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大吉堂読書録・2024年9月

『学芸員しか知らない美術館が楽しくなる話』(ちいさな美術館の学芸員)
美術館は好きですか? 現役学芸員が、展覧会ができる流れや学芸員の仕事や美術館の楽しみ方を、わかりやすく楽しく語る。
もっと気軽に美術館を楽しむために。もっと気楽に美術と付き合うために。
さあ美術館に行こう。

『ぐるぐるの図書室』(工藤純子、廣嶋玲子、濱野京子、菅野雪虫、まはら三桃)
図書室の前の茜色の貼り紙を見た子らが、本を通じて不思議を体験する。というテーマに沿ったアンソロジー。
何せ好きな作家さんばかりだから、それぞれの持ち味を堪能して楽しく読みました。巻末の座談会も楽しい。

『ビースト・クエスト1 火龍フェルノ』(アダム・ブレード、浅尾敦則・訳)
村の少年が選ばれて旅立ち仲間と出会い火龍と対決し呪いを解く。
それが一気呵成に描かれる。面白いとこだけギュッと纏めました!という感じがすごい。
大庭賢哉による挿絵が、表紙絵と異なる世界観を醸し出すのも素敵。

『大江戸神龍伝バサラ!1龍、覚醒せり。』(楠木誠一郎)
江戸時代にタイムスリップしたさくらは、不思議な少年婆娑羅丸と出会う。
徐福伝説に陰陽師に妖怪に秘められた力。面白い要素てんこ盛り。
ここで仕込まれた種は、後の読書で花開くこともあるでしょう。それもエンタメ系児童書の面白さ。

『震雷の人』(千葉ともこ)
中国唐代安史の乱を舞台にした武侠小説。地方の軍隊長の兄と武芸に秀でた妹、文官を目指す青年、三人の怒涛の物語。
運命という濁流に飲み込まれるも流されず、悪い流れに抗い、己が道を見つけ出し進んでいく。とてつもない面白さ。
采春(妹)のカッコ良さに痺れる!

『まちの映画館 踊るマサラシネマ』(戸村文彦)
塚口サンサン劇場では、映画上映時にみんなで声を上げ踊り紙吹雪が舞いコスプレし楽しむイベントが行われる。劇場スタッフ、来館者、町の人、みんなで楽しむ。それが映画館の魅力。
正直なところ、僕が映画館に求めるものとは違うが、素敵な取組みだと歓声を上げる。

『どろぼうのどろぼん』(斉藤倫)
どろぼんには、ものの声が聞こえる。そこにいたくないというものの声。だから他人の家に忍び込み、ものを盗み出す。
静かにじわりと染み込んでくる言葉。現実感がないようで、しっかと目の前にあるような感覚。
本を読む楽しさ、物語の面白さが詰まっている。

『三日月邸花図鑑 花の城のアリス』(白川紺子)
江戸時代に造られた庭から来た不思議な少女、植物の名を持つ人たち、月の満ち欠けを表すもの、庭に秘められた謎とは。
硬質な文体により庭の持つ美しさと神秘さが際立ち、不思議な現象もするりと飲み込む。
謎の重なりが解ける瞬間が美しく悲しい。

『郵便配達マルコの長い旅』(天沼春樹)
南の島の郵便配達マルコは、ワラビーの手紙をロンドンの動物園まで配達することに。
ほのぼの楽しいお話。ボート、ラクダ、気球などなど様々なものに乗って遠くロンドンまでえんやこら。
出久根育による挿画も相まって、素敵な物語を堪能しました。

『ローラ・ディーンにふりまわされてる』(マリコ・タマキ・作、三辺律子・訳、ローズマリー・ヴァレロ・オコーネル・画)
青春グラフィックノベル。17歳のフレディは同性の恋人にフラれては縁を戻すを繰り返している。
多様な価値観が認められた社会では、自分の価値観をしっかりと持つことが生きるために必要となるのだろう。
イマドキのアメリカ・カリフォルニアの若者の姿を描くときに、「多様性」は避けられないどころか、当たり前のものだということに衝撃を受ける。その上で古い価値観や新たな問題との衝突も描かれる。
画面構成も素敵で、様々な「今」を見せられる。

『SF作家はこう考える 創作世界の最前線をたずねて』(日本SF作家クラブ・編)
現在SF作品はどう生まれているのか。
新人賞やネットでの発表や同人誌だけでなく、企業と結びついたSFプロトタイピングまで紹介されていて興味深い。
SFを取り巻く環境自体が、SF的構造を為しているのが面白い。

『日本扇の謎』(有栖川有栖)
僕にとって有栖川作品は「本格ミステリの魅力とは何か?」の答えを具象化したものなのです。
海岸で発見された青年は記憶を失くしていた。所持品は扇のみ。
冒頭部から引き込まれ、謎が提示され、人々の話を聞き、真相へと辿り着く。その流れの美しさに魅了される。

『魔法のほね』(安田登)
能楽師の安田さんによる児童書ということで手に取る。
中国の古代文字の成り立ちについて描かれたファンタジー。学習まんが(〇〇のひみつ)のようなノリで、知識と冒険が組み合わされていて面白い。
心とは未来を考える力。文字により考えを人に伝えることができる。

『だから見るなといったのに 九つの奇妙な物語』(アンソロジー)
前々から気になっていた作家も多く、そこに安心安定の作家作品もあり、これがアンソロジーの面白さだよなと喜び手に取る。
まさにタイトルが示すような「見てしまった」ことによる奇妙な味わいが、ざらりとまとわりつく。怖いだけでない感情がわき立つ。
収録作家は、恩田陸、芦沢央、海猫沢めろん、織守きょうや、さやか、小林泰三、澤村伊智、前川知大、北村薫。ビジュアル作品もあり、バラエティに富む。

『マイクロ・ライブラリー図鑑』(磯井純充)
私設図書館に興味があるので読んでみる。
様々な規模、目的、やり方、などが提示されていて面白い。本が中心にあるのか、人との繋がりの役割として本があるのか。
YA図書館をやりたいという想いが膨らむ。やりようは色々あるなと背を押される気持ち。

『ジェリーフィッシュ・ノート』(アリ・ベンジャミン、田中奈津子・訳)
仲違いをした親友が海で亡くなる。その死の原因はクラゲだと調べてみることにした。
変わっていく幼馴染、話の通じない級友、取り返しのつかない行動、口をきくのをやめたスージー。
喪失と向き合う物語。人はみんな悲しみ方が違う。

『苦手から始める作文教室』(津村記久子)
作文が書けたらいいことがある? 
作文とは未来の自分に対して書くこと。メモの取り方、テーマの決定、書き出し、いい文章とは、などなど実例を挙げて具体的に述べられている。
学生を念頭に置いた語り掛けが功を奏し、テーマを体現する構成も素敵。

『あるいは誰かのユーウツ』(天川栄人)
中学2年。変わっていく体、ままならない心。
声、生理、体毛、胸の膨らみ、性被害、恋愛、性体験。隠すべきものとせず、誤魔化さずに真正面から書く。それもYA(児童書)の大切な役割なのだろう。
語り手がリレーする連作短編集。物語の厚みも楽しい一冊。

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