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【酒と料理の行間を読み解く】「酒盗クリームチーズ」日本酒居酒屋の定番レシピを因数分解

いつもの家での食事も、ちょっと一工夫するだけでよりお酒にマッチする極上のおつまみに変身させることができます。お店でも実践しているそんなワンポイントのご紹介、今回のテーマは居酒屋さんでちょくちょく見かけるおつまみ「酒盗クリームチーズ」です。

●居酒屋の定番メニュー!?

クリームチーズと酒盗という組み合わせは居酒屋ではちらほらと見られる組み合わせです。また簡単なレシピであることから家でもよくつくられる定番メニューとなっているようです。googleで「クリームチーズ」「酒盗」のキーワードで検索すると、ずらっと検索結果が出てきます。クックパッド、クラシル、様々なブログ、料理店、酒盗メーカー、アサヒビールなどの飲料メーカー、とにかく多くの媒体で紹介されています。かくいう私自身も以前のお店ではメニューに名を連ねていました。

●酒盗について。

酒盗というのは簡単に言うと魚の内臓を使った塩辛のようなものです。塩辛との違いは、酒盗は胃と腸だけを使う点、半年から1年間と熟成期間が長期である点です。
酒盗と合わせると飲みがすすんでしまって酒が溶けるように無くなっていくことから、「酒が盗まれるようになくなっていく」「酒を盗んででも飲みたくなる」ということで酒盗と呼ばれるようです。
高知や鹿児島で名物とされているということで、カツオの酒盗が酒盗の代名詞的な存在となっていますが、他にもまぐろや鯛の酒盗も市販されています。多くは内臓を塩に漬けて長期熟成させており、内臓自身が持つ消化酵素の働きで発酵させることで、アンチョビのような独特で癖のある強い味わいとなっています。

酒盗の味わいは、熟成(発酵)によって生成されたイノシン酸、グルタミン酸をはじめとした各種アミノ酸によるうま味が強い一方で、脂肪分は少ないことが分かっています。イノシン酸とグルタミン酸と言えば鰹節などの動物性の出汁と昆布など植物性の出汁のWスープ、合わせだしと同様の組み合わせで、このうま味の相乗効果が多くの人を惹きつけてやまない要因になっています。
また熟成期間中に腐敗しないように塩分濃度は非常に高くなっています。この塩の強さは、癖の強さと共に単体で食べたときに受け付けない人が多い原因かと思います。

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●クリームチーズの特徴

クリームチーズ自体がどんなものであるかについては今更説明不要なほど身近な食材となっていて、大多数の方が口にした経験があるのではないかと思います。クリームチーズはナチュラルチーズの中でも熟成を経ないもので、熟成を必要とするカマンベールチーズやブルーチーズとは区別されます。その成分は牛乳を濃縮した高タンパク質、高脂肪で、カルシウム、ビタミンA、B2を多く含む穏やかな味わいです。滑らかさとでクリーミィさが特徴です。

●クリームチーズと日本酒の相性

クリームチーズと日本酒の相性は決して悪いものではありません。ですが特定のケースにおいては特に、飲みにくい日本酒を飲みやすくしてくれる魔法の食材として作用します。熟成をさせていないクリームチーズやカッテージチーズの風味の主成分はジアセチル、アセトアルデヒド、アセトインなどの芳香物質であることが分かっています。日本酒においてジアセチルやアセトアルデヒドはオフフレーバーとして扱われています。特にジアセチルはつわり香と呼ばれて敬遠されています。とはいえ日本酒は同じ造り手であっても毎年出来不出来の波のあるお酒です。実際にはこのオフフレーバーを感じるお酒も流通しているのが現状です。そんなお酒と出会ったとき、「ちょっと飲みにくいな」と思ったとき、クリームチーズやカッテージチーズと合わせることで、チーズがもともと持っているジアセチルの香りでお酒のオフフレーバーが気にならなくなり、美味しく飲むことができるようになります。

クリームチーズ

●レシピ

【材料】・クリームチーズ
    ・酒盗
    ・粗びき黒コショウ
【調理】チーズの上に酒盗、黒コショウを順にかけるだけ

酒盗はうま味は豊富なのですが、脂肪分に乏しく塩味が過度に強く癖もあります。一方でクリームチーズは乳脂肪が豊富でチーズとしては塩味も弱く、熟成していないフレッシュチーズなのでうま味成分であるアミノ酸の含有量も少ないです。またクリームチーズは臭みを和らげてくれる作用もあります。酒盗とクリームチーズの組み合わせは、お互いの足りない部分を補い合い、さらに欠点に化粧をほどこすような組み合わせといえるのではないかと思います。こういった点があるからこそ、酒盗の美味しさを知る人が集まる居酒屋さんなんかでは、かねてからメニューに採用されてきているのだと思います。

クリームチーズを合わせるだけでは後味に酒盗の臭みが残るので、アクセントにどのご家庭にもあるであろう粗びき黒コショウをぱらぱらとかけています。黒コショウは「新鮮さや、柑橘、木、花のにおいが混じった総合的な香りとキレの鋭い辛味」とされています。黒コショウのキレの鋭い後味で、酒盗の後味の臭みをかき消してくれます。

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