現職のタイムラインを歩いてみよう
僕がコーチングを始めたのは2005年。まだ会社員だった僕は、チームメンバーにコーチとして関わりたくて、コーチングを学び始めたのです。
そのときにバイブルだったのが平本あきおさんの『コーチングマジック』です。1on1の流行でたくさんのビジネスコーチング本が出ましたが、『コーチングマジック』は発売から20年以上経っても、色褪せることない名著だと思います。
今回は、その中で紹介されている『現職史質問集』をつかったタイムラインワークをご紹介します。
現職史質問集をつかったタイムラインは①組織内での目標設定をするためにも便利なツールですし②タイムラインを使えるようになるための練習としてもちょうどいいと思います。ぜひ理解してマスターしてください。
現職史質問のフレームワーク
まずは、現職史質問のフレームワークをご紹介しましょう。これを覚えておくとコーチングが楽になります。
下図の6つの枠組みを覚えるだけですから簡単です。使えますので、ぜひ暗記してしまってください。
現職史というだけあって、これは『現職=今の仕事』を振り返った上で、未来を考えるための枠組みです。今の会社でやってきたことを振り返りながら、未来を考えるようなスケール感のコーチングをするときに使えますね。
ちなみに「キャリア全体を考えてみたい」というようなコーチングはもっとスケール感が大きいわけですし、「現在のプロジェクトをどうしたいか」考えるようなコーチングはもっとスケール感が小さいですね。
このようにさまざまなスケール感のコーチングを区別した上で、有機的に組み合わせて行うことの大切さも『コーチングマジック』では伝えられています。
話をもどしましょう。現職史のフレームワークは下が過去で上が未来です。基本は過去から質問していきますから、こんな感じになります。
こんな風に会社での今日までの出来事を振り返ってから、未来を思い描くことで、現職でのありたい姿を描くわけです。
過去をきくのは自己理解のため
①から⑤までの質問をせずに、いきなり
⑥未来「いつ頃までにどんな状態になることを望んでいる?」
と質問したって良いわけですし、GROWモデルなどでは、そこからスタートしますね。ではなんで①から⑤の質問をするのでしょうか。
それは自己理解を深めるためです。自己理解が不足している状態で、理想の未来を描くのは難しいのです。
自分は何者か?何が好きなのか?何が苦手なのか?どういう人たちといると良いのか?どんな業務が向いているのか?
そういったことの理解なしに、理想の未来は描きにくいですし、なんとか描いたところで、ピンとこないと思います。自分をよくわかってないわけですから。
ですから、ゴールを描くためにも、ゴールに納得感をもつためにも「自己理解」は大切なのです。
過去の何をきくか
自己理解を深めるためには、何に関して話をきくと良いのでしょうか。現職史質問集では4つの切り口を用意しています。コーチングを考える上で参考になると思いますから、解説していきますね
最初の①「きっかけ」ですね。きっかけについて質問するのは、多くの場合忘れているからです。コーチングでは忘れていることを質問するというのは大切な観点です。
しかも「きっかけ」は基本ポジティブです。無理やりさせられたというより、どちらかと言えば選んだ人が多いでしょうし、何かの思いをもってスタートした人たちも多いからです。
「どんな期待をしていた?」「どんな希望をもっていた?」
「何ができたらいいと思っていた?」「どんな未来を予想していた?」
などと質問するだけで、現在となっては忘れてしまった大事なことが思い出せる可能性がありますね。
次の②「当初」を質問するのは、多くの場合、忘れているからです(2回目!)。とはいえ①と違うのは、①は社外からの印象なのに対して、②は社内での第一印象な点です。社内に入った時の「思った以上に良い!」ところや「期待はずれ」なところ。それを思い出したいのです。なぜなら今は会社のさまざまなことが当たり前になっているからです。
「入社当初、衝撃を受けたのは?」「期待以上だったのは?」「嫌だなぁと思ったのは?」「ここは変えた方がいいと思ったのは?」「素晴らしいと感じたのは?」
こんな質問を使って、入社当初のフレッシュな目から見た大切なことを思い出してもらいたいですね。
そして③「業務」です。これは担当業務やプロジェクトのことですね。
「入社してからどんな仕事をしてきたの?」「他には?」「楽しかったのは?」「向いていると思ったのは?」「大変だったのは?」「成長を感じたのは?」「もっとやりたいと思ったのは?」「やってないけど、やりたかったのは?」
そんな話を聞くことで、自分が何がやりたいか、何が向いているのか、それはどうしてか、などの棚卸しができるでしょう。改めて話をきいてもらえると気づくこともありますから、ぜひきいてあげてください。
さらに④「人間関係」です。実は③と④はセットなのです。人間には傾向があって「業務」に関心が偏っている人と「人間関係」に偏っている人がいるのです。仕事では両側面ともに大切ですから、バランスよく聞くのがよいわけです。ところがコーチにも「業務」好きと「人間関係」好きがいるので、話が偏りがちなのです。ぜひ両方話を引き出してあげてください。
「これまでで良かったチームは」「残念だったチームは」「刺激になった人間関係は?」「また仕事をしたいと思うのは?」「離れた方がいいのはどんな人間関係?」
のような質問も今後に関してさまざまな気づきを生みそうですね。なにしろ私たちは人間関係によって、意識も変わるしパフォーマンスも影響を受けるのです。ぜひ、どのような人間関係を大切にしていくと良さそうかを明らかにしてあげてください。
現職史質問集では、こんな風に4つの切り口をつかって過去から大切な要素を引き出そうとしています。シンプルですが、よくできているので、ぜひ使ってみてください。
過去から何を持っていきたい?
過去の話をしていると、たくさんのトピックが出てきますし、そのなかからたくさんの気づきが生まれます。それを全部未来に活かそうとすると混乱することになるので、ぜひ厳選してみてください。
「忘れずに未来に持っていきたいのはどれ?」「未来にもっていく気づきを厳選するならどれとどれ?」「未来への指針を5つ選んでみましょう」
みたいな関わりで良いですね。『発散→収束』の原則ですね。コーチングでは「量が質を生む」と考えるのです。たくさんのアイディアを出してから絞り込むことで、質を上げていこうとするのです。
ぜひ、たくさんの気づきを拾い上げた上で、厳選して未来に役立ててください。
どれくらい先の未来をきくと良いか
どれくらい先の未来を描くかはクライアントに決めてもらってもいいのですが、クライアントには描きやすい未来と描きにくい未来があることを知っておいてください。
1年後が描きやすい人もいれば、5年後が描きやすい人もいます。10年後なら描けると言うもいれば、10年後なんて全然イメージできない人もいるのです。
ですので、一つ便利なやり方はクライアントに描きやすい未来の時点の出来事を選んでもらって、それを足がかりに、もう少し先を描いてもらったり、もう少し手前を教えてもらったりするのです。
クライアントが5年後が描けるなら、5年後をしっかり描いてもらいます。そうすると、そこからさらに5年後(=10年後)も描ける可能性があるのです。クライアントは5年後のイメージがつくわけですから。
そして5年後が描けたら「いまから1年後に何ができていれば、その5年後に行けると思う?」のような関わりで短期目標をつくることもできるわけです。
こんな風に未来は描いていけるものですが、どれくらい先の未来を描けると役にたつのでしょうか。『現職の未来』についてのいくつかアイディアを書いておきます
①1年後、年末、年度末
目標設定や評価は1年単位が基準になっていることも多いでしょうし、1年単位で考えているクライアントも多いと思います。ですから1年後や年末、年度末などの目標を明らかにすることは価値がありますね。
②次の部署移動のタイミング
例えば3年ごとに部署移動があったりするなら「その時までに何ができていると良いか」「そのときにどうなっていたら良いか」などと考えるとやりやすいですね。意味のある切れ目を探すというのは大切です
③昇進のタイミング
何歳までに昇進したいとか、その頃どうなっていたいというのも意味のある切れ目ですね。昇進や昇格するしないだけでなく、それと絡めて「自分はどうなっていたいか」「チームはどうなっていると良いか」を考えるのです
④入社◯◯年
入社して何年、仕事を始めて何年なども区切りとして考えてみてもいいですね。10年目までには◯◯になっていたい!などと密かに思っている人たちもいると思います。
⑤転職(退社)のタイミング
もう一つの大切な切れ目は「やめるタイミング」ですね。いまは終身雇用の時代ではないので、多くの人が転職をします。「どんなタイミングで退社しそう?そのときにどうなっていたらいい?」とか「どんな自分になっていたら、最高の状態で次に進める?」とか考えてみて、そこから逆算して、もっと短期的な目標を立てるわけです。
今日はここまで。次回はタイムラインの歩き方のポイントを現職史質問を例にお伝えします。
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