CBC ㊱「値上げができないコーチ」の人生最初のヒーロー(後編)

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前回のあらすじ
 ビジネスコーチのAさんは、定価での請求ができず、自分から割引を提案してしまうのをなんとかしたいと言います。コーチはAさんの提供している価値を明らかにしながら、定価での請求ができる状態になることを手伝ってきましたが。。。

あらすじ

 前編はスケーリングを多用しながら、クライアントが見落としていた「事実」を明らかにしていき、クライアントの「できる感」が向上するように関わっていきました。

 でもコーチは感じています。今回の件だけなら、これでやれるかもしれない。だけど、今後も似たような問題は起こるだろうな。

 無意識的に「遠慮する」「少しでも揉めそうなことを過剰に避ける」「自分の価値を自分で割り引く」。。。。

 これはAさんのライフスタイル(≒生き方のクセ)なのです。Aさんは過去の体験から、このような生き方を選択して、これまでの人生で繰り返してきたはずです。せっかくの機会だから、根っこの部分から変わるような時間にしてもらいたい。コーチはセッションの舵を切ります

CO「今回の案件の意思決定者は誰ですか」
CL「役員のKさんです」
CO「Kさんの決定に影響を与える人は誰?
CL「うーん。Kさんだけで決定できると思いますが」
CO「とはいえ、Kさんがこの人の意見は参考にしそうって人。。。。」
CL「あー。それなら、B部長とS部長」
CO「S部長っていうのは、さっき出てきた人?」
CL「そうです。冷静に見てる人です」
CO「あはは。じゃあやっぱり巻き込めたら良さそうですね」
CL「本当にそうだと思います」
CO「B部長っていうのは?」
CL「この人は、僕のコーチングのファンというか、最大の理解者みたいな人です」
CO「この二人が役員のKさんに影響を持ってる」
CL「はい」
CO「では人間関係を椅子で表現してみましょうか。。。あなたと役員のKさん。あとはB部長とS部長。この4人の関係性を椅子の配置で表現してみてください」
CL「。。。。。。(試行錯誤しながら配置中)。。。できました」

とは言え、まずは下準備からです。現在の人間関係を椅子で置いてもらいました。配置は以下の通りです


意思決定者たちとAさん

 まずは現在の関係性のチェックを進めます。

CO「では自分の椅子に座ってみてください。この椅子の配置でしっくりきますか?」
CL「はい。こんな感じです。Bさんとは一緒に未来を描いていて、そこにKさんは正面から向き合って、支援してくれてる。Sさんは決して否定的なわけではありませんが、離れたところから冷静に見ている感じです」
CO「Bさんに座ってみてもらえます?」
CL「(移動、Bに着座)」
CO「Bさんは、どうしてAさんのコーチングをこんなに推しているんだろう。。。他のコーチングと何が違うんだろう。。。何に触れたから、ここまでAさんのことを推すのかな。。。。Bさんだったら、なんて答えてくれそう?」
CL「。。。。Aさんは。。社員一人一人への寄り添い方がすごくて。。。誰に対しても愛情があるというか。。。だから斜に構えていたり、やる気がなかったメンバーが、大きく変わっていく。。。。んだと思います。。。。」
CO「あー。本当はこんなやつだったんだ!って思うようなことが起こる」
CL「本当にそうです。知らなかった顔が見えるというか、問題児だと思っていた人が、実はヒーローやヒロインだったみたいな」
CO「それはすごいですね」
CL「彼(Aさん)は、それを信じているんだと思います」

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 一番推してくれてるというB部長の話を聞いてみました。本当に素晴らしい関わりをしているのだと思います。だから劇的な変化が起こるのでしょう。

 まだ前半の続きをやっているように見えるかも知れませんが、コーチはこの後の「狙い」に向けて着々と準備を進めています

CO「役員のKさんやS部長は、Bさんからはどんな風に見えますか」
CL「KさんもSさんも、それぞれの視点からAさんのプロジェクトには、とても期待していると思います」
CO「では、一旦立ち上がって、全ての椅子を眺めてください。。。。改めて、Aさんがこの仕事を続けていく上で、誰がキーパーソンになると思いますか
CL「案外S部長なんだなと思いました。とても優秀なので、みんな一目置いているし、いずれは役員にもなっていく人だと思うので、こちらがやろうとしていることをちゃんと理解してもらっておきたいです」
CO「なるほど!ではやはり、その価値も含めてしっかり理解してもらえるといいですね!」
CL「本当にそうだと思います」

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 相手役を特定する。これはコーチングでもカウンセリングでも大事なことです。結局最終的には、特定の個人とどのようなコミュニケーションが取れるかで、人生が変わってくるわけですから、誰を相手にしたいのかを絞り込みたいのです。

 こうする中でSさんの重要さが浮かび上がってきましたね。

 さて、いよいよ準備が整ったようです。「狙い」に向けてスタートです。

CO「で。。。。価値を理解してもらおう。金額のことも含めてちゃんと伝えようとすると、Aさんの中で何が起こるんでしょうか」
CL「。。。。もやもやした感じが立ち上がってくるというか」
CO「。。。。重苦しい感じ。。。」
CL「はい。。。。」
CO「その感じは、Aさんを止めようとしている?」
CL「。。はい。。」
CO「その部分は、なんて言ってる感じがする?
CL「。。。。やめようよ」
CO「やめようよ。。。。。どうしてやめたほうがいいんだろう。。。。。」
CL「やめたほうがいいよ。。。。わかってもらえないんだから」
CO「わかってもらえない?」
CL「。。。。だれもわかってくれる人なんていない。。。」
CO「そっか。。。それでも言ったらどうなっちゃうと思ってるんだろう。。。。その部分は。。。」
CL「。。。。。。ひとりぼっちになっちゃう」

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 このように、リアルに(臨場感を持って)、実際の場面でAさんの中に何が起きるのかを見せてもらいたかったのです。現場検証と呼んでいます

 手法としてはフォーカシングも併用しています。心の声を聞き出すのにとても良いやり方だからです。

 ※フォーカシングは以下の記事などを参考にどうぞ

 うまく行きそうなので、つづきは椅子でやります。

CO「ではその自分の椅子を出して、そこに座りましょう。。。その自分はどこにいるでしょうか?」
CL「(配置して着座)」

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 新しい椅子が配置されたのは右端です

止める自分

 僕はふたたび落ち着いたトーンで、Aさんの心に問いかけるように

CO「この声って。。。。Aさんの人生のなかでずっとあったものですか?」
CL「ずっとありました」
CO「いつ頃生まれた声なんだろうね。。。。
CL「。。。。小学校上がる前。。。。小学校の時にはもうあったので」
CO「もうあった、というのは?」
CL「。。。。。その頃は。。。ちょっと。。。。死にたいというか」
CO「小学校で?」
CL「そうですね。。。。1年生の時から」
CO「はぁあああ。そっか。。。。。辛かったね」
CL「。。。。家が貧しくて。。。両親の喧嘩が絶えなかったし。。。。僕自身は親の期待に何も応えられないくらい、どんくさいというか。。。勉強も運動もなにやってもダメで。。。友達もいなくて。。。いつも一人で。。。どこでも。。。だから何のために生きてるんだろう。。。って」
CO「そうだったんだ。。。。。」
CL「家にいるのも辛くて。。。公園の砂場で一人で遊んでました。。。ずっと砂でお団子つくって」

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 壮絶な背景が出てきました。この状況だと、子どもは①自分OK②他人OKのやうな世界観を作りにくいですね。

 居場所がない、自分に肯定感や効力感が持てない、信頼できる人がいない。これだと前向きに生きていくのは難しくなります。

 そんな中クライアントはどうやって生き抜いてきたんだろう。なにがこの人を支えてきたんだろう?

 コーチはそれをきいてみました

CO「。。。。そんな中、どうやって凌いでいたの?そんな苦しい中で。。」
CL「やっぱり1人は辛いので、人に気に入られるように自分をよく見せようとしていたんだと思います。。。。情けないですけど、嘘ついてでも、仲間にいれてもらおうって。。。。」
CO「そっか。。。。だから『結局分かってもらえない』と思っちゃう。。。。』
CL「。。。そうですね。。。。。そうか。。。まだ残ってたんだな。。。」
CO「残ってた?」
CL「あー。あの時の思いがまだ残ってたんだなって」
CO「もう状況は違うのに。。。」
CL「そうですね」
CO「だから妥当な金額だと頭でわかっても、この自分はやめときなよって言う
CL「。。。そんなこと言ったらまたひとりぼっちになるよ、って。。。。そうか」

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 「嘘をついて人の輪に入る」

 それが彼の生き延び方でした。自分でない自分を作ることで居場所を手に入れようとしたわけです。

 苦しい選択だったね。と思ってコーチはため息をつきます。こうやって居場所を手に入れたら、それと引き換えにずっと怯えることになってしまう。本当の自分を出せないのですから。。。。

 だから「結局分かってもらえない」と思ってしまうのかな??

 とコーチは投げかけました。このことによりクライアントの洞察が進みます。そしてクライアントの発言に、コーチが言葉を出していくことで、クライアントの認知が動いていきます。

 「もう状況は変わっているのに、子供の頃の自分はまだ諦め続けている」

 そんな風にクライアントが自分自身を客観的に見れるところまで認知が変化してきたわけです


CO「他にはありますか?これによってあの辛かった時代を凌げた。。。なんとか乗り越えられたってこと。。。」
CL「。。。。。。あとは、近所のお兄ちゃんが。Hちゃんって呼んでましたけど。。。僕のことを可愛がってくれて。。。でも、彼はすぐに引越ししちゃって、また辛くなったんですけど。。。」
CO「そんなお兄ちゃんがいたんですね。いくつくらい上?」
CL「3、4歳上かな。すぐ近所で、とっても優しくて、むこうから声かけて遊ぼうって言ってくれてましたね」
CO「よかった。。。。どんな思い出がありますか?」
CL「二人で遊ぶときは、僕の話をすごくきいてくれて、すごいすごいって言ってくれて。。。そっかHちゃんだけは、僕のことを認めてくれてました。なぜだかわからないけど」
CO「そっか。。すごいな。。他には?」
CL「。。。。あ、公園でもHちゃんと一緒なら、みんなと遊べました。ちょっと下駄を履かせてもらったというか、僕だけルールを緩めてくれて、だから、みんなと楽しく遊べた。。。そっか、Hちゃんといたときは楽しく遊べてた。。。一緒に。。。」
CO「その人、勇気づけの達人ですね
CL「え?勇気づけ?」
CO「だって、ちょっとルールを変えさえすれば、みんなといっしょにこうやって楽しく遊べるよって体験させてくれたんでしょ」
CL「。。。。。。」
CO「A君も一緒にできることあるんだから、大丈夫だよ、って」
CL「はい。。。。。(涙)」

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 他には?

 のチカラは本当に偉大ですね。僕は「必ず何かあるはず」と思って質問しています。だって、誰かとの素晴らしい関わりがなかったら、今のクライアントが誰かに対してこんなにも頑張っていることの説明がつかないからです。

 そうして出てきてくれたのが、小学校4.5年生の勇気づけの達人だったわけです。正直な話、僕はここでホッとしました。これで先が見えたからです。


CO「きっと、そのお兄ちゃんが、あなたの最初のコーチだったんだね」
CL「。。え?」
CO「だって、ちゃんと話聞いてくれて、すごいすごいって言ってくれて、みんなとうまくいくように、サポートしてくれて。。。それってAさんのコーチング見てるみたいだよ!あなたはHちゃんからコーチとして一番大切なものを受け取ったんじゃないかな??」
CL「あ、あ。。。。(号泣)」
CO「(涙)。。。。どう思う?」
CL「。。。。そう言われたら、Hちゃんがしてくれたことがあったから、僕はやってこれたし、無意識的とはいえ。。。僕もそれがしたいと思って、ここまでやってきたんだと思います。。。(涙)」
CO「うん。。。それをさ、B部長もちゃんと分かってくれてる」
CL「はい。。。」

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 「そのお兄ちゃんがあなたの最初のコーチだったんだね」

 こういうのは僕の好きな「かまし」です。「えっ?」という空白を作っておいて、ドカンと感情が動く言葉を続けるのです。

 あなたのコーチングは、そのお兄ちゃんの関わりそのもの=人の命を救うようなもの、と言っているわけです。

 クライアントの涙腺が崩壊しました。僕もボロボロ泣いていました。

 それはB部長にまでちゃんと伝わっている!!!


CO「じゃあ、お兄ちゃん(Hちゃん)の椅子を置いてみよう。彼はどこから、子どもの頃の自分に関わってくれてた感じなのかな?」
CL「(配置)。。。ここです」
CO「では、子どもの頃の自分の椅子にまた座ってみてくれますか」
CL「(着座)」

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 せっかくなので、お兄ちゃんも椅子を出して可視化します。このポジションにも座ってみてほしい

お兄ちゃん

 椅子が出たのでまずは

CO「お兄ちゃんがここにいたら、なんて伝えたいかな?お兄ちゃんがいると思って言ってみてくれますか」
CL「。。。Hちゃん。ありがとう。Hちゃんがいなかったら、本当にどうなってたかわからない。。。大袈裟でなく、命の恩人です。。。苦しかったけど、Hちゃんの存在で救われたから。。。引越しするってきいた時は絶望したけど、でも『また会おうね』って言ってくれたから、周りとなんとか頑張ってやってこれた。。。。。」
CO「。。。。。いつかなんとかなるんじゃないかって。。。。希望だった
CL「はい。。。。今、コーチって仕事してて、それはHちゃんがしてくれたみたいなことで。。。。地上の星みたいっていうか、みんな気がついてないかけど、本当は輝くヒーローを発掘したいって思ってて。。。。あ、苦しかった僕にとっては、Hちゃんが、最初に会ったヒーローだったから」
CO「そっか。苦しんでいる人を手助けしたいし、その人がヒーローとなって、また誰かの希望になる。。。」
CL「はい。。。。涙」

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 コーチは引き続き、クライアントが役に立つ認知を持てるように、少しずつ言葉を足していきます

CO「では今度はHちゃんに入ってみましょうか。Hちゃんの椅子に座って。。。」
CL「(移動して着座)」
CO「となりのAくんを見てください。仲間はずれで一人で遊んでます。。。。どうして声をかけたんだろう」
CL「かわいそうだったから」
CO「じゃあ、彼が話していることきいてみて。。。。どうしてそれをきいて『すごいすごい』って言ったのかな」
CL「。。。。。。いろいろ考えてたし、話してくれる話が面白かったから。本当にすごいなって思って」
CO「そっか。彼はあなたに助けられたって。あなたみたいになりたくて、今はコーチとして頑張ってるって」
CL「あの。。。。変な言い方だけど、分かってたよ」
CO「わかってた??」
CL「A君だけが持ってる役割があるって。。。。よかったね。。。あんなに苦しかったのに、自分にしかやれないことを見つけたんだね。。。すごいね。。。。」
CO「。。。。。(涙)」
CL「A君が苦しんだから、その人たちを支えられるんだね」

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 やっぱりこのお兄ちゃんはすごかった。Aさんの人生を変えてくれた人だけありますね。

CO「A君への想いを言えましたか?」
CL「言えたと思います」
CO「じゃあ、今度は大人の自分に座ってみましょうか」
CL「はい。。。。(着座)」
CO「改めて、子どもの頃の自分と、お兄ちゃんをみて、どんな気持ちですか?」
CL「。。。。Hちゃんが最初のコーチで、ヒーローだったんですね。。。そして、子どもの頃の自分の体験が、いまの自分のコーチングの最大のリソースだということがわかりました。。。すごく安心というか、落ち着いた感じです」
CO「納得感がある。。。」
CL「はい」

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 どんどんと整理が進んできました。

 コーチは「ここだ!」と感じて、最後の一押しをしに行きます

CO「じゃあ、この子の分ももらわないと行けないね」
CL「え?」
CO「あなたは、子どもの自分のことを隠そうとしていた。。。。辛かった過去として、もしかしたら暗黒面みたいな感じで。。。」
CL「。。。。。。はい」
CO「だから、あなたは半分しか貰わなかったんじゃない?」
CL「。。。。。。」
CO「残りの5ゴールドは、この子の分なんじゃないの???」
CL「。。。。(号泣)。。。。はい」
CO「この子がみんなをヒーローにしてくれてるんでしょう?」
CL「はい」
CO「あなたとこの子。二人でやってるんだから。20ゴールドもらってもいいくらいだよ(笑)」
CL「はい(涙)」
CO「子どもの頃の自分になんて言ってあげたいですか」
CL「。。。ありがとう。お前のおかげだよ。だいじゅさんに教わったコーチングと、お前が体験したことの両方で、自分のコーチングができているから。。。本当にありがとう。。。辛かったのに、頑張ったな。。。(涙)」
CO「この子のためにも、しっかり稼いで来ないと(笑)」
CL「はい。本当にそうします」

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 あなたは子どもの頃の自分に負い目を感じていた。だから自分の価値を値引きすることを続けていた。だけれども、本当に価値を生んでいたのは、子どもの自分だったんだね!!!!

 だから、この子の分をちゃんと貰おうね!!!

 というロジックでクライアントに投げかけたのです。

 うまくクライアントにハマって、クライアントの表情はバッと切り替わりました。

 ということで、ここからは、また前半のコーチングの続きに戻り、どのようにS部長に相談するか、そしてどのように契約更新に臨むかを一緒に考えることになりました。

 僕が広めてきたコーチングは、こんな風にさまざまな関わりを通じて一緒に新しい人生を作っていくものです。僕はこんなコーチングカウンセリングをするコーチであることに誇りと喜びを感じています。

 後日、「こちらの言い値で新年度の契約が締結しました」と報告がありました。そのことも嬉しかったのですが、僕にとってさらに嬉しかったのは、Aさんがますます楽しそうにコーチングの話をしてくれたことです。やっぱりあなたはコーチングヒーローだったね。そして、あなたを見出したH兄ちゃんは本当にすごい伝説のコーチだったね!!!

おわり

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