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大吉堂読書録・2024年8月

『この本、おもしろいよ!』(岩波書店編集部編)
各界で活躍している人が、若者に勧める本の数々。
紹介される本はほぼ小説。三村美衣さんが執筆者に入っているため、当時(2007年)のライトノベルの流行が追えるのも面白い。
勧められることで新たな出会いもある。それがブックガイドの楽しさ。

『長浜高校水族館部!』(令丈ヒロ子)
テレビなどでも度々紹介される、実在の部活動を元にした青春物語。活動内容や実績は、そのままだからすごい。
好きだから頑張れる。好きだから悩む。生き物相手だから思うようにいかないし、誰かと自分を比べてしまう。
仲間とともに進む部活ものの面白さも堪能できる。

『君たちが生き延びるために』(天童荒太
作家・天童荒太が若者にメッセージを送り、若者の質問に答える。
実直で真摯な言葉が胸に響く。ルック・アット・ミー。私を見てと求める権利は誰にもある。逃げてもいい場所から、逃げたくない場所へと進む。
好きを追えば、あなたのための場所に着く。

『折れた竜骨』(米澤穂信)
12世紀イングランドの架空の島が舞台、しかも魔法あり。そこでしか描けない本格ミステリの素晴らしさ。
マジックからロジックへと、流れるように繋がる美しい展開。理詰めで犯人を特定する鮮やかさ。
キャラクター造形も魅力的で、完全無欠な読後の満足感。

『満月を忘れるな!』(風野潮)
満月の日に猫に変身しちゃう男子中学生の青春物語。
表現や考え方の一部に、時代を感じさせるところもあるなと思いつつ(2003年刊行)も楽しく読みました。
が、まさか続きものだったとは。物語はひと山超えつつ、まだまだ問題山積み。はてさてどうなるか。

『科博と科学 地球の宝を守る』(篠田謙一)
「科学を文化に」科博(国立科学博物館)の館長が語る科学とは、博物館とは、科博とは。そしてあのクラファンのこと。
ものすごく面白く興味深い内容。これは博物館や科学に興味のない人にこそ知ってほしい内容。
興味を持つことが、地球の宝を守る。

『図書室の怪談 悪魔の本』(緑川聖司)
図書室で見つけた黒い本。そこに書かれている怪談の現象が、現実世界にも現れた。
本の怪談をそのまま読むことのできる構成。怪談はしっかりと怖いが、厭な気持ちにさせない巧妙なバランス。さすが長年児童書で怪談を書かれていた作者の面目躍如たる手腕。

『少女小説とSF』(日本SF作家クラブ・嵯峨景子・編)
何とも贅沢なアンソロジー。少女小説のSFの限りなき広大さを思い知り、確かにこれは居場所を希求する物語たちだと息を飲む。
何よりも嵯峨景子による解説とコラムで、このアンソロジーは一体を為して形作られているのだろう。
収録作家は、新井素子、皆川ゆか、ひかわ玲子、若木未生、津守時生、榎木洋子、雪乃紗衣、紅玉いづき、辻村七子。
一人を除いて読んだことのある作家ばかり。それぞれの個性が光り、巻末のコメントに嬉しくなります。
そして初めて接する作家の作品に一番惹かれました。これぞアンソロジーの醍醐味。

『旅するウサギ』(竹下文子)
こんどはどんな旅になるだろう。少年の旅の様子を描く掌編集。
大きな出来事は起こらない。いや、旅する本人にすれば、どんな出来事も大きなことかも。少しだけ不思議な世界観も素敵。
大庭賢哉による旅のスケッチも素敵。何度もぱらぱらと繰り返し読みたくなる本。

『私立探検家学園4 地下迷宮のわすれもの』(斉藤倫)
前回のラストから続く大活劇の爽快さ。
特殊な異能の持ち主でない、子どもたちの必死の行動。物語は大きく動き出す。
みんな何事に対しても真摯なのですね。物事にも他人にも、自分の気持ちにも。だからラストでのコロンの決意に心打たれる。

『カイタン 怪談師リン』(最東対地)
怪異に巻き込まれ消えた妹の手がかりを求めて、女子高生リンは怪談師の元に行く。
怪談イベントでの様子や、実話系怪談の現場に赴くという展開から、怪談の構造や面白みが見えてくる。
キャラクターのやりとりも楽しく、怖いだけでない魅力のある作品。

『白銀騎士団』(田中芳樹)
20世紀初頭の英国が舞台の冒険活劇。
久々に読んだ田中芳樹の新作は、軽口の応酬や合間に挟まれる豆知識的エピソードなど、いかにもな要素が実に楽しい。
しかし事件自体と悪役がしょぼい。脱線寄り道の方が楽しい。もっと大きな事件を舞台に暴れ回ってほしいなあ。

『星の旅人 伊能忠敬と伝説の怪魚』(小前亮)
伊能忠敬の蝦夷地測量を、同行した少年の目を通じて語る。
合間に解説コラムを挟み、当時の様子や測量の方法なども示す。
地道であるが故に奥深く、そこに魅力を感じさせるのは少年視点ならではかも。行方不明になった父の安否を探る物語も面白い。

『サエズリ図書館のワルツさん2』(紅玉いづき)
本が貴重な文化財となった世界での、私設図書館を舞台にした物語。
図書修復、電子書籍、本を残すということ。様々な形での本への想いや愛憎や執着。
静かに、でも内に沸々と滾る想い。それは図書館という場所ならではかも。嗚呼、本が好きだ。

『オバケがシツジの夏休み』(田原答)
オバケと友達だったり主従関係となる話は多くありますが、ここまでオバケが性格悪く自分勝手で面倒ばかり起こすキャラなのも珍しいかも。
それでいて何となくどことなく憎めない。そのバランス感覚の妙技が見事です。とことんノリが良くて楽しい物語!

『魔法の庭へ』(高木理恵子)
妖精界の時間がおかしくなった。なおすことができるのは魔法が使える人間だけ。ナナミは妖精のクーと使い魔のコウモリ・カゲルと共に旅立つ。
ファンタジーの世界描写や道具立てが素敵で、物語世界にスッと入っていきます。それは読書の楽しさに繋がるのでしょう。

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