哲学科ってナニ!? ③哲学科の雰囲気、就職、東大の哲学専修
前回の記事から早4年が経ってしまいました^^;
ありがたいことに第1回の記事は40,000近いビューと200のいいねをもらうことができました。
今回は、哲学科の雰囲気、就活の事情、東大の哲学科についての3つについて書こうと思います。
記事の内容はあくまでも僕が受けた印象なので参考程度に読んでください。同じところに進学しても全然違う感想を持っている人もいると思います。
哲学科の雰囲気
僕は東大の哲学科しか知らないですが、他大学の哲学科も似てるところがあるんじゃないかと考えて、自分が学生の頃に感じたことを書いていきます。
イメージ通りかもしれませんが、変わった人が多いです。いつも同じ色の服を着てるような、謎のこだわりがある人が多いイメージです。そして、病んでる人、静かな人が多いです。
だから、お互いに踏み込みづらいんですよね。僕も普通のクラスや部活ならそれなりに友達ができますけど、哲学科では全然友達ができませんでした。僕は、たまたま高校の同級生が哲学科に進学していたので、その彼と、彼の大学のクラスメイトの3人で授業を受けることが多かったですね。学科全体で20人強いるのですが、大きなグループで3人くらいで、それ以上集まることはないです。教室でもみんなバラバラに静かに座っていて、話している人も大きな声で冗談言って笑いあうなんてことは全然起こらないです。僕は学科の同級生の名前が7、8人しか分からないです。でも、みんなそんなもんだと思います笑 文学部は女子の割合が高いですが、文学部の中では男子の割合が高めかもしれません。僕の学年は女子が3人でした。あと、ときどき超頭がいい人が混じっています。体育会系の人はほとんどいません。スポーツウェアを着て授業を受けていたのは僕くらいだったような記憶です。
なんか時間が止まったような、世間と隔絶された独特な空気が流れています。他の学部の授業を受けるとキラキラしててびっくりします笑
全然知らないのですが、理系で言うと数学や物理をやる人と近いところがあるんじゃないかと思います。いや、理系学部のこと全然知らないんですけど。
就職
哲学科だと就職で不利になると言われることがありますが、本当かどうかは分かりません。僕の体感では、そんなことないのではないかと思います。僕は就活をしましたが、内定は普通にもらえました(結局辞退して、家庭教師になったんですけど)。研究内容について聞かれたことは数えるほどしかありませんでした。
それよりも、就職活動を頑張るような人が哲学科に来ないんです。哲学科だから不利なのではなく、不利な人が哲学科に集まるのではないでしょうか。就活を一生懸命やっている雰囲気の人は周りにあまりいませんでした(友達いなかったから本当のところは分かんないんですけど)。まともに社会に出られれば十分だと思います。みんな元気に生きてるのかな?
哲学が仕事で役に立つかというと、根本的なところを掘り下げる思考と、論理を丁寧に積み上げていく思考は、仕事にもとても役に立つのではないかと思います。
東大
ここまでずーーっと「哲学科」と書いてきましたが、東大には哲学科というものはありません!正式名称は文学部思想文化学科哲学専修課程です(今は思想文化学科ではなく人文学科となっているようです)。
そして、哲学専修以外にも哲学ができるところはあります。文学部には倫理学専修や美学芸術学専修があります。倫理学や美学は哲学の一分野なので、当然哲学を勉強できます。細かいことを言うと、日本思想の教授は哲学専修ではなく倫理学専修にいるので、日本思想をやるなら倫理学専修です。また、駒場にある後期教養学部の学際科学科の中で科学史・科学哲学を学ぶこともできます。他にも、広義の哲学にあたる内容を学べる学部・学科はあります。
哲学専修の教授は5人でした。専門はギリシア哲学、ドイツ哲学、ドイツ哲学、フランス哲学、英米哲学でした。今は、人も入れ替わっていますが、だいたいの割り振りは同じはずです。僕は大学に入るまで、東大の先生というのは全国のオールスターなのかと思っていましたが、必ずしもそうではありません。東大の先生だから他の大学の先生より偉いとか実績があるとかいうわけではありません。まあ、比較的実績のある人が集まっているでしょうが、有名でない大学にも素晴らしい先生はたくさんいます。今(2024年)の東大の教官では、哲学専修の納富先生と倫理学専修の古田先生が有名ですかね。〇〇先生に習いたいから〇〇大学に行きたい!と考えても、教員が異動することもあるので、その考え方にはリスクがあります。注意してください。
進振り
東大には進振りという制度があって、3年進学時に初めて学部学科が決まります。それまでは前期教養学部に所属しています。そして、進振りのタイミングで、志望を提出するのですが、人気の学科は定員以上の申し込みがあるので、そういうときは成績上位の人だけが進学できるという仕組みになっています。志望の学科に行けなかったら、他の学科を選び直すことになります。なので、人気の学科に行くためには高得点が必要だし、逆に不人気で定員割れしている学科なら点数に関係なく誰でも進学できます。
哲学専修の人気は中程度という感じでしょうか。高得点は必要ないけど、定員割れもしないことが多いと思います。哲学が好きな人は成績優秀だろうが人気学科には見向きもせずに哲学専修に来るので、超優秀な人が時々います。一方で、他の人気学科に進学できなくて、第二志望で哲学専修に来る人もいます。
授業
授業は、古き良き大学の授業って感じですね。他の学部などに比べたら緩いほうだと思います。まあ哲学の勉強は、授業を聞くよりも自分でテキストと格闘する方が大事ということでしょう。
ゼミ
3年から哲学専修に進学し、ゼミを選びます。ゼミの教官が卒論の指導教官になります。例えば、ドイツ哲学で卒論を書きたければドイツ哲学をやっている教官のゼミを選びます。ゼミでは有名な哲学者のテキストを原典で読み進めていきます。なので、ドイツ哲学をやるためにはドイツ語ができないといけません。学部のうちから原典でゼミをやる大学は少ないと聞いています。前の記事でも書きましたが、哲学をちゃんと勉強しようと思ったら語学がとても大切になります。母語で読むのも難しいようなテキストを外国語で読むのですから、とても大変です。
僕はフッサールの『イデーン』を読むゼミに入りました。ゼミは指定されたテキストを、原典で少しずつ読み進めていく形式です。1回の授業で数ページしか進まないので、1年で完結することはなくて、何年もかけて行います。なので、学部卒の場合は、どこか途中の2年だけゼミに参加するような形になります。なので、僕がゼミに入ったときも、いきなりイデーンの途中からだったので、最初は全然分からなかったです。ゼミには修士課程や博士課程の学生も参加していて、圧倒的知識でぶん殴られます。僕はほとんど発言できなかったですね。学部生が1週ごとに順番に訳を担当します。訳を作成して、文法的疑問点を質問して、その後に内容面の疑問点を質問して、そこから議論が進んでいくような流れでした。そして、担当の回のゼミはICレコーダーで録音して、次の週までに議事録を作成します。そして、議事録をTAの人にチェックしてもらいながら作成します。最後に、翌週の授業の始めに議事録の内容に誤りがないか参加者全員で確認します。ただ議事録を作るだけでも、議論の内容を理解していないと上手くまとめられないし、引用が必要であれば図書館にいく必要もあるし、いい議事録を作るのは結構大変です。これで実力をつけてほしいという意図があるのだと思います。僕は落ちこぼれでドイツ語も分からないし、フッサールも分からないので、上手く議事録が作れなくて担当回はかなり憂鬱でした。院生の先輩たちの雰囲気が怖かった‥
このあたり、ゼミの形式や進め方は教授によっても結構違うかもしれません。他のゼミの話はよく知らないので、詳しいことは言えません。
卒論
最後に卒論です。4年生になるくらいから本格的に卒論に取り組みます。ガイダンスが1回あるくらいで、あとは自分で進める感じでした。必要に応じて指導教官の先生にアポをとって相談に乗ってもらっていました。いやー、卒論が本当にしんどかった。そして、卒論が一番大事で、一番力がつきました。哲学の議論って前提になるものがほとんどないので、書いていて「これはそもそも議論になっているのか?」みたいなことを考え出すと、もう訳が分からなくなってくるんですよね。社会学だったら調査したデータ、歴史学だったら史料とかをベースに論じればいいんでしょうけど、哲学は哲学者のテキストがあるとは言え、底が抜けているような感じがして恐怖でした。
卒論は40,000以内(つまり原稿用紙100枚!)というルールです。「以上」ではなく「以内」なのは、院試の材料にもなるのでたくさん書くほど有利にならないように、公平性のためだと聞きました。最初に聞いたときは「そんなに書けない!!」と思っていましたが、ちゃんと勉強すれば「字数が足りない!」となります。僕は締め切り直前に字数を確認したら50,000字に到達する勢いで、泣く泣く字数を削りました。今ではnoteの記事で10,000字を超えることもざらにあるし、長い文章を書く訓練ができて本当によかったです。書いているときは本当にしんどくて、締め切り1週間前くらいには意識が朦朧としてきてまっすぐ歩けなくなったときがありました。人生で一番追い込んで勉強したのはあのときですね。
修士論文、博士論文を書いた人からしたら、大したことないのかもしれませんが、僕にとっては卒論を書いたことはとてもいい経験になりました。今でも、在野で細々と研究を進めていますが、その基礎になっていると思います。文学部に行く人はぜひ卒論を頑張ってほしいなと思います。
さて、哲学科紹介の記事はこれで終わりです。変わったところですが、沼にハマる覚悟がある人は進学しましょう!