幡野広志さんの原稿に隠された謎
僕がcakesで僕が担当している連載が書籍化されました。
といっても発売したのは2月です。幻冬舎の編集者・袖山さんにお声がけいただいて、書籍化にいたりました。売上もなかなか好調で、コロナ禍が起きる前は順調に伸びていました。いまはAmazon側の事情で書籍の在庫が補充されていないので、ぜひKindleか別のECサイトでご購入ください。
もちろん幡野さんの連載はいまも継続中です。昨日更新された記事も大きな反響を呼んでいます。まだ読まれていない方はぜひどうぞ。
命に関わる病気にかかり、5年後の生存率が五分五分以下の方からの「結婚するべきか?」という相談です。幡野さんの結論はタイトルのとおりです。ただ、その結論のあと幡野さんは「柔軟に考える力」と「自分で決定する力」について説いていきます。
僕が大好きなのはこの一節。
5年後は死んでるかもしれないけど、明日は生きるわけだし、今日を生きたわけです。今日をしあわせに生きて明日もしあわせに生きて、死ぬときまでしあわせでいいじゃん。なんで病人になってまでわざわざ不幸を選ぼうとしているの? それどんな修行スタイルよ。
幡野さんしか書けない、強くて優しくてユーモアもある回答は圧巻です。
あと、いつも素晴らしい写真とともに掲載されているんですが、今回の写真は特にすごいです。幡野さんの息子さんの優くんが持った花の写真と、幡野さんが持った同じ花の少し萎れた写真。これだけで、幡野さんが生を写し出す写真家だというのがわかると思います。もちろんちらかして正座してる優くんの写真も、たくさんの人が反応してくれた奥さんが撮った傘の写真も、素晴らしいですよね。
ところで、今回の相談を読まれた方にお聞きしてみたいのですが、相談者の性別って憶えていますか? ピンときた方は、幡野さんはどちらだとして相談に答えていたか、憶えていますか?
人生相談についての連載って、スタートする時に考えないといけないことがいっぱいあります。その一つが募集覧で、何を聞くかが大事なんです。年齢、性別、出身地、職業、以前「自己評価は高いほうですか?」という質問欄を作ったこともあります。要は、回答者にとっては、少しでも情報があったほうが答えを考えやすいんです。
今回の相談者の方は、幡野さんのお子さんの優くんと同じ名前の「ゆう」さん。それ以外の情報はありません。そして幡野さんの回答は、年齢だけではなく性別について一切触れていません。今回の回答が素晴らしかったこともあり、Twitterなどでたくさんの反響がありました。相談者に感情移入し、回答に感動している人もたくさんいました。
なのに、ほとんどの人が相談者の性別が明かされていないことに気づいていない。もしかしたら気づいた人もいたかもしれませんが、少なくともTwitter上で指摘した人はいませんでした。本来、人生相談の原稿としてはめちゃくちゃ不自然なことなのに、多分千単位で感想が届いているなか、本当にゼロ件です。そんなことある?(ちなみに相談も幡野さんが選んでいます)
これ、なんでだろうと思ったんですが、もしかしたら幡野さんが原則論として「柔軟に考える力」と「自分で決定する力」を説いているからかもしれないと思いました。根源的な考え方だから性別は関係ないということかもしれません。
幡野さんがどういう意図でこういう原稿を書いたのかは、あえて聞いておりません。なんなら幡野さんのことだから、何も意識してなかった可能性もあります。もしかしたらご本人が明かしてくれるのかもしれませんが、なにかの機会に直接聞けたら、またみなさんにもお伝えしたいと思います。それまで、連載と書籍を読んでお待ちください。