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【読書感想文2】まぐれ

曰く、

・私はこのような方法で莫大な利益を獲得した!
・僕のこの投資法を実践すれば、月に10万円の利益がほぼ確実に手に入ります!
・成功者たちの行動には共通点があった!それは…

YouTubeの広告が最近こんなのばかりで辟易している。楽してかんたんに儲かる方法知りたいですよね?お金と個人情報をくれれば教えてあげますよ!というやつだ。あぁ、碌なもんじゃない。

ここ30年間実質賃金は上がらず、その結果我等庶民は、自身と家族を守るため誰もがもっと収入を得ようとか、副業で一発当てようなどと願うようになった。上記広告はそんな現実をめざとくマーケティングした姿なのだろう。

ありし日の姿はどこへやら。日本経済はながらく低迷し、Japan as No.1と言われた時代があったことも幻だったのではないかとおもわざるを得ない今日この頃。

そうした願いにつけ込むように、冒頭のような謳い文句で誘惑してくるさまざまなお金儲けの方法論たち。
書店の平積みコーナーに陣取ることもあれば、ネット広告でお目にかかることもあり、とにかく5分に一度は脳に訴えかけてくる。

「こうすれば、経済的な成功が得られますよ!」

と。

そうした言説に、著者タレブはあっさりと、そしてはっきりと断ずる。

「それって単なる偶然ですよね?言ってるあんたもバカだし、乗っちゃうあんたもバカだよ。」

と。

下品な語り口だけれど、タレブはいつもこんな感じだ。タレブ自身は本書の冒頭で(割と上品に)こう語っている。

そういうものは運がいいだけのバカという姿で現れる。つまり、分不相応に幸運なおかげで成功したけれど、自分の成功は、何か他の、だいたいはとても具体的な原因のおかげだと言う人たちだ。

『まぐれ』プロローグ p.5

僕はというと、自分の人生がいかに偶然によって成立しているか、ということを痛感している人間で、この本を読んだときに「この人は僕のために本を書いたんじゃなかろうか」とちょっと笑ってしまった。別に成功している人たちのことを(できれば自分もそうなりたい)、そして簡単にお金稼げます方法論に乗っかってしまう人たちのことを(気持ちはとてもよくわかる)、バカだと思っているわけではなくて、ただ単に、なんとなく自分ではうまく言葉にできなかったことをこの本が拾ってくれている気がしたのだ。

というわけで、今回の読書感想文は、ナシーム・ニコラス・タレブの『まぐれ』を取り上げることにする。

タレブといえば、言わずと知れたあの『ブラック・スワン』の著者である。ただ、この本の原著はブラック・スワンが書かれるよりもずっと前の2001年に出版されている。リーマンショックとの関連でブラック・スワンが取り沙汰されることの多いタレブだが、彼の基本的な主張はブラック・スワン以前も以後も基本的に一貫していて、「稀な事象(ブラック・スワン)は常に起こりうる」ということだ(なお、『ブラック・スワン』もリーマンショックよりも前に刊行されており、リーマンショックが起こったことで逆に注目を集めた)。『ブラック・スワン』ではこの「稀な状況は常に起こりうる」ということを幅広く直接的に取り上げているが、この『まぐれ』ではもっと株取引やトレードの現場で起こることなどに焦点を当てて述べている。

僕は、タレブの本が好きで大体全部読んでいるが、どの本でも彼が主張することは大体いつも同じ。つまり、「偶然が果たす役割をもっと重視せよ」ということだと思う。僕は、この「偶然が果たす役割」を人生で最も重要なことの一つと考えており、自分の生き方においても常に意識するように心がけている。

タレブを知ったのは、『ブラック・スワン』が刊行された後のことだった。まだ大学院生だった2008年にAmazonでブラック・スワン英語版のペーパーバックを購入して読んでみて、ニコラス・タレブという著者に興味を持ったのだった。その後のレコメンドでこの『まぐれ』を知り、どちらかというとこの本の方が面白いと感じて今に至る。

ただし、タレブの本は読みにくい。とても読みにくい。言い回しが独特というか、本人の知識が豊富すぎるためか、直接的な言い方はほとんどしないので、読んでるうちに何が言いたいのかわからなくなることがしばしばある。Amazonのレビューでも一定数このような評価があり、それは妥当だと思う笑)

ブラック・スワンとは何か?

ブラック・スワン(Black Swan)とは、読んで字のごとく「黒い白鳥」のことだ。白鳥は白いから白鳥と呼ばれるわけで、スワンは皆白いと思い込んでいたが、オーストラリア大陸が発見され、そこに黒い白鳥がいたことによってスワンは必ずしも白くない、ということが明らかになった。

それまでは「スワンは全て白い」という考えは絶対に正しいとされていた。ところが、たった一羽黒いスワンを発見してしまったことで、その考えは実は間違っていたということが証明されてしまったのである。

白い白鳥を何羽見ようと、全ての白鳥は白いと推論することはできない。一方、黒い白鳥を一羽でも見かければ、その推論を棄却するのに十分である。

『まぐれ』p.150

これは「帰納法(当てはまる事例をたくさん集めて「全ての白鳥は白い」という命題が正しいことを証明しようとすること)」に本質的に伴う問題点だ。僕らは全てを知ることなど原理的にできない。

Wikipediaによると、この白鳥問題が持ち上がったのは1697年のことらしく、300年ほど前にヨーロッパを揺るがしたびっくり事件だったわけだ。

そんなわけで、ブラック・スワンは「起こる確率が非常に低い稀な現象」のたとえとして使われている。

ただ白鳥が黒いだけなら問題はないかもしれないが、それが「起こる確率は非常に低いが、実際に起こった時には大惨事になる」ようなものだったら、話は変わってくる。この『まぐれ』では主に金融市場で商売をするトレーダーに注目し、一見すると大成功を収めて儲けまくっているが、その取引の仕方はリスクを取りすぎており、ブラック・スワン的な金融危機が起これば一発で吹き飛んでしまうような人たちの行動に着目している。

タレブは次のように述べる。

現実はロシアンルーレットよりもずっとたちが悪い。まず、運命の銃弾に当たってしまうことはもっと稀だ。回転式拳銃の弾倉が6個ではなく何百も何千もあるみたいなものである。何十回か引き金を引くと、人は弾丸が一個入っているのをすっかり忘れ、感覚が麻痺して安全だという錯覚に陥ってしまう。この本ではこれを黒い白鳥問題と呼んでいる。
[中略]
ギャンブラーや投資家や意思決定をする人が、他の人に不運がふりかかったからといって、自分もそういう目にあうとは限らないと決めてかかってしまうことだ。

『まぐれ』第2章p.43

要するに、金融のトレーダーとか、実業家とか、他にも社会的に成功して大金持ちになり周りから羨望の眼差しで見られる人たちが世の中にはいるが、その人たちの成功がたまたま不運に見舞われていないだけ、という可能性をもっと真面目に考えるべきなんじゃないか?ということである。

でも、その成功が運なのか実力なのか、どうやって区別すればいいのだろう?

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