コーチングはトランスと共に
先日10年以上ぶりに「コーチングと催眠」を教えるワークショップをやっていました。
僕は現在、催眠療法を行なっていませんが、それなりに催眠のトレーニングを受けていた時期があるのです。催眠を学んだことで、僕は無意識との関わり方について理解を深めることができました。そして今日でもそれをコーチングやカウンセリングに生かしています。
今回は「コーチングがうまくいっているとしたらそれはトランスを使えているからだ」と考えてみたらどうだろうというお話です。このように考えるだけで、あなたのコーチングやカウンセリングが変化していく可能性があります
トランス=変性意識状態。内的な思考や体験に集中している状態。催眠療法でもこの状態を使ってワークしています
無意識のリソースにアクセス
トランス状態に入ると、意識と無意識の間の「境界」が、覚醒時に比べて一時的に緩くなるのです。無意識のデータが「読み出し可能」「書き込み可能」状態になるのです。
普段は、無意識に蓄積された情報(過去の体験の記憶など)は意識に流入してこないよう制限されているのです。それがトランス状態になると、制限が弱くなるので、忘れていた体験や感情が浮かび上がってくるのです。
んんんんん????
これって、コーチングやカウンセリングでもちょいちょい起こっていませんか?突然イメージが湧いてきたり、ふと感情が訪れたり。。。。。そのときクライアントはトランスにいるんじゃないでしょうか。
そうなんです!!
例えば、クライアントが過去を思い出そうと、イメージの世界に足を踏み入れた時、もうそこはトランスの世界なのです。
もちろん
このようなやり取りでは、クライアントはトランスに入りません。コーチの質問には、意識が知っていることに関する報告をするだけで対応できるからです。
これでもまだクライアントはトランスに入っていませんね。ただし「一番楽しかったことはなんですか?」と「サマーキャンプで佐渡に」の間の一瞬に、無意識の世界にアクセスをしている感じがありました。
また「佐渡に」と言ったあとにも、一瞬佐渡島の合宿施設前の海岸のイメージが浮かびました。無意識の記憶が蘇ったわけです。
ところがここで、コーチの「それの何が楽しかったのでしょうか?」に答えようとするあまり「知らない子たちと、自然の中で〜」というとってつけたような回答をしてしまったので、プロセスが深まることはありませんでした。トランスから離れてしまったわけです。
これはコーチングではよくあることです。クライアントは無意識と繋がりかけているのに、コーチの質問に答えようとするあまり、そのつながりが切れてしまうのです。
これはちょっとしたTIPSですが、「それの何が良かったの?」系の質問をする前には、しっかりと具体的な世界を思い浮かべてもらう必要があるのです。それをしないで質問をすると、クライアントはとってつけたような回答をするしかなくなってしまいます。
トランスにいてもらう関わり
無意識のリソースから答えを引き出したいなら、コーチは「クライアントが無意識の世界に集中し続けることができるような関わり」をしていく必要があります。内側の世界に集中し続けてもらうような関わりをするのです。逆に言えば、イマココのコーチとのやりとり(コーチへの説明など)を避けていく必要があるのです。
Take2でみてみましょう
コーチは「サマーキャンプで佐渡に行ったこと」に対して「どんな情景が浮かんできますか?」と質問しています。
余談ですが、これはスキルとして質問しているわけではありません。クライアントの内面で起こっていることに意識を向け、一緒に同じものを感じようとして話を聴いている(=共感的理解の姿勢)ので、クライアントの内側に何かが湧き上がってきたのを察知しているのです。初中級のコーチでも、相手の世界に集中して聴いていたらそんな瞬間に出会うこともあると思いますし、経験を重ねると、そんなことが増えていくと思います。
コーチの関わりのおかげで、クライアントの中には、懐かしい情景が浮かんできます。
施設の目の前に続く緩やかな坂道。その先に広がる白い砂浜と浜防風。左手に見える木立。そしていくつかの岩。海の深い青。波の白さ。参加している子どもたちのはしゃぐ声。小屋で鶏がうごめく音。風の音。暖かい太陽。潮の香り。建材の杉の香り。。。。。
次々と記憶が繋がり、浮かび上がってきます。。。。指導員の方の声。。。表情。。。。忘れていた記憶が蘇ってきます。。。。
これほトランス状態です。僕はリラックスして自分の内側の世界に集中しています。コーチはその状態を守り、そして促すような関わりをしてくれます。だから僕は無意識につながり、その世界を再体験していくことができるのです。
そして、そんな中、急に感情が湧いてきました。「懐かしさ」「切なさ」のような感情でした。
コーチはその変化にすぐに気づきました。そして「どうしました?」ときいたうえで「その気持ちを感じていてもらえますか。。。。」と関わってくれたのです。
懐かしい思い出の中で僕は自由に遊んでいました。ちょっと高い場所から海に飛び込むような、普段はしない大胆な遊び。海に潜って魚を突くような難しいことにも果敢に挑戦しています。そして突いた魚を焚き火で焼いて食べている。。。
イキイキしている子どもの自分を見ていると、涙が溢れてきました。そして、すぐに涙の意味に気づいたのです。「学校苦しかったもんな」と。
今度は学校での思い出が蘇ってきます。一生懸命勉強する自分。優秀な友達の顔を見る先生の目。ケアレスミスをする自分。「詰めが甘い」という声。
両親はどうしてサマーキャンプに行かせてくれたのだろう。どんな思いで送り出してくれたのかな。そして「楽しかった。また行きたい」という僕の声をどんな気持ちで聞いてくれていたのかな。。。。
クライアントの中では、そんな風に無意識と意識とがコミュニケーションをとっているのです。
僕のNLPの先生の一人であるクリスティーナ・ホール博士は「引き出すことと、インストールすることは同時に起こる」と言いました。
無意識から引き出されたリソースは、(このあとも使える形で)自分の中にインストールされるのです。
ですからコーチは、使える情報を引き出して、クライアントの世界にインストールしたいのです。そのため、トランス状態をキープしたまま、「どうしてこの記憶を思い出したのだろう。。。」と次の探究の糸を垂らしているのです。
クライアントはその糸を頼りながら、再び無意識の世界に降りていきます。
「自由になりたいのかな?」という回答を受けて、コーチは、それがさらに深まるように
「子どもの頃の自分はなんで言ってそう?」と問いかけました。この言葉により、クライアントはまた無意識の世界に入っていきます。
現場には心地よい緊張感と言っても良いくらいの、深い集中があります。その空気をコーチはキープしています。
そしてその流れの中で、クライアントは子ども時代の自分と一緒に、銛をもって海の中で石鯛を追いかけるていきました。
無意識が提示してくれたアイデアに乗っていくのです。フォーカシングもゲシュタルトもプロセスワークもこのようなことをしますが、催眠的なやり方もまさにこうなのです。
そしてその体験の中から、自分に気づいたり、自分が生きたい人生に気づくのです。
AHA!体験は人生を変えます。たったこれだけのやり取りで僕の人生の角度は変わったのです。
いかがだったでしょうか。僕たちは常にトランスと覚醒を行き来しています。コーチはクライアントがうまくトランスを使って「無意識から引き出す、インストールする」が出来るようにサポートしたいのです。
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