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お酒との距離感があなたの健康と運動を左右する話
「そんなに飲んでないし、酔ってないから大丈夫」
「昔はもっと飲めたけど、最近は少しで十分」
お酒を飲む人なら、一度はこう感じたことがあるかもしれません。
でも、実はこの「酔ってない」という感覚、脳の変化によって引き起こされている可能性が高いんです。
今回は、飲酒が健康や運動パフォーマンスに与える影響を、詳しく説明していきます。
「酔ってない」は勘違い? その裏にある脳の変化
お酒を飲むと、体内ではアルコール(エタノール)が分解されていきます。
この分解のプロセスは、主に肝臓で行われます。
アルコール代謝の流れ
1. エタノール → アセトアルデヒド(毒性が強い)
2. アセトアルデヒド → 酢酸(比較的無害)
3. 酢酸 → 水と二酸化炭素(尿や呼気として排出)
この代謝の速さは個人差がありますが、飲酒習慣がある人は酔いを感じにくくなることが分かっています。
脳の萎縮と飲酒習慣
長期間の飲酒は脳の特定の部位を萎縮させることが分かっています。特に影響を受けるのが、記憶や学習をつかさどる「海馬(かいば)」です。
海馬とは、脳の奥深くにある小さな器官で、記憶をつかさどる重要な役割を持っています。
アメリカ国立アルコール乱用・依存症研究所(NIAAA)の研究では、長期間の飲酒が海馬の体積を縮小させることが確認されています。
さらに、飲酒量が多いほど萎縮の程度も大きくなることが分かっています。
▶︎海馬とは
新しい出来事や学んだことを一時的に覚え、それを長く残る記憶へと整理していくのが主な仕事です。
また、道順を覚えたり、空間の中で自分がどこにいるかを把握する力にも関わっています。
日々の経験がしっかり積み重なっていくのは、海馬のおかげといえるかもしれません。
海馬が萎縮すると、
・記憶力の低下
・判断力の低下
・ストレスへの耐性が低くなる
といった影響が出てきます。
つまり、「酔ってない」と感じるのは、脳がアルコールに鈍感になってしまっているだけかもしれません。
飲酒が小脳に与える影響―運動パフォーマンスを下げる理由
海馬と同じように、飲酒の影響を受けやすいのが「小脳(しょうのう)」です。
小脳の役割
・体のバランスを取る
・スムーズな動きをコントロールする
・無意識の動作を最適化する(歩行・姿勢維持など)
お酒を飲むと、足元がふらついたり、まっすぐ歩けなくなったりするのは、小脳がアルコールの影響を受けているからです。
小脳萎縮と運動機能の関係
Journal of Neuroscienceの研究では、長期間の飲酒が小脳の神経細胞を減少させ、運動能力を低下させることが報告されています。
具体的には、
・バランス能力の低下 → 転倒リスクが上がる
・動作のぎこちなさ → スムーズな動きができなくなる
・筋肉の動きが悪くなる → 運動時のパフォーマンスが落ちる
という影響が見られました。
トレーニングを頑張っていても、飲酒によって運動機能が低下していたら、成果が出にくくなるということです。
筋肉への影響―お酒がトレーニング効果を減らす理由
「お酒を飲むと筋肉がつきにくくなる」と聞いたことはありませんか?
これは事実です。
アルコールが筋肉に与える影響は大きく、特に筋肉の回復と成長を妨げることが分かっています。
アルコールと筋肉の関係
アルコールを摂取した後、筋タンパク質の合成が37%も低下することが確認されています。
筋タンパク質合成とは、筋肉がトレーニングの刺激を受けて回復・成長するプロセスです。
これが低下すると、
・筋肉の成長が遅れる
・疲労が抜けにくくなる
・怪我のリスクが上がる
という影響が出ます。
また、アルコールはテストステロン(筋肉の成長に関わるホルモン)の分泌を抑え、逆にコルチゾール(ストレスホルモン)を増やします。
これにより、筋肉が分解されやすくなり、せっかくのトレーニングが無駄になってしまうのです。
お酒との付き合い方を考える
ここまでの話を聞いて、「じゃあ一滴も飲んではいけないのか?」と思うかもしれません。
もちろん、お酒を完全にやめる必要はありません。
(私もお酒は結構好きです。)
ポイントは「飲み方」
健康的な飲み方のヒント
・「久々ぁ〜!」が何よりも大事
・1回の飲酒量を減らす(ビール1杯、ワイン1杯など)
・寝る3時間前には飲酒を終える(睡眠の質を下げないため)
・飲むならタンパク質と一緒に(筋肉の分解を防ぐ)
これらを意識するだけでも、飲酒による影響を軽減できます。
まとめ
✅ 「酔っていない」と感じても、脳(特に海馬)が鈍感になっている可能性がある
✅ 長期間の飲酒は小脳を萎縮させ、運動機能を低下させる
✅ アルコールは筋タンパク質の合成を阻害し、トレーニングの成果を減らす
✅ 適切な飲み方を心がければ、健康や運動パフォーマンスを守れる
お酒を楽しむことは悪いことではありません。
ただ、「飲むことでどんな影響があるのか」を知っておくことが大切です。
お酒との距離感を少し見直すだけで、体の調子や運動の成果が大きく変わるかもしれません。
ぜひ、今日から意識してみてください。