関西弁の料理長の教えはサイバーエージェントの選考でも通用するらしい
こんにちは。
私は"だいこれ"と言います。
元々は「大学生はこれを見ろ」という情報サイトを運営していたのですが、なんとなくTwitterで質問箱を始めたら毎日大学生からの質問に答え続けるマシーンと化しました。
普段は、大学生からの質問に答える傍ら、有料記事「就活で失敗しないための本質」を6,980円で公開して大学生から感謝のDMを頂いたりしています。
これもう分かんねえな。
さて、私は就活に限らず、DMで大学生からの相談に乗っています。
先日、こんな質問が届きました。
「良い皿洗い」とは、何か。
これはもうシンプルに「高級店の所作を教えてくれる皿洗い」です。
普通のお店と同じです。居酒屋でバイトしてる学生はお酒に詳しくなるし、ユニクロでバイトしてる学生は服を畳むのが上手くなる。
身につけた基本スキルは失われることがありません。
社内に差し入れされたチキンを吟味して持っていく社員は、ほぼ全員がケンタッキーでのバイト経験者です。彼らが身につけた「美味しい部位を見分けるスキル」は死ぬまで失われません。
そして、高級店は客側から求められるハードルが高い。
そのハードルを超える所作を「皿洗い(≒キッチンの雑用)」を通して教えてくれるバイトには大きな価値ががあるのです。
…と。
ここまで返事を書いていて、思い出しました。
そうやって話してくれた料理長の言葉を。
ある日、突然いなくなってしまった料理長の教えを、私は無意識にずっと大切にしていたのです。
今日は、関西弁の料理長が教えてくれた評価されるコツを、ひいては、
「面接で評価されるために、志望動機よりも自己PRよりも原体験よりも一貫性よりも大切なモノ」
の話をしたいと思います。
はっきり言って、1000文字で終わる話を10000文字にしてるので、お急ぎの方は「就活でも同じように考える」からご覧ください。
披露宴場の「皿洗い」をしていた
学生の頃、私は披露宴場の「皿洗い」のアルバイトをしていました。
説明するまでもありませんが、披露宴とは結婚式のあとに行う食事付きのパーティのこと。
ハレの場のため、コース料理は安いものでも1万円前後。
高いところだと2万円以上のコースを提供することもあります。
そして、私がバイトをしていた披露宴会場は「高いところ」です。結婚式の大半が土日祝に集中するため、シフトが少ない代わりに時給が高い。2つ目のバイトとして最適だったのです。
バイト募集の要項には「キッチン補助」と書いてありましたが、深く考えずに応募しました。考えるまでもありません。時給が高かったのです。
面接の日、私は白シャツに黒パンツで向かいました。
高級な披露宴場と言えど、裏口は簡素なものです。面接の時間まで少し時間があったので、少し離れた場所で待機。
約束の時間3分前、私は扉の前に立ちました。
インターホンもなかったので「失礼します」と声をかけて扉を叩きました。「どうぞ」の声に導かれて扉を開けると、50歳くらいのコワモテの男性が椅子に座っていました。
「あぁ、面接の子やな」
「はい。よろしくお願いします」
「僕はここの料理長です。え〜っと、そやな…履歴書見せてくれるか?」
私は、鞄からクリアファイルに入れた履歴書を取り出し、中身だけを手渡しました。
料理長は履歴書に目を落とすと、10秒もしないうちに口を開きました。
「うん…うん…次の土曜日から来れますか?」
「えっ、はい。大丈夫ですけど…」
「じゃあ採用で。隣の部屋にコック服あるから、サイズ選んで持っていって。洗濯は自分でして」
「もう採用で良いんですか?」
「ええで。こんなん長く話しても分からん。きみ感じ良いし採用で」
「えーっと…要項には『キッチン補助』って書いて合ったんですが、具体的にはどういう仕事を…?」
「ほとんど皿洗いや。君が使えるやつやったら、もうちょっと色々してもらうけどな」
そうして、私の披露宴バイトは出会って3分で採用されてスタートしました。
100人分の皿洗いをする日々
最初の2ヶ月は、本当に皿洗いをするだけでした。
披露宴場は一般的なところと比べても広く、100人分のコース料理を出すことも珍しくありません。
100人分の皿洗い。
大変です。ものすごく、大変です。
ここの皿洗いは2人1組で皿洗いを含めた「食器の片付け」をします。
1人が戻ってきた食器を軽く洗って食洗機のこっち側に入れる。
もう1人は食洗機のあっち側から出てきた食器を綺麗に拭いて棚に戻す。
披露宴が始まって終わるまでの2時間、その作業の繰り返しです。
そして、料理周りの雑用も私たちの仕事でした。
100人分もの料理、お皿を並べるのも大変です。披露宴場のお皿は見栄え重視で、ムダに大きくて豪華で重いのでちょっとした力仕事なんですね。
面倒くさいことはバイトに任せる。
すばらしき合理性です。ちくしょう。
さて、ここには「温蔵庫」と呼ばれる機械があります。
「冷蔵庫」の暖かいバージョンですね。
主に料理を温かいまま保管するための機械ですが、ここでは「お皿を温めておく」がメインの使い道でした。
いくらアツアツの料理を作っても、お皿が冷たいとあっという間に冷めてしまう。バイトをすると、世の中にはいろんな道具があることを知って楽しいですね。
13時に始まった披露宴。
コース料理の主役「肉料理」が出るのは14時です。その5分前に、温蔵庫から肉料理のお皿を出して並べておくのも「皿洗い」の仕事です。
13時55分にお皿を出す。
簡単なようで、それも皿洗いの大事な仕事です。
料理長、ブチ切れる
ある日のこと。
いつも通り13時55分に温蔵庫からアツアツのお皿を出していると、料理長が厨房の奥からカッ飛んできました。
「何しとんねんボケ!!」
「今日は披露宴押しとるやろが!戻せ!!!」
ブチ切れです。
高級飲食店なんてどこも少なからず厳しさがありますが、そういうレベルではない。純然たるブチ切れです。
披露宴が押してる(遅れてる)ので、いつも通りの時間にお皿を出すと冷めてしまうんですね。
もちろん、厨房の下っ端に弁解する権利はありません。
「13時55分に出せって指示が…」とか「流し台からだと進行なんて見えないんですが…」なんて言葉は接客の社員さんがくれた烏龍茶と一緒に飲み込み…。
アツアツのお皿は温蔵庫に戻します。
さっきも言いましたが、ここのお皿ってムダに豪華で大きくて重いんですよね。
女性スタッフなら10枚重ねて持てたら良い方。男性スタッフでも20枚以上は同時に持つなと言われていました。
その上、アツアツなのです。
温蔵庫から100人分のお皿を往復なんてしようものなら汗だくでクタクタです。
もちろん、お皿に汗が飛べば今度は殴られても文句は言えません。
細心の注意を払ってお皿を並べ直し、その日の披露宴は無事終了。本日の私の仕事もこれで終了…
…のはずですが、皆さん、ご存知でしょうか?
仕事で失敗をした時は、1つ仕事が増えるのです。
もう1度謝りに行く
謝罪は…二度刺すっ…!!
もちろん、料理長に怒鳴られた時点で謝罪はしています。
だけど、仕事でミスをした時は、
その場ではっきり謝る
帰り際にもう1度謝る
この2ステップを踏むことが大切なのです。
1度目は相手もヒートアップしているので収めるだけ。2度目は相手も落ち着いているので素直に聞いてくれる。ここで初めて「謝罪」が通るのです。
さぁ、謝りに行きましょう。
自分自身の好感度を取り戻しに行くのです。
料理長は事務所の2階で社長と何か話しています。流石に、わざわざ割り込んで話す内容でもないので、料理長が出てくるまで待つことにしました。
…なんということでしょう。
20分も経ってしまいました。完全にタイミングを逃してしまっています。片想いの男子の部活が終わるのを待つ女子高生の気分です。
さらに10分後、ようやく料理長が出てきました。
「何してんねん」
「今日、肉料理のお皿の件、すみませんでした」
「なんやお前、それ言うために待ってたんか」
「いや、正直こんなに待つつもりはなかったんですけど、社長と話してらしたのでタイミング失って…」
「まぁええわ。ちょっと厨房来い」
その日の料理長はゴキゲンでした。
これ、仕事できる人間にありがちなんですが、「怒り」を「人格」ではなく「言動」に向けてるんですよね。
だから、バイト中に私の「ミス(言動)」には怒っても、「私個人(人格)」に怒ってる訳じゃないので、仕事が終わればフラットに話してくれる。
加えて、職人堅気の人間はね、好きですよね。
こうね…謝罪のためにバイトが終わっても待っている健気な若者がね…。
さて、ゴキゲンな料理長、いろんなことを話してくれました。
ホテルでの経験、見習い料理人の待遇の悪さ、料理人はバイトの子にモテること。
そして、今日、どうしてあそこまでブチ切れて怒ったのか。
ざっくり要約すると、こうです。
「いや、だからそのタイミングを指示するのが社員の仕事では??」なんて言葉は飲み込みました。
ここから随分と私のことを褒めてくれたからです。
「え、入って2ヶ月ですけど、ずっと皿洗ってるだけですよ?」
大学生のときに、大人の仕事論を聞く機会なんてあまりありません。
私は、料理長の言うことをしっかり実践しようと思いました。
「当たり前を、当たり前にする」
そこからのアルバイトの方向性は決まりました。
「当たり前を、当たり前にする」です。
料理長が言っていたことは絶対に破りません。遅刻はゼロ、挨拶は1人1人に丁寧に行い、温蔵庫からお皿を出すタイミングは毎回確認することにしました。
1度、社員のミスで温蔵庫の中にお皿が入ってないことがありました。
その時は「アツアツの熱湯にお皿を沈めて水分を拭き取る。ただし、両手は火傷する」と言う地獄のような対策で乗り切ったため、二度と同じ地獄を味わわないように、温蔵庫にお皿を入れる作業も私が担うようになりました。
接客の社員とも積極的にコミュニケーションを取るようにしました
すると、進行の状態を常に教えてくれるようになったので、忙しい時間と暇な時間のメリハリが分かるのです。
暇な時間は厨房の奥まで近づいて、
「何か手伝うことありますか?」
とコックさんに聞いて回りました。
…程なくして、私は「使えるやつ」になりました。
料理長は私を採用するときに言っていました。「君が使えるやつだったら、いろいろなことをしてもらう」と。
仕事内容が皿洗いから一気に広がりました。
調理補助をしたかと思えば、料理長付きで客前に出ることも増えたのです。
「普通に他のコックさん連れて行った方が良いじゃないんですか?」
「アホ!おっさん2人は絵面が悪いねん!!『シュッとした若い見習い』みたいなん連れといた方がウケがいい!」
そして、料理長の指導は相変わらずでした。
「そこ?」みたいな細かいことで毎日怒鳴られていました。
でも、ケーキの取り分けが下手でも「しゃーない。最初はそんなもんや」ってあんまり怒られない。
不思議でした。
でも、これも温蔵庫の時と同じ理屈だったんです。
評価されるとき、みんな「特別なモノ(≒こだわり)」で勝負しようとする。
でも、「特別なモノ」は2つの意味で不安定なんです。
1つ目の不安定は「受け手の価値観」です。
こだわりの牛肉、塩加減、一晩寝かせたソース、抜群の味付けを本当の意味で「理解」できるお客さんがどれだけいるでしょうか。そもそも、特別なモノを求めているのでしょうか?
2つ目の不安定は「単体での弱さ」です。
正しいタイミングでアツアツのお肉が出てきて文句を言う人はいません。そこに抜群の味付けがあれば最高。でも、ヒエヒエのお肉に抜群の味付けがあってもクレームが殺到します。
「特別」は「当たり前」があって、初めて評価される。
それどころが、「当たり前」だけでも多くの人は認めてくれる。
そして、私に怒鳴ることも毎回同じ理由です。バイトが「ケーキカット」や「盛り付け」などの技術を要することは失敗しても仕方がない。
でも、「姿勢」や「服装」は気をつければ100%対策できる。
そんな「当たり前」が出来てないのは、私の怠慢です。
だから、料理長は怒鳴るのです。
料理長は何度も言っていました。
就活でも同じように考える
さて、思い出話が長くなりました。
ここからは皆さんお待ちかね、就活の話です。
ここまですっ飛ばしてきた人のために、料理長の金言をもう一度。
この言葉を踏まえて、見てほしい動画があります。
タイトルは、
「サイバーエージェント内定者の最強面接を公開します」
です。
現役の社員と、内定学生のやり取りを公開してくれています。
「サイバーエージェント」って名前出してるのが強いですね。サイバーエージェントが認める面接内容ですから「良い面接」の指標になるのは間違いありません。
さて、時間があるなら全部見れば良いんですが、とりあえず今は1分だけ。
「ベンチャーに絞って就活をしている」という学生に対して、面接官が「どういう軸で就活されてるんですか?」と定番の質問を問いかけるところです。
1:36から自動で再生されます。
2:15までの約40秒を見てください。
どうでしょうか?
修士2年ということもありますが、新卒の就活生とは思えない堂々たる受け答えです。事実、この学生はサイバーエージェントの内定をゲットしています。
「就活の成功者」であることは間違いありません。
では、改めて会話内容を文字に起こして振り返ってみましょう。
………
………
お分かりでしょうか?
全体で見れば「軸は何?」「~という軸にしています」で成り立っているように見えますが、途中の質疑は明らかにズレています。
ズレてるどころか「どういうところで活躍できる?」って面接官の質問ガン無視してるんですね。
この学生、すごいんです。
全体的にずっとこんな感じなんです。
ハキハキと明瞭に答えてるのに、内容はちょっとズレてる。
この後もおもしろい。
「勝ち切る文化が大切」と答える学生に対して、面接官は問いかけます。
「就活の軸は、勝ち切る文化があること」
「勝ち切る文化とは、利益を上げること」
…それ、何も言ってないのと同じなんよ。
どの企業も、利益を上げないとやっていけないのよ。
「当たり前」だけで評価される
勘違いしないでください。
私は、この学生をバカにしたい訳ではありません。
むしろ、全力で褒めたい。
ここまで「当たり前」を高レベルで実現してる学生はなかなかいません。
では、面接での「当たり前」とは何か?
料理でも面接でも「当たり前」は『受け手が誰でも認識できるところ』だと考えてください。つまり、
『外見』と『話し方』です。
ついでに言うと「特別なモノ」は『話の内容』です。
清潔感のある見た目で、表情や手元に動きがあり、ハキハキと自信満々に話す。あと、絶対にこの学生は帰ってからもお礼メール送ってる。で、次会ったときの一言目は「先日は撮影ありがとうございました」って挨拶してる(偏見)。
でも、そういうところなんです。
そういう「当たり前」が出来ていると、企業側は安心するんです。
「どこに出しても恥ずかしくない」と。
この「どこに出しても恥ずかしくない」は、新卒就活においてめちゃくちゃ大切な要素です。
日本の新卒就活は「メンバーシップ(仲間)雇用」と呼ばれています。
業務や勤務地を限定せずに雇用を行い、1人の社員が様々な仕事を行う。それ故に、その場の能力よりも「人柄」や「コミュニケーション能力」が重視されます。
対極にある「ジョブ型(職種別)雇用」も広がりを見せつつありますが、日本の新卒就活においてはまだまだ少数派です。
そんな日本において、動画のような学生は強い。
多少、話の内容がズレていても、笑顔でハキハキと受け答えが出来る。
きっと、この学生は営業でも、人事でも、新規事業立ち上げでも、どこに配属されてもぬるっと馴染んで仕事をしてくれます。
もちろん、
「当たり前が出来ていて、特別なモノを持っている」
そんな学生がいればベストです。
でも、仕事に従事したことのない学生の中で、社会人視点から見て本当の意味で「特別なモノ」を持っている学生は非常に稀です。
だから、新卒就活の面接においては、
「当たり前が、当たり前にできる学生」
がものすごく重宝される。
それさえ出来ていれば、サイバーエージェントの内定だってゲットできる。
このあたりは就活の本質にも通じる話ですね。
就活には「本質」で向き合い、面接では「当たり前」を意識すれば間違いありません。
ちなみに、サイバーエージェントの社員さんには最後にしっかり突っ込まれてますね。
ただ、それでも全体的な評価としては、
こういうことなんですね。
ある日、料理長はいなくなった
最後に、料理長との別れの話をします。
披露宴場のバイトに入って1年ほど経った、ある日のことです。私はいつも通りコック服に着替えて、厨房に入りました。
すると…
シフト表には料理長の名前があるのに、厨房に料理長の姿がないのです。
私は、代わりに入っていた社員に話しかけました。
「今日って料理長じゃないんですか?」
「あー、何か辞めたらしいよ」
そんな急に?
シフトに名前が残ってるようなスピード感で正社員が辞めることある??料理長なのに???
社員の方は理由を知らないらしく、話はそこで終わりました。
どうしようかと思っていると、偶然にもバイト上がりに社長にばったり。
どうして。
厳しいところもあったけど、仕事への真面目さと技術、経験はぶっちぎりだった料理長が、どうして…!!
社長は、料理長が辞めた理由をあっさり教えてくれました。
…へぇ。
はぁ…。
はい…。
それは…仕方ないですね…。
おつかれさまです…。
事務所を出ると、あたりはすっかり暗くなっていました。
なんだかすぐ帰る気にもなれず、私は、自転車を押して河原を歩いていました。
頭の中では、料理長の、あの言葉が…。
何度もこだましていました。
やかましいわ。
あとがき
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また、全ての大学生に読んで欲しい「就活の本質」は以下で紹介しています。