気質や意図や意志ではない。そこには愚かさがなければならない。

          シモーヌ・ヴェイユを読もうと思いつつどうも読む気になれないままでずっときたので、まずはその生涯を知っておこうと、たまたま目についたこの本『シモーヌ・ヴェイユの生涯』をもとめた。よくできた内容である。ヴェイユを読む必要はないかな、と思うほど。 師のアランの次のような言葉が引用されている。 ヴェイユはアランから大きな影響を受けたようで(アンリ四世校で高等師範学校進学の準備過程においてアランの指導を受けた)、例えばヴェイユの『超自然的認識』のなかには「無条件の愛は愚かさ[フォリ

          人間の思考のメカニスムを変貌させるものは、教義や概念や気質や意図や意志ではない。そこには愚かさがなければならない。