横光利一の『覚書』の装幀は佐野繁次郎である。初版は昭和10年に沙羅書店から刊行された。本書と全く同じ文字だけのデザインだった(50部の特装本もある)。内容は、「純粋小説論」を含む、身辺随筆と文学についての随想を集めたアンソロジー。
「純粋小説論」は本人もよく分かってないような書きぶりなので略するとして、読んでいてピカイチだなと思った「嘉村礒多氏のこと」を引用しておこう。以下全文。旧漢字は改めた。一行開きは原文では改行である。
なんとも嘉村礒多の一筋縄でいかない様子が手に取るように分かる描写ではないか。
嘉村礒多文庫
https://www.yamaguchi-pu.ac.jp/li/hm/siryo/
もう一篇、本書タイトルになっている「覚書」から、その四「(現実界隈)」の書き出しを引いてみる。
いわゆるパラパラ漫画(flip book)だ。写真を使ったものは、1894年にドイツ映画の先駆者であるマックス・スクラダノフスキーが初めて公開したとのこと(ウィキペディア「パラパラマンガ」)。横光は、このときまで知らなかったようだから、日本に入って来たのは昭和になってからだろうか。横光はここから「可逆性」ということについて考えを進めていく。なおグローブは伝説的な名投手である。