コーチングの「型」を超えて、スペシャルなコーチになるために(前編)

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 コーチングは基本的には型のあるコミュニケーションです。僕はそれをコーチングの「構造」と呼んでいます。

 「何をどんな順番で話してもらうか?」

 ということに関して、確立されたパターンがあるのです。話の構造=組み立てがあるのです。。効果的な会議に構造があるように、効果的なコーチングにも構造があるのです。そのような考えに基づいて、多くのコーチングスクールで「質問の順番」が教えられているのです。

 一方、クライアントの話は様々な方向に広がっていきます。そして当初のテーマから脱線した先に「本当に話したかったこと」があったり「大切な気づき」があったりすることもあります。そもそもクライアントはコーチが自分の話についてきてくれたことで安心したり落ち着いたりしますね。

 だから「傾聴」をベースにして、ただクライアントの話を聴き、言わんとすることを理解しようというロジャーズのPCA(パーソンセンタードアプローチ)のような関わりをするコーチもいるのです。構造なし派ですね。

 けれども、それでは収集がつかなることもあるし、再現性もないわけです。意識的にこのスタイルを採用しているコーチはそれで良いと考えているでしょう。しかしそれを良しとしないコーチもいると思いますし、結論が欲しいクライアントもいると思います。

 この記事では、「型を使うことの良さ」と「相手に合わせることの大切さ」をどうやって両立させるかに関する重要なアイディアを提供します。いくつも具体例をあげて解説しますので、実践に応用してもらえると思います。

 ベテランのコーチたちの中には自由自在にコーチングプロセスをクリエイトしているように見える人たちがいます。それでいて、ちゃんと毎回結末にたどり着く。まるでアートを見ているようです。

 しかしそれは、多くの場合、型のあるコーチングの積み重ねの先に生まれたものだと思います。

「型があるから型破り」「型が無ければ、それは単なる形無し」

中村勘三郎

 「単なる型なし」を避けるべく、「型破り」になっていけるよう、ぜひこれから提示するアイディアを活用してください

質問は命令です

 質問は命令です。そのことを意識していますか?

 「あなたの一番大きな夢は何ですか?」

 という質問の実態は

 「いまからあなたの一番大きな夢が何かを明らかにして、それについて私に話してください」

 という命令に他ならないのです。さらにいえば、命令形で言われたら拒絶もしやすいですが、質問だと何となく答えないといけない雰囲気になったりしませんか?

 だからクライアントによっては

 「何でそんなこと話さなきゃいけないの?冗談じゃない」

 とか思うのです。それがわかっているからコーチは

 「あなたの一番大きな夢について聞かせてもらえる?」などとお願い調にしたりします。

 とはいえ「質問は命令」。まずはそのことを再確認してスタートしましょう。

 では、私たちコーチはどうしたら良いのでしょうか?

 僕はかなりズケズケと質問するタイプのコーチです。noteで紹介しているコーチングやカウンセリングの事例を見てもらうと「よくこんなに踏み込むな」と感じるような質問も目にするのではないかと思います。

 なぜそれをするかというと、必要だからです。そしてなぜできるかといえば、信頼があるからです。僕のクライアントへの信頼。クライアントからコーチである僕への信頼、コーチングへの信頼があるのです。だから医者や弁護士に対して何でも話すように、コーチの質問にも答えてくれるのです。

コーチングの特殊性

 信頼感の他に、もう一つ大切なことがあります。それがReadyであるかどうかです。

 クライアントに心の準備ができているかどうかですね。いかにコーチに対する信頼感があっても、心の準備ができていなければ話せないのです。例えば、仕事でトラブルを起こしてしまい、落ち込んでいる。その状態で

 「あなたの一番大きな夢は何ですか?」

 と聞かれても、いきなり気持ちを切り替えて答えられないのです。人間はAIではありません。24時間いつでも質問に回答できるわけではないのです。人間は心を持っています。思考は感情に影響されるのです。だから話す準備ができていない話題に関していきなり話すことはできないのです。

 ましてや、コーチングでは不確かなことについて話すのです。コーチとの対話は、すでに出ている結論の報告ではありません。不確かなことをその場で語り、修正し、作り上げていく対話がコーチングです。

 単なる報告だけなら、気持ちが乗らなくてもできるかもしれません。しかしコーチングはクリエイトする場なのです。だからそのことに関してクライアントがReadyかどうかが問われるわけですね。気分が乗らないのにクリエイトすることは難しいからです。

 ということで、クライアントにコーチングの質問をするためには①信頼感を確立することと、②クライアントのReadyな状態が必要なのです。

一石二鳥な方法

 ①信頼感②Readyな状態の2つを一度に作る方法があります。それがマッチング&リーディングというものです。

 マッチング=相手に合わせること
 リーディング=目的に向けてリードしていくこと

マッチング&リーディング

 マッチングとは具体的には、相手の状態に合わせ、相手のが話したいことを話したいように話してもらうことです。そのことで、クライアントはあなたに信頼感を持ちます。そしてしっかり話をすることができたら、次の話題に移るためのReadyな状態が作れるのです。

 それをコーチングの型=構造につなげるようにリードしていけば良いのです。

 忘れないでください。

 相手をリードができるのは、相手にマッチしている(相手にあっている)からなのです。

 散歩の時に犬を繋ぐ紐をリードといいますね。

マッチングしていない

 犬との信頼関係がない。犬がReadyな状態ではない。そんな時に無理やりリードで引っ張ろうとしても、犬は進みません。これがマッチングなしにリードしようとしている状態です。

 最初に確認したように、質問は命令ですから、むりやり引っ張ろうとすると抵抗されかねないのです。

 もちろんクライアントは犬ではないですし、我々コーチはクライアントにリードをつけて引っ張る存在ではありません。しかし「相手との関係」や「相手の状態」に配慮しないまま、質問を投げかけ続ける行為は、相手にリードをつけてむりやり引っ張ろうとし続けることになりかねませんね。

 だからコーチングで大切なのは、まず相手にマッチングすること。そしてコーチングのプロセスへと段階的にリードすることなのです。そのやり方がわかれば、クライアントに合わせつつ、コーチングの構造=型を使っていけることになります。

 以下具体的に見ていきましょう

関心に関心を寄せる

 これから示すやり方を理解するために大切なコンセプトは、「相手の関心に関心を向ける」というものです。これはアルフレッド・アドラーのやり方です。

共感とは「相手の関心」に関心を向けること

アルフレッド・アドラー

 クライアントが関心を向けているものをクライアントと同じ視点から見てみようとすること。それが共感なのです。

 コーチングは「クライアントの関心」にコーチも関心を向けることからスタートしたいのです。具体例を見てみましょう

CO「今日は何を話しますか」
CL「最近仕事でミスが続いて、ただでさえ低かった肯定感がボロボロです。何とかしたいとは思うけど、上司がどう思っているかが気になってしまって、ネガティブなことばかり考えてしまいます」

テーマ

 コーチングでは望む未来=ゴールに明確にしたいわけです。そこからバックキャストして(振り返って)、何からスタートすると望む未来に進んでいけるのかを考えるのがコーチングの基本だからです。

 そう考えるコーチの関心は「クライアントが望む未来」に向いているわけです。

 一方クライアントの関心はどこに向いているでしょう。もちろんコーチングを受けているので、現状を変えたいという思いは何らかあると思います。しかしクライアントの語りに寄り添ってみると「ミスが続いて情けないという気持ち」とか「上司が気になって出てくるネガティブな思考」などに現在の関心は向いていそう、と思えます。

 そんな状態で

 「現状は一旦脇に置いて、理想の未来をお聞かせ願えますか?」

 とやっても、クライアントはReadyじゃないし、コーチやコーチングに対する信頼感も高まらないでしょう。

 ちなみに「現状は一旦脇に置いて、理想の未来をお聞かせ願えますか?」はコーチング的には正しいアプローチとも言えるのです。現状に左右されずに、理想の状態を聞き出して、それをゴールとしたいというのがコーチングの発想だからです。

 でもそれではクライアントには辛いプロセスになってしまう。なので、思い切って、まずは「関心に関心を寄せる」のです。例えば

CO「ネガティブな思考っていうのは?」(関心に関心)
CL「もうどうやっても上司の信頼は取り戻せないんじゃないかとか。だとしたら、今の会社に居続けてもしかたないんじゃないかとか。。。なんでこんなことになったんだろう。何が悪いんだろう」
CO「そっか。上司の信頼を取り戻すのは難しそうとか、だとしたら今後も会社にいてもしかたないんじゃないかと思ってる。。。」(繰り返し)
CL「そうですね」

関心に関心を寄せる

 ロジャーズの言うところの共感的理解の姿勢ですね。クライアントの関心に関心を寄せ、理解を深めようとすること。まずはこれをしてみて欲しいのです。

 そうすることで、クライアントは「話せた」「聞いてもらえた」という体験によって、少し落ち着いたりします。まずは第一段階でそこを目指すのです。

相手の関心を「経由」して目的に抜ける

 つぎに大切なのが、相手の関心経由でコーチングの目的にむかって進んでいくという発想です。

 例えばGROWモデルでコーチングをするなら

 G→R→O→W

GROWのルート

 というルートで進んでいくわけです。それをクライアントの関心経由でそのルートに乗るようにするのです

 クライアントの関心→「何か」→G→R→O→W

クライアントの関心経由でルートにのる

 クライアントの関心に関心を向けた後に、何をしたらGROWのルートに乗れるか考える。それができたら、相手に合わせつつ型を使ったコーチングになるのです。

 先ほどの例の続きを見てみましょう

CO「そっか。上司の信頼を取り戻すのは難しそうとか、だとしたら今後も会社にいてもしかたないんじゃないかと思ってる。。。」(繰り返し)
CL「そうですね」
CO「本当はどんな状態でいられたら良いと思ってた?」(小さなリード)
CL「。。。もっといい状態で仕事がやれて。。。」
CO「うん」
CL「上司にもちゃんとやってるって思ってもらえて。。。。」
CO「やってるって思ってもらえたら。。。」
CL「私も自信をもって仕事やれるというか」
CO「なんだろう」(具体化)
CL「もっと前向きにもなれると思う」

何か=小さなリード

 いかがでしょうか。こんな風に小さなリードを入れてみました。ここまできたらGに行けそうですね。

CO「もしそんな風に前向きになれた自分は、さらにどんな未来になったらいいと思うだろうね」
CL「うーん。本当は私は◯◯の仕事をやりたいと思っていて(以下省略)」

GROWモデルに接続

 こうなれば、あとはG=ゴールを具体化した上で、GROWモデルに沿ってコーチングを進めていけばいいわけです。

 これは基本のやり方の一つで、クライアントが現在の問題に関心を向けている場合は、一旦それに寄り添った上で、

 「それがどうなったらいい?」と小さく未来にリードするのです。

 その上で、その未来を足がかりにして

 「その状態になったら、あなたはその先にどんな未来を望むのでしょうか?」

 のような形で、現在の問題を超えた、理想の未来を描き始めてもらうのです。このパターンが使いこなせるようになると、ほとんどのケースがこのやり方で対応できます。

 今回はここまで。次回は別のマッチング&リーディングのパターンをいくつかご紹介したり、さらにそこから型を使って型を超えていくためのヒントなどお伝えしいたいと思います。

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