知識量やスキル量とコーチングの成果は関係ない?(前編)
コーチングスクールの中には、何年もかけて資格をとるようなコースもあれば、1日や2日でコーチングを学べるというクラスも存在したりします。
もちろん学べる内容も練習量も比較にならない差です。とはいえ、3年間学んでもクライアントにうまく関われないコーチもいれば、数時間のコースでも「わかった気になって」いい感じでコーチングするコーチもいるわけです。
そしてそんなコーチが案外うまいことコーチングして結果が出てしまったりすることもあるのです。もちろんそのコーチは器用だったり、センスがあるのだと思います。とはいえそれだけでしょうか?
そこにはコーチャビリティというものが存在します。
コーチャビリティ=クライアントに備わっているコーチングを活用する能力のこと
コーチャビリティが高いクライアントは、ちょっと話をきいてもらったり、質問されただけで、すぐに考えがまとまり、どんどん実行して、結果を出していきます。
セルフコーチングという言葉もありますが、コーチングはやり方がわかれば、ある程度はクライアント自身でもできるものなのです。コーチがいなくても自分でできるくらいのものですから、コーチの習熟度と関係なくクライアントが結果を出すことができるのは、それほど不思議なことでもないといえます。
今回の記事ではコーチャビリティという観点から、コーチングでの結果を出していくためのヒントを提供したいと思います。
①アンコーチャブル
僕がまだ駆け出しコーチだったころ、先輩コーチが吐き捨てるように
「あの人はアンコーチャブルだから」
と言うのを聞いたことがあります。最初その言葉の意味はわかりませんでしたが、話しているニュアンスから「何か否定的な意味合いの業界用語なのだろうな」と思いました。
きいてみると、アンコーチャブルとは「(コーチングを受ける能力に欠けているため)コーチングを受けることができない」という意味だと言われて、衝撃を受けました。
コーチングを受けることができない人がいるなんて!!
その後も何度もアンコーチャブルという言葉をきくことがありました。
目標をきかれても答えられないクライアントに対して「アンコーチャブルだ」と言っているコーチにも出会いました。それどころかゴールを明確に語れないクライアントに対して「意識が低い」と半ば説教をするコーチもいました。
拙著『人生を変える!コーチング脳のつくり方』にも書きましたが、僕は最初に受けたコーチングで、目標が書き換わる体験をしています。コーチングを受けることで、当時掲げていた目標が全く違うものへと書き換わる体験をしているのです。だからコーチングの中で、クライアントの内側から目標が引き出されるのは、当たり前のことでした。
だから平然と「アンコーチャブルだ」と言っているコーチは単にスキル不足に見えたのです。さらには、せっかくコーチングを受けようとした人に対して「アンコーチャブル」というレッテルを貼ることはクライアント人口を減らすことであり、コーチの首をしめる行為に見えました。
そんなわけで「僕は何があってもクライアントに対してアンコーチャブルとは言わない!」と意気込み、どんな人相手にでもコーチングを提供できるようにと努力を重ねてきたわけです。
だから基本的には「クライアントのコーチャビリティは問わない」という姿勢でここまでやってきたといえます。これは後述するように「コーチの能力でコーチャビリティを補う」「クライアントのコーチャビリティを鍛える」というアプローチです。
②コーチャビリティの中身
さてコーチャビリティとは具体的に何を指すのでしょうか。いくつか挙げてみたいと思います
ゴールを設定する力は、大切ですね。コーチングではコーチが勝手にゴールを決めるわけにはいきませんから、クライアントのゴール設定力が低いと、それなりに時間や手間がかかることになりますし、ゴール設定力が高いクライアントであれば、コーチングはどんどん進んでいきます。
ゴールが設定されたら、現状を観察する力も大切です。カーナビと一緒で、行き先を正確に設定することと、現在地点を正確に捉えることの両方が大切なのです。
そして直感力。無意識からの直感をしっかりとキャッチする力ですね。頭で考えることも大切ですが、無意識が生んでくれるアイディアも拾い上げて活用できると良いですね。
次に行動力です。一歩踏みだす力も大切ですが、行動し続ける力も必要ですね。そして行動の結果から学ぶ力、新しいやり方も試していく柔軟性もあると良いと思います。
そして自分の心身の状態をマネジメントする力です。特にリソースフルステイトといわれる、内外のリソースをフル活用できる心の状態をキープできると良いですね。
論理思考も大切です。打ち手を考える場合に、もれなくオプションを出せるのも論理思考の賜物ですね。そして各種フレームワークを活用できたりすると効率的です。また批判思考(クリティカルシンキング)能力があると、自分の思い込みにハマらずに済みます。
内省力を使ってしっかりと自分の気持ちを知り、俯瞰力を使って客観的にチェック。立場力を使って相手の視点や気持ちを理解し、コミュニケーション力で上手に協力していく。こんな力も必要です。
そしてベースには自己効力感と他者信頼感。大ベストセラー「嫌われる勇気」で当面の目標とすべきとも言われているのも、この自己効力感と他者信頼感なのです。これらがあるから高い目標でもチャレンジしていけるのです。
そして最後に、思い込む力とオープンマインドのバランス。動いていくには「これだ!」とか「やれる!」って思い込める力も必要です。でもそれにこだわりすぎずオープンマインドに人の話もきけること。大切です。
これら全てを高水準で持っている必要はありませんが、ある程度持っているクライアントは、ちょっとしたコーチングでもうまく活用して結果を出せそうですね!
③クライアントを選ぶ
ここからはクライアントのコーチャビリティというものを切り口に、コーチングでどうやって結果を出していくか考えてみましょう。
コーチングの結果が、
コーチの実力×クライアントのコーチャビリティ
で起きるとすれば、コーチが実力を上げることは大切ですが、それ以外にも以下の方法があるわけです。
この記事の最初に書いた「クライアントをアンコーチャブルだというコーチ」は、コーチャビリティの高いクライアントを選ぶことで効率よく結果を出していたとも言えるのです。
コーチャビリティの高いクライアントを選ぶというのはそんなに悪い話ではありません。どのサービスにも向いているお客さんがいるわけで、コーチングサービスに向いているお客さんを相手にするのは当然のことでもあるのです。
そもそも我々は多くの場合コーチャビリティの高いクライアントを相手にしているのです。基本的にクライアントはコーチングに興味があったり、受けてみたいと思っているわけですから(例外も多くありますが)。
この「興味」や「意欲」というやつは、コーチャビリティと深く関係しています。コーチングに対して期待していると、プラシボ効果が生まれやすくなります。コーチングを受けたというだけで、自分が変わるような気持ちになるわけです。それによって思考が前向きになったり、感情がポジティブなものになり、人生が好転していくこともあるのです。ですから
・コーチングで変化が生まれた事例の紹介
・コーチングが効果を生むメカニズムの説明
などをすることで、健全な期待をしてもらうわけです。もっとシンプルに
・期待していることの表明
をしてみることでもいいのです。
有料でセッションを提供することも、期待や「元を取ろう」という気持ちにつながるので、クライアントの意欲向上に繋がりますね。
話を戻して、積極的にコーチャビリティの高いクライアントを選ぶことについてですが、いくつか良い効果もあります。
まずはコーチングが楽しい。楽に結果が出る。成功事例が増えるのでコーチングに期待をしてくれる人が増える。クライアントもどんどん結果が出るのでコーチングへの印象が良くなります。
今でも僕は、クライアントに対して「コーチャビリティが低いからコーチングに向いてない」「あなたはコーチングを受けても効果が出ない」などと言うのは、言い過ぎであり不適切だと思っています。けれどもコーチャビリティの高いクライアントに対して積極的にコーチングを提供していくというやり方はありだと思います。
例えば僕もトップアスリートにコーチングをした経験があります。世界一は3人サポートしています。そういうと「すごいですね!」と言われることがあるのですが、誤解を恐れずに言うなら、実はトップアスリートの支援は簡単なのです。
もともと、目標も明確だし、意欲も高い。なんでも試してみるし、工夫もする人たちです。だから彼らに普段とは違う角度から考えてもらうようにするだけで、あとは彼らが気づいたことを勝手に応用をしていってくれるのです。
このように非常に能力が高かったり、モチベーションが高い人にコーチングできると、どんどん結果を出してくれますので、まだキャリアが短いコーチも臆することなく、チャレンジしてもらいたいと思います。もちろんコーチとしての能力が高いに越したことはありませんので、ぜひ実力を高めるための努力もお勧めします。
今回はここまで。次回は、コーチャビリティが必ずしも高くないクライアント相手でも結果を出していくために、コーチができることについて書いていきます!お楽しみに
僕たちと一緒に誰に対してでも結果がでるコーチングができるようになりたい方は
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