『彷書月刊』創刊号をいきつけの古書店で見つけましたので、もとめて帰り、久しぶりに目を通してみました。『彷書月刊』は完揃いを持っています。ですが、初期の号や珍しい特集の号は重複して買っておくようにしています。
創刊号の目次には由良君美、矢川澄子らの名前もあって改めて「ほほう」と思います。面白さでは「ききめ」という全集のキキメ(全集中で発行部数が少なく入手しにくい巻のこと)と結婚とを掛けたお話を語っている出久根達郎のエッセイでしょう。達人ですね。
ここでは松石純郎(久留米・松石書店)「五十銭の油絵」を紹介しておきたいと思います。友人Y君から聞いた話だとか。
山本茂樹氏はしょんぼりとした青木の様子がかわいそうになり、五十銭玉を紙にひねって投げ与えたそうです。
それから四十年が経った敗戦後のある日、この話の語り手Y氏は骨董の鑑定のために山本家へ呼ばれました。素封家は新円切替と財産税のため現金が必要だったのです。主人とY氏は土蔵へ入りたまたま青木の板絵を見つけました。
ありがちな展開です。しかしまだ続きがあります。さらに三十年たったある日。知り合いの骨董屋が「青木繁の油絵のあるが買わんの」と電話をかけてきて、贋物だろうと思いつつ見に行ってみると、それは某氏に横取りされた作品だったというのです。二つに割れたのを雑に補修してあったそうです。
値切った分以上に修復に費用がかかったでしょうね。三十年〜四十年でジェネレーションが交替する、そのときに個人像の絵や美術品は動き出すということなのだと思いました。最後に店主はこうしめくくっています。