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読書感想文13
今回はこの本。
『未明の砦』太田愛
なかなか新鮮だった。社会問題を取り上げた小説を読んだことはあるけれど、だいたいどれもジャケ買いというかなんとなくタイトルに惹かれて買ってみて、読んだら社会派
だったというのがあたしのパターン。
例えば、葉真中顕の『絶叫』とか、中山七里の『護られなかった者たちへ』などだ。
今回の『未明の砦』もそのパターン。本屋で積まれていたのでなんとなく手に取ったら、すごく社会派だった。
ただ、これまで読んだ社会派小説と違って、あたしがイメージして、学生にも言っているようなことが本文中にあたしが使う言葉とほとんど同じような言葉遣いで登場する点が新鮮だった。
ストーリーは非正規雇用労働者の主人公(複数人)を中心に進んでいく。大企業にいいように使われて、そんな状況に不満を持ちながらも、そんな状況を作り出している社会構造に目が向くことはなくただ「自分の能力不足」を嘆き受け入れている主人公たちが、あるきっかけで日本の労働環境の歴史、資本主義における労働者保護の歴史や社会運動、人権の概念や憲法をはじめとする法制度の仕組みなどについての知識を身につけ、自分たちの置かれた環境は固定されたものではなくて歴史的なものであることを知る。連帯し、声をあげ、批判をし、時には力を行使することによって、労働者保護は
獲得しなければならないと気づき、大企業が自分たちに提示する労働環境に反旗を翻すー
そんな感じの話だ。本を読み、知識を身につけることで、学び行動するようになる、というストーリーは結構珍しい内容なのではないかと思った。ちょっと展開が強引だよなーと思う部分もないではないけれど、こういう世界線があってもいい、というかあって欲しいと思わせるものなので、読んでいてもそれほど気にならなかった。
「共謀罪」を正面から取り上げているのも興味深い。一時世間を騒がせたけれど流行りがすぎるとすっかり忘れ去られた感のある共謀罪。2度法案が提出されたものの、どちらも廃案になり、実は共謀罪という名前の犯罪は存在しない。正式名称は「テロ等準備罪」である。
あたしも正確に理解しているわけではないので大雑把なことしか言えないが、これはテロ行為についてそれを計画したり話し合って準備をしただけで犯罪として成立する、というものだ。基本的に犯罪とは実行しなければ成立しない。何かを盗もうと内心で考えていても、実際に盗まなければ窃盗罪にはならない。これは内心の自由を保障する人権の概念からすれば当然のことだ。
しかし、このテロ等準備罪は違う。「準備罪」という名前が示す通り、準備行為が犯罪になるのだ。と聞けば、計画だけで捕まるのではないか?内心の自由を侵害するのではないか?などなど批判が集中するのも当然で、2度廃案になるのも頷ける。
ただ、テロ等準備罪は、組織的犯罪集団が重大な犯罪について明確に役割分担などをして計画を練って実行の準備をしたことが要件なので、一般人にそれが適用されることはまずない、と考えられている。
この小説は、そうした点について疑いを持って書かれている。小説内に出てくる公安警察はこの共謀罪(小説内でそう書かれている場面が多いので、ここでもそうする)を彼ら非正規雇用主人公たちの行動に対して適用しようと動く。
なぜ彼らの計画が警察庁にばれたのかというと、非正規雇用仲間の中に内部告発者がいて、要するに上にチクったからだ。大企業の上部組織は当然国家権力と強く結びついており、こうした運動を潰しにかかる、という想定で話は進んでいく。
そんな感じで個人的には結構読み応えがあったように思う。
で、面白かったのはさっき書いた通り、普段自分が学生たちに語る言葉に近いものが色々と見えたからだ。
例えば
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