コーチのための万能ツール『SPACEモデル』をフル活用(カウンセリング編)
SPACEモデルは初中級のコーチたちにとってコーチングを簡単にするツールでもあり、クライアント自身で活用できるように使い方を教えることによって、クライアントもセルフマネジメントがうまくできるようになるものです。
前編ではSPACEモデルの説明と、コーチングの最中に起こっていることをSPACEモデルを用いて解説しました。そして後編は、SPACEモデルのコーチングでの活用法をお伝えしました。
今回はカウンセリング編として、カウンセリング的な案件でSPACEモデルがどう活躍するのかをお伝えします
簡単な復習
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SPACEモデルは、人間の認知行動のメカニズムについて教えてくれます。じつは「S人間関係」「P身体」「A行動」「C認知」「E感情」の5要素は、相互に影響し合っているので、どれかが変わると他も変化する。というのがSPACEモデルの考え方なのです。
身に覚えありますよね。Aさんに対して怒っていたけど、Bさんがきたらどうでも良くなった。これってBさんが来ることでS人間関係が変わったから、怒りというE感情が変化したわけです。
E感情が変化すると、C思考も切り替わったりと、その影響は続いていきます。
だから困ったことや、うまくいかないことがあるなら、そのときのSPACEがどうなっているかを明らかにして、変えやすそうなものを変えてしまおう。と考えられますね。
詳しく学びたい人は、今回のシリーズの前編から読んでもらうのがおすすめです。他にはこんなのもあります↓
カウンセリングへの応用
さて、勘の良い方は
「あれ、これってカウンセリングに使えるんじゃない?」
と気づかれたと思います。(とっくにわかってましたよね。。。。)
そうなんです。これはそのままカウンセリングに使えるのです。
だって、うまくいかないことがあったら
・S人間関係を見直すことができないか検討しましょう
・P身体の状態を変えたらどうなるか考えましょう
・Aどんな行動をとれたら改善されそうか考えましょう
・Cどんなふうに考えられたら良いか見直しましょう
・E望ましい感情でいられる方法を探しましょう
って5パターンのカウンセリングができるわけです!!!
驚きですね。SPACEを理解するだけで5種類のカウンセリングができるようになるのです。ということで、早速解説していきます
基本の在り方
いつもの話ですが、基本のあり方はロジャーズの教えに従っていればOKです。
クライアントは実現傾向をもっている「できる人」
あなたは
・一致 自分らしくリラックスしていること
・受容 相手の言動を肯定的に受け止めること
・共感 わかった気にならず、相手を正確に理解しようとすること
を大切に関わるのです。とくにカウンセリングっぽいテーマであれば
変えようとするな。理解しようとせよ
の金言を胸に、あせらず、ドンと構えていましょう
もっと学びたい、知りたいという方は例えば以下の記事をどうぞ
生活の困りごとを扱う
次に知っておいて欲しいのは、あなたがお医者さんや心理士さんでないなら、身体や脳に関する問題や、深い心の問題も扱うことはできないということです。
鬱もパニック障害も摂食障害も睡眠障害も、病名がついているようなものは僕たちは扱えないのです。それを扱うのは専門家の仕事だからです。
僕らがクライアントと一緒に考えられるのは、もっと表面的な課題です。
仕事にうまく取り組めなくて困ってる。家族とコミュニケーションをどうとったらいいかわからない。
そういう生活や仕事の困りごとにどうアプローチしたらいいか。その良いやり方を発見していくのが僕たちの仕事なのです。
だから僕らはこんなふうに関わるのです。
CL「眠れなくて困っています。なんとか眠れるようになりたい」
CO「眠れないことが影響して、困っていることは何ですか?」
CL「仕事にいっても眠くて。。。」
CO「眠くて何に困っているんですか?」
CL「仕事でミスをするし、あとは上司との関係がよくなくて」
わかりますか?こんな風にするのです。もちろんSPACEモデルを駆使したら「眠れない」っていうことにも何か力になれる可能性はあります。でもこうやって生活や仕事の悩み事を明らかにして、それが前に進むことを助けるというアプローチもあるのです。
もちろんこれをやったから不眠が改善されるのではありません。でも生活の困りごとは前に進む可能性があるわけです。そしてやはり自分の工夫だけでうまくいかないような不眠であれば、専門家に相談するのがおすすめです。
CL「過度に緊張するたちで、とても困っています」
例えばこれは、病院に行くような話ではないのかもしれませんが、それでもこんなテーマをそのまま扱うのは難しいですよね。だからこんな場合も同じやり方で
CL「過度に緊張するたちで、とても困っています」
CO「緊張によって、実際にどんな場面で困っていますか」
CL「あらゆるシーンでなんですが」
CO「例えば?」
CL「上司に報告するとか」
CO「あとは?」
CL「誰かにに何か質問やお願いをするとか」
CO「いろいろあると思うんですけど、その中で、今日扱ってみたいシチュエーションを1つ選んで欲しいんです。」
CL「1つですか」
CO「そうです。まずは選んだ1つに関する対処法を見つけましょう」
CL「はぁ」
CO「そうしたら他の問題への応用の仕方も見つかる可能性があります」
CL「なるほど」
CO「それでは、どんな場面について考えてみましょうか」
CL「上司への報告がいいです」
CO「どうしてですか?」
CL「毎日悩まされているからです」
CO「では、上司の方への報告をテーマに考えてみましょう」
このように、生活や仕事の具体的な困りごとの解決をテーマとすると、グッと扱いやすくなります。覚えておいてください
序盤の展開は一緒
カウンセリングっぽい相談の序盤の展開はシンプルです。
挨拶や、ちょっとしたスモールトークなどしたら
「今日話したいことは何ですか?」
↓
「そのことに関して、具体的に困っていることは何ですか?」
ですね。簡単であまり頭を使わなくて良いはずなので、リラックスして、相手の存在を感じながらゆったり話をきいてください。
基本骨格はこれだけで、あとは必要に応じて「確認の質問」を入れてください。※コーチングと「確認の質問」については↓こちらの記事がおすすめ。他にもたくさん良記事がありますので探してください
あと、気をつけないといけないのは、相手の話が長くなりすぎることです。
何分も、下手したら何十分も悩み事やこれまでの経緯について話すクライアントがいます。あなたが
「今日は傾聴でいく。話聞くだけで時間が終わっても構わない」
と決めているならそれでいいですが、SPACEを使って変化のヒントを見つけたいなら、最初のパートでクライアントの話をきくのは◯◯分以内と目安を決めておくのもいいかも知れません。
あまりにもすげなく扱うと、信頼関係が崩れたり、相談する意欲が下がりますが、序盤でクライアントの話をたくさん聞いてもそれほど良いことが起こらないケースも多いのです。
なので、話が長くなりそうと思ったら
「いったん相談したい内容を短めに教えてもらえますか。その上でいくつか確認させてほしいこともありますから」
などと言って、短めに話をしてもらうように協力してもらえると良いですね。
出来事を特定してSPACE分析
さて、扱いたい問題が明らかになったら、こんな感じで進めます
CO「上司への報告で、緊張した具体的なエピソードがききたいんですが、いつ頃そんなことがありましたか。一つ典型的な出来事を選んで、それがいつ起こった出来事か教えてください」
CL「先週の金曜日の朝に、そんなことがありました」
こんなふうに具体的な出来事を特定するのです。そしてこの出来事の『現場検証』をすればいいわけです。現場検証については、このシリーズの後編の④で触れています。よかったら参考にしてください。
とはいえ、やることは簡単です。
S人間関係「そこには誰がいる?」「誰のことを意識している?」
P身体「そのときの身体の状態は?」「何が特徴的?」
A行動「何を言ったりやったりしている?」「何が起こっている?」
C認知「何を考えてる?」「自分や周りをどう見てる?」
「脳内にどんなイメージがある?」
E感情「どんな気持ちでいる?」「それが何にどう影響している?」
の質問をするだけです。クライアントの回答はメモを取っておくと、後々役に立ちます。
ここまで、進んだらクライアントに対して
「SPACEのどれが変化すると良さそう?」
「SPACEのどれは変わりやすそう?それが変わったら何が起こりそう?」
のような質問をした上で、あとはあなたがうまく使えそうな手法のことも考慮して、何をやるかを決めればいいのです。SPACEで大きく5カテゴリもありますから、何か役に立つものがあるはずです。
ではここからは、SPACEの5カテゴリの中にどんな手法があるのかをみていきましょう。
注意点です。ここでは全体の一部しか紹介できません。世の中にはいろんなやり方があるのです。ぜひあなたがすでに知っている方法がSPACEのどのカテゴリに入るのか、新しく出会ったやり方はどのカテゴリに入るのか。SPACEを使って手法の整理を進めていってください。
①S人間関係や環境に働きかけるカウンセリング
S人間関係や環境に働きかけるやり方にはどんなものがあるでしょうか。
会社を変える、住む場所を変える。しばらく仕事にいくのを休む。みたいな大々的なアプローチもありますね。
小さくやるなら、デスク周りの雰囲気を変えるだけでも、仕事中の気分が変わるかも知れません。デスクトップの背景をお子さんの写真にするだけで、少し気分が変わることだってありますね。
上司と話すのに緊張するなら誰かを巻き込んで複数人で話すようにするだけでも変化することがあります。
「今週誰との時間をとれたら、いい状態になれそう?」などの質問によって、思いついた人と会う時間を取るだけでも、気分が変わり、会社の仕事にも変化が生まれる可能性もあるのです
あとは、S人間関係を変えるために、コミュニケーションを見直すこともできます。アサーションと言われる自他尊重のコミュニケーションを取れるようになると、S人間関係が変わるのです(これはA行動を変えているともいえます)。アサーションは重要なのでぜひ研究してください。近々関連記事をアップする予定です
また、ポジションチェンジなどをして、相手に対する認識が変わるとそれだけでS人間関係が変わってしまいます(こちらはC認知を変えているともいえます)
他にはどんなアプローチがあるでしょうか?物理環境だけでなくネット環境なども含めて考えれば、いろんなやり方がありそうですね。
②P身体に働きかけるカウンセリング
P身体に働きかけるアプローチもさまざまです。
療養・休養
投薬
手術
運動
筋トレ
ストレッチ
マッサージや整体
各種ボディワーク
食生活改善
リラクゼーション法
瞑想
まだまだたくさんありますね。これら全てP身体から変えることで、SPACEに変化を与える方法なのです。特に難しい問題でクライアントのP身体の状態も良くない場合は、P身体からのアプローチはおすすめです。やはりP身体は土台だからです。
この点からも、必要に応じて病院に行くことは大切です。心の悩みに見えても、身体や脳で問題が起こっていることもあるわけです。ソフトウェア(心)の問題に見えて、ハードウェア(身体)に問題があることもあるのです。ソフトウェアを書き換えても、必ずしもハードウェアは修正されません。その点も意識しておくといいでしょう。
そしてあなたもぜひP身体の領域に関しても得意なアプローチを1つ以上持っておくことがおすすめです。クライアントに教えてあげられたり、いっしょにやれるものを見つけて、しっかりと自分のものにしておくのです。
③A行動から変えるカウンセリング
A行動から変えるアプローチってどんなものでしょう。
そうです。コーチングですね!!
GROWモデルなどのコーチングは行動から変化をつくるアプローチなのです。だからカウンセリングっぽい案件でもコーチングをしてもいいのです。その際の注意点は「目標を低くすること」です。まずは簡単に達成できそうなゴールを設定して、一緒に喜ぶ。クライアントには少しだけでも自己効力感を上げてもらう。これを積み重ねていけば、良いのです。
他にも認知行動療法の中の行動活性化法なども、A行動から変えるアプローチですね。
・いい気分になることをやる
・嫌な気分になりそうなことをやめる(減らす)
というシンプルなものです。A行動からE感情を変えようというアプローチなのです。
他にもACT(アクセプタンスコミットメントセラピー)では、感情や思考は変えようとせず、価値観に基づいた行動をとるようにしよう!と教えています。
感情や思考は受け入れて(かつ巻き込まれず)、自分が大切にしたいもの(価値観)に基づいた行動を少しでも取るように進めるのです。これもすごく大切な考え方です。結果として自己効力感も上がるし、生活環境が改善されたり、仕事や人間関係が前に進んだりするのです。
また、各種スキルトレーニングやそのためのロールプレイも行動から変化させるやり方ですね。
アドバイスやリクエストを相手にして、これまでと違う行動をとってもらうのもこれです。
これまでと違う行動を取れば、何かしらの変化は起きるのです。クライアントにその気になってもらって、ぜひ新しい行動を取ってもらいましょう
行動をとったあとに大切なのことは何でしょう。自分や周りに起こった「(些細な)変化」を観察してもらうことです。
変化に気づけば、次の行動をしてみたくなります。こうやって変化を少しずつ増幅させていくのです。
④C認知を揺らすカウンセリング
アドラーは『読書療法』などといって、本を読むことを勧めていたようです。これはC認知を揺らすアプローチの一つですね。
あなたも、本を読んだり、映画やドキュメンタリーを見たりして、人生観が変わった、自分を認めることができた、やる気が出た、などの変化を経験したことがあるのではないでしょうか。
だからコーチはいつでもクライアントに提案できるように、人生観が変わりそうな体験のアイディアをいくつも用意しておいてください。
どんな種類の体験が良いかというと、ずばり
・私はできる
・人々は仲間である
という考え方が強まるような体験です。アドラー心理学的では、この2つの考え方を持てるようになると人生が好転すると考えています。
他にも認知が変化する体験はいくつもあります。1つはタイムラインワークですね。これも過去の出来事を思い出したり、未来をありありと想像することでクライアントの世界観やセルフイメージは変化しますね。
ポジションチェンジもそうです。他人のことを気にせず純粋に自分の立場にたってみたり、相手の立場を体験してみたり、もしくは客観的な視点から両者を見てみたり、またそれぞれの椅子でこれまでとは違うコミュニケーションを体験してみたりすることで、C認知に変化が生じます。
他人は自分とは違う体験をしているわけですから、他人の立場に立ってみると、C認知に変化が生じるのは当たり前ですね。
他にも論理療法と呼ばれるアプローチや、認知行動療法の中の認知再構成法などは、まさに認知を書き換えるための手法です。とはいえ、無意識の深い部分を書き換えるような手法ではなく、誰でもが気づいて変えることのできる、表面的な思考(自動思考)にアプローチするやり方ですから、慣れてしまえば、自分でもやることができるようになります。
※認知再構成法は、練習しておくと、応用もききますからおすすめです。以下の記事などを参考に、もっと学びたくなったら、本を読んだり講座に参加したりしてください
C認知をかえるアプローチもまだまだたくさんあります。なにかこの種のワークをしてみて、C認知の変化が起こればSPACEに影響がうまれて、クライアントは苦しんできた問題から逃れる可能性があるのです。
ぜひうまくやれるやり方をいくつか用意してみてください。
⑤E感情を変化させるカウンセリング
最後に、感情を変化させるアプローチです。
これの代表格はマインドフルネス瞑想です。マインドフルネス瞑想は極端な言い方をすれば観察している状態をキープするだけなのですが、それだけでも感情は変化するのです。
観察するということは関心をもって理解しようとすることなのです。その姿勢を持つことと、その結果自己理解が深まることで、感情は変化していくのです。
アンガーマネジメントのように、感情に対する対処法を教えてくれて、それの練習をするプログラムもありますね。
もう一つ重要なアイディアは、感情に気がついたら、その裏にあるニーズ(欠乏欲求)に気が付くというアプローチです。スクール卒業生の橋中今日子さんが開発したEMCOカードは、そのコンセプトでできていますから、ぜひ検索して、どんなものかに触れてみてください。
基本的な考え方を説明すると
例えば「怒り」があるとしたら
「どんなニーズが満たされていないから怒りがあるんだろう?」
「どんなニーズが満たされたら怒りが消えるんだろう?」
と問いを立ててみるのです。
そうすると「睡眠」「敬意」「必要な情報」「認められること」「安全であること」「自信」「効力感」「つながり」
などの中から、自分がいま不足していると感じるものに気づくことができるのです。それが例えば「認められること」であったとしたら、
「認められる」という欲求(ニーズ)を満たすためには、
「誰に対してどのようなコミュニケーションを取ればいいのか?」
などと考えて、行動に移していくのです。
他には、どんなアプローチがあるでしょうか?フォーカシングなどもこのカテゴリに入れてもいいかもしれません。他には何があるでしょうか?
最後に
ということで、たくさんありましたね。カウンセリングっぽいテーマだなと思ったら、具体的に解決したい問題の現場に行ってみて、そこのSPACEを解析してみるのです。そしてあとは、これらのたくさんの手法の中から、やってみると良さそうなものをチョイスして、実施。結果をカンサスすればいいのです。
ぜひまずは、自分に対して実験としてやってみたり、仲間内で練習しながら感覚を掴んでください。上手な人を見つけて自分が体験するのもいいですね。
さて、セッションの中で変化が起こることも大切ですが、それよりも日常で変化が起こり、クライアントが自分の人生に対してコントロール感を持てるようになることが大切です。
そのためには、クライアント自身が、日常のなかでSPACEの状態をチェックし、変えやすいところから変えていくことができるように手助けしてあげることも大切です。
おしまい
僕たちと一緒に人生を変えるコーチングカウンセリングを自分のものにしたい人は
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