見出し画像

ある閉ざされた中年の感想で

-----------
※こちらの文章には映画「ある閉ざされた雪の山荘で」の内容に触れる箇所がございます。これからの鑑賞を予定され、既知である事を避けたい場合は、御覧いただくことをお控えください。
-----------

あくまでも個人の感想なので、
これからの鑑賞の参考にはならないと思います。

「ある閉ざされた雪の山荘で」
原作:未読
東野圭吾:いくつか読んだレベル

「予告が刺さった」

ある意味、これだけで説明は完結してしまう。

20代の前半、小劇場系の劇団をポチポチ観て
「ああ、楽しき世界よ」なんてやっていた身にとっては
設定に「劇団」とかあるだけで十分にワクワクは
させられてしまうのである。

舞台:山荘
シチュエーション:次期公演の主演オーディション
参加メンバーは7人、劇団内俳優が6人で外部参加が1名
当初は、外部参加者の1名が容疑をかけられるが、途中から
ストーリー進行と謎解きポジションを担うことになる

で、劇団主催からの指令を受け、参加者はこの山荘で
【仮想の密室殺人サスペンス】への参加・演技をしながら
自身の役割を果たし、存在感を示せ、との内容だ、という展開。

ええ。舞台背景が劇団オーディションなだけに何とも
どこかの劇団向けな空気w

これが、当初は「仮想シチュエーション」だったはずなのに

「これはもしかしたら、本当の殺人がおきているのでは?」
「これはオーディションに見せかけた計画殺人なのでは?」
「これは、誰の企みなんだ?」

と表読みと裏読みが重なり合い、それに合わせ、参加メンバーには
各人に主演を目指す以外の思惑や、関係性が裏にある事が明かされ
「オーディションなのか?」「本当の殺人なのか?」の
混迷は深まっていく…

そんな展開なのですが…
まず大まかなところから。

【以下、ネタバレです】
【ほぼラストに向けての壮大なネタバレです】
【未鑑賞で視聴予定の方は必ず避けてください】

このお話、物語が多重構造になっており
結論込みで先に書いてしまうと

1.「劇団の主演決めオーディション」
2.「仮想シチュエーションに見せかけた計画殺人」


に加えて実は「2」が

3.「実は計画殺人は、依頼者と実行者が別人であり、
  依頼者を罪びとにしないために、実行者が画策した
  狂言殺人であった」


に加えて(まだ加えるのかい)

4.「…というこれまでのエピソードをラストで舞台上で演じている」
(これについてはメインストーリーを受けて、結果として
 その後に登場人物が演じているとも取れるし、実はこの
 舞台ありきで、エピソード創作の過程が今回のストーリーの
 形を取って語られた…と強引に受け止められなくもない)

多重構造なので、かいつまんでも
ややわかりづらくなりますが…

A:「劇団内オーディション」
⇒次回公演の主演決め

B:「設定環境を利用した計画殺人」
⇒参加メンバー間に複雑な関係性があり
 殺人がおきても仕方がないと思っているような設定
 前半は参加メンバーの誰かが犯人では?の疑い合いで進む

C:「実行者による狂言殺人」
⇒ 実は<劇団員>には後ろ暗い過去があり
  殺人の首謀者が、そこにはいない誰かである示唆が入り
  現場での実行者は、その協力者であるとの展開になる

一旦、前述の「4」は置いておくのですが、

Bは単純に、微妙な妬みや嫉妬、恋愛感情のもつれや
なんやかんやで、劇団内で「殺人がおきてもおかしくない」
(本気かw)関係性があり、まあ仮想密室山荘という
後押しもあってか、容疑のなすり付け合いが繰り返される

これは設定上仕方がないので「それ?殺すほど憎い?」とか
無粋なことは言わず、受け入れるしかない。

で、問題となってくるのはB⇒Cである。
可能な限り短く書くと、

この劇団には、他の追随を許さないほどの実力である
女優が1人いた。今回のオーディションの事前審査にも
参加しているが落選し、それを機に役者の道を諦め(ようとす)る。

この女優に対し一部の劇団員が、ほんのイタズラ心で
からかい、嫌がらせをし、その事がきっかけで
彼女は交通事故に合い、半身不随となり、自身の決断ではなく
役者の道を断念させられる。

この部分が、前述の劇団員が抱えている後ろ暗い過去なのだが、
彼女が今回の計画殺人の黒幕であり、参加者の中に彼女の協力者がいて、
話の展開はCへと移行していく。

結果として、計画殺人は成功したかのように見えたが、
その協力者は、彼女が罪びとになることを防ぐため
協力を装って、参加者全員に狂言殺人を演じさせて
彼女の恨みは果された…とみせかけようとしていた。

ですが、外部参加の主人公が、全ての謎を解き明かし

「協力者は首謀者へ、絶望せずに生きろ」と解き
「劇団員は彼女に詫び」倒し受け入れられ?
「彼女は、また役者に戻ろう」と思い直した?

…という内容を披露していた舞台上で、
「これは(という)ストーリーを舞台上で披露していました」の
形でエンディングという構成なのですが…

(後半の描写の手抜き感よw)

自身(私)の消化し辛かった点を書くがためだけに
随分と回り道しましたが、

「仮想シチュエーションでのオーディション」
「それが実は計画殺人の舞台」
「その舞台は、罪びと救いのための狂言殺人」
「後日譚的な舞台化のラスト」

端的に素材がまとまった所で、吐きましょう。
私だって、そこにケチを付けるのはフィクションでの
お約束に反しますよ、の線引きは心得ているつもりです…

確かに「女優が主役を勝ち取るために劇団主催と寝た」とか
「劇団協賛企業の娘が、毎回役持ち」とか、実際の劇団だか
どこかの業界でもありそうな胸糞エピソードを散りばめて、

「本当に実力がある者よりも、賢しい者が選ばれる世界」

という環境です、と言いたいのはわかるのですが、
彼女は今回の事前審査の時だけ、突然変異で輝いたのでしょうか。

「最後にかけたから?」
「追い詰められて覚醒したから?」

あれだけ「物凄い才能が光を放っている感」を描いていて
「ちょっと不運でした」とか「今回のみの主催のきまぐれでした」
とか「所詮はデキレースなんです」と、彼女の落選は受け止める
べきなんでしょうか。

それでは、負の感情の消化がきかないといいましょうか。
「頼む。彼女の落選にもっとちゃんと理由付けをくれ」
なんですよね。一応ここが全ての発端なんだし。

「劇団主催は非常にクソであった」
「人気劇団とはいえ、コネが蔓延るクソ環境であった」
「彼女を陥れるクソ劇団員がまわりを固めていた」

なんでもいい。何かないだろうか。
ここから始まる(一応)悲劇のヒロインの
気持ちのきっかけになる「不条理な落選」の理由。
ここは観る側が埋めるか、自己消化するべき所なのでしょうか。

これより落選して絶望する彼女。
その後、追い打ちをかける心ないイタズラ。
それにより。身体も絶望の底へ。

何かね。そこまで重たくない軽い感じで
劇団員は彼女にイタズラするんですよ。

「明確な彼女の芝居力への嫉妬や嫉み」や
「それ以外に団員間の痴情のもつれの怨恨」なども
あまり感じさせず、わりとかるーく嫌がらせし
彼女は事故に合い半身不随へ…。

で、彼女は殺したいほどに彼・彼女らを恨み
今回のストーリーに進行して行くわけです。

自分の文章力の無さが歯がゆいですが
以下の解釈はわかっているつもりです。

「関わった団員は、事故の事を心底悔いており(本心は)
 とてもじゃないが今回の二次オーディションどころではない」

「だが、狂言殺人を引き受けた協力者から、彼女の無念を
 晴らすため(晴らした形にして罪を被せないため)に
 強制的に狂言への参加を強いられた」

(要するに表面で見えている当事者たちは結局最後まで
 【演技】をしている人間を我らは観ているのだ、的な)

この構図である程度の自己消化をしなければいけないのは
わかってはいるのですが…

このストーリーだと、負の感情を担う矛先というか
(余り横文字表現に頼りたくないのですが)ヘイト対象がいない
のがどうにも消化不良でして。。。

もっと明確に

「劇団員は彼女に猛烈な嫉妬心があり、
 明確な意志で嫌がらせを図ったが、事故に発展するのは、完全に
 想定外であり(表向きは狂言参加のために悪人を継続しているが)
 実際は、懺悔・贖罪の機会を希望していた」

とか、何らかの彼女が計画殺人に至る、強い負の感情の源が
ないと「割と突発的に仕上げた浅慮なイタズラ」が元凶になり、

「いや、気持ちはわるんだけど、起点が不慮の事故みたいに見える…」
「いや、本当にアノ性格悪な女優だけ八つ裂きにすれば?」
※彼女の事故の原因は、基本的にとある1人の女優による所が大きい

が、引っ掛かり続けるばかりか、
ラストでは、狂言殺人が明るみになり、彼女は協力者を詰るが、
協力者はそれでも生きろと解き、責任者wの女優の詫びは、受け≪取られ≫

(最後の最後のラストで「これから時間をかけて…」的な下りが
彼女と女優の間であるので「受け≪入れられ≫」とはしない)

この長い物語は、ストーリーテラーであり、謎解き担当であり

「お前がいなかったら彼女が後日、罪の意識に苛まれたかは
正直わからないが、ひとまず復讐は果された形になり、気持ちは晴れ、
罪に関わった連中は業界から足を洗い、コッソリと隠れて生き、
それはそれで、現実的な落着だったのは?」

と専らの噂である主人公により脚本化され、
今回の登場人物がこれまでの物語を舞台上で演じている…

…という…大団円…だいだ…え……

で「う…うぅぅん(:゚Д゚)」という気持ちになってしまう。
「皆、一体何に納得できているんだろうか?」という気持ちに…

シチュエーションもシチュエーションであり
サスペンスである本作に、その辺りの充足を求めるのは
お門違いなのかもしれない。。

不幸に見舞われた彼女にも、その協力者にも
諸々の劇団員にも、主人公にですら
どこかのタイミングでの、大袈裟に言えば「共感」部分が
しっくりくる瞬間はなかった。うん。なかった。

「四重構造展開」
「映画視覚的な複数構造感の表現」
「劇団オーディションという我好設定」

それらは、表面的なエンタメ要素は強く
瞬間的な華やかさはあり、気づきの瞬間の鮮烈さはあるが
綿密で濃密な連鎖は薄いので、満足感での反芻は難しいのかも…

と小難しく書こうかと思ったが、映画鑑賞後に
自分で書いた短文の感想が一番しっくりくる気がする。

「どこかテーマパークアトラクションのような映画でした」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?